あかね雲
概要: 少女に話しかけた青年が立ち去るのを、近くの建物の二階に陣取った二人が眺めていた。 「……かかった訳じゃなさそうだな」 そうなら、少女はあらかじめ決めておいた符丁で合図する手はずだ。 「でも、ま、時間の問題でしょう」 そう言ったのは、変化の魔法で髪を黒くし、耳を普通にし、ついでに綺麗な顔も平凡なものにしたマーラだ。 ダルクの方も同じく青黒い肌を褐色に変え……「てもらった」。 悲しいかな、マーラは自在...
概要: 光が眩しいほど、影もまた濃い。 大地の勇者という名声の影は色濃く、少女のまわりには彼女を恨み、つけ狙う暗殺者が引きも切らない有り様である。 そんなある日、彼女は一つの依頼を受けた。 幽霊が毎日、決まった時間に現れ、町をさまよい歩くのだという。目立った害はないが、不気味であるし、何か不穏なことが起こる前兆かもしれない。それを調査してくれというのである。 この世界の魔物の中にはアンデッドがいるが...
概要: 少女は、掌を陽に透かした。 夕暮れ時の、終わる間際の輝きのように眩しい太陽の光を、そうやって遮る。 装備品をすべて外したただの村娘の格好で、クリスは橋の欄干にもたれていた。 長い黒髪が、風に吹かれてそよぐ。 健康的に日焼けした肌も、草紅で染めた指先を除いて化粧気のほとんどない姿も、純朴な村娘そのものだ。 継ぎの当たった木綿のドレスは飾りのほとんどない質素なもので、丈夫なのが取り柄の無骨な厚...
概要: 少女は家を出ると、視線を巡らせた。 以前、ここに来たときに、袖を引いた女の子の姿を探したのだ。 けれども、貧しく乾いた村には彼女の姿はなく、代わりに―――。 「ねえちゃん!」 全身薄汚れ、痩せた子どもが声をあげた。 「アルト……」 せいぜい七歳程度の背丈だけど、少女は彼がもう十二だと知っている。 少年はまろぶように駆けてきて、地団太を踏む勢いで言った。 「ティーは死んだぞ!」 少女は動きを止めた。...
概要: いつかどこかでこんなことになるのではないかとおもっていた。 額を貫かれ、リオンの体がかしいで、後ろに倒れた。 時間が凝固した。 床に、赤い血だまりが広がっていく。 それをジョカは目玉が零れ落ちんばかりに見開いて見ていた。 その中心に倒れているのは、誰よりも愛しい少年。 ジョカを救い、ジョカに幸福と光を与えてくれた最愛の人。 さっきまで、ほんの一分前まで生きて、話して、笑って隣にいた人は、...
概要: 町からおよそ五十ダズ(約一キロ)離れた場所で獣人族と別れ、そこから先は徒歩で村へと入る。 荒廃した村だった。 土の質が悪く、表土は乾いて砂と変わりつつある。畑に伸びるのはやせ細った雑草ばかり、家の壁はそこらの石と土で作った壁であり、容赦なく隙間風を通すだろう。 風で乾燥した土が舞いあがり、木々も家々も何もかも薄い土ぼこりで覆われていた。 村の周囲に張り巡らせた粗末な柵を見て、少女は一瞬顔を歪...
概要: ゼトランド王国―――少女に求婚したあの魔王の国は、人族からはそう呼ばれている。 ゼトランド地方にある国だから、というのがその単純な命名の理由だ。 一方、魔族がつけた名前というのもある。こちらの名前があまりにも散文的な名前のために、人族命名の名前の方がひょっとしたら有名になってしまったかもしれない。 その名はズバリ、参(さん)の国、である。 ……魔族の種族的性格というのは、豪放磊落というか、おおざ...
概要: 街道を行きかう人々が唖然としながら眺めている。 それはそうだろう。 巨大な狼二匹(狼族の獣人族ふたりが獣化した姿)の背に人が乗り、更にその上を小さな緑色の飛竜が飛び、更には地を駆ける巨大な狼の隣を、狼に劣らぬ速度で駆ける少女の一行など、目玉をひんむいて眺めるに決まっている。 一行は街道を西に進んでいた。 ビョオビョオと風を切る音がする。溶けていく風景の中に、目を丸くする人々の姿がある。 少...
概要: マーラがコリュウと念話で連絡を取り、場所を知ると、マーラはダルクの尻をひっぱたいて飛翔呪文を使わせた。 この呪文は、対象一つを虚空に浮かべ、それを動かす。その対象物の表面積が大きければ大きいほど、魔力を消耗する。 この場合の対象は絨毯で、三人身を寄せ合いつつ、ダルクはぼやいた。 「何で俺が……」 「飛翔呪文はつかれますからねー。ついでに、あなたがちゃんと覚えているかどうかも知りたいところですし?」...
概要: 二人は、場所を郊外の山地に移し、話を聞くことになった(かなりの距離だが、飛行手段をもつ彼らにはなんていうことはない)。 内密の話ですが、と区切った上でグリーンが語ったところによると、数年前、竜族の卵が盗まれたのだという。 「彼……ラズナーがその捜索に出された竜のひとりで、私はその協力を頼まれました」 竜族はその巨体がネックである。 多くの異種族が分布する世界であるが、現在覇を競っているのは人族と...
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