あかね雲
概要: サンローランの町から、炎神の御座までは、三つの国を越えていく。 そしてその三つとも、人族の国である。 地上を行くならばしばしば関門に引っ掛かり、通行税やら入城税やらを取られて難儀するが、空を行く者はそれら一切合財を無視して通過できる。 遥か上空を飛ぶ絨毯は、街ゆく人の目にも入る――はずだが、入らなかった。 魔王さまがあっさりと、隠蔽魔法と同種の魔法で、絨毯全体を覆ったのだ。 常ならば見られて...
概要: 宝石は、極めて換金に困る種類の財物だ。 それも、高価な宝石であればあるほど困ると言っていい。 多くの人間に価値を認められ、資産価値のあるとされてる財物は貴金属をはじめ、いくつかあるが、宝石はその一つだ。だが、換金の難しさではピカ一だろう。 なんせ、一律に重さと純度という素人でも判りやすい基準で取引される貴金属や塩とはちがい、宝石は、種類、色、形、大きさ、傷などでころころと値段が変わる。 つま...
概要: 旅は順調に進んだ。 目的地の最寄りの街で隊商と別れ、後は道なき道をただ歩いた。 こういう時、ジョカがいるのは本当に助かる。 道も目印もない土地を、目的地に向けてまっすぐ直進できる人間がどれだけいることか。 かれは、世界中の地を廻った魔術師だ。この辺の地理もおぼろではあるが、見知っている。 また、昼は太陽の方向を見て計算し、夜になれば星を用い、自分たちの方向を間違いなく見極める事ができた。 ...
概要: ――が、魔王はびくともしなかった。 「知ってる。今更なんだ?」 「い、いまさらって、そりゃ……」 「お前が、俺を好きでないと言い、それを通せるだけの力を持っているから、俺は真面目に口説いているんだろうが。今更なんだ?」 魔王から見れば、本当にいまさらである。 面倒な女に惚れたもんだと思いつつも、せっせせっせと口説いている最中に、その当の女が宣言したところで……そんなもの双方了解していただろうというもの...
概要: その日の晩、寝台の上で、少女は考えこんでいた。となりにはとぐろを巻いたコリュウがいて、大人しくしている。 「うーんんんん……」 別に一週間以上トイレで出るものが出ないで困っているのではない、念の為。 「よし、決めたっ」 色々考えた結果、行動力は無駄にある少女はすっくと立ち上がって部屋を出ていった。 無駄かもしれないが、コリュウもむくりと起き上がり、その後ろをぱたぱたと付いていく。 少女が向かった...
概要: 少女は、今日は事前に「魔王に教わりたい」と仲間に理を入れた上で、魔王に頭を下げた。 「今日も、教えてください」 それを見やる魔王はやや意外そうだ。 「授業料は、わかってるんだろうな?」 「うん……はい。キスでいいならいくらでも支払うから、教えてください」 神妙に、少女は頼んだ。 彼女も、考えたのである。 今回の依頼が終わった後に、忙しいなか時間を何とか捻出して誰かに教わるという方法もあるが、見知...
概要: 浴室から出た少女を待っていたのは、かつてないほど真剣に怒っている仲間たちだった。 「ごめんなさーい! もう二度とやらないからー!」 「当たり前だ!」 「当たり前です!」 「うー、コリュウ~~~っ!」 抱きつこうとしたが、すっとかわされる。 あれ。という顔になった少女に、飛竜の子どもは言った。 「……クリス。今回は僕も怒ってるからね! 魔王が結界ほどいて出てくるまで、ずーーっと待っていたんだからね!」 ...
概要: 少しエロあり。 治療師の仕事で忙しいジョカに代わって、リオンはてきぱきと旅支度をした。 さいわい、というか彼らは戸籍を持たない流浪民であったので、この土地に縛られていない。農民であったら自由に移動する自由がないが、彼らにはその縛りがない。その分、よそ者として警戒と排斥の対象ではあるが。 だから自由に旅もできる。 翻って言えば、この時代の農民は自由に旅行などできない身の上なのだ。 この国がひどい...
概要: 「たから……さがし?」 「ああ」 ジョカは頷く。 完全に予想外の頼みに、リオンは顎に白い指先を当てて考え込む。 「……あなたに頼み事をした魔術師は、なんでそんなことを頼むんだ?」 「とあるところに、とある魔術師がいて」 「ああ」 「それが、恋人に頼まれて一緒にとあるものを作り上げた」 「ほう」 「ところが、その魔術師が恋人とモメて恋人を殺してしまって」 「……」 「後に残された宝を放擲しようとしたんだけれども...
概要: 寝技は、抑え込まれる側の消耗が激しい。 魔王が一通り基礎の基礎を教えて体を離したときには、少女は立つこともできなかった。 前線の戦士職で小型のドラゴンとタメを張れる体力の持ち主である彼女が、である。 ぜいぜいげほっ……という荒い呼吸音が大気に響いている。 咳き込む音もまざるのは、抑え込まれて肺が圧迫されたためである。体を圧迫され、息ができなければ体力がどれほどあろうが急速になくなっていく。 ...
Powered By
FC2ブログ / copyright © 2015 あかね雲
Template By
GB