あかね雲
概要: 少女は額を押さえた。 少年の方を向いて、はっきりと、言う。 「あなたと結婚する気はないわ」 「それはあなたが僕のことを知らないからだ! 知ってくれればきっと……!」 そういう少年は、自分の身分と財に自信があるのだろう、結構なことだ。 子どもだが、良家の嫡男で十二ともなれば、そろそろ縁談や、言いよる相手が出てきてもおかしくない年頃である。 だが、少女は、そんなもので心動かされた事は一度もない。 「...
概要: そんな様を見れば、まあぴんとくるもので。 「倅は、どこでお嬢さんと会ったんだい?」 「あ……偶然道端で声をかけられて、少し、雑談したんです。……近くまで寄ったので、どうしてるのかな、と思ってお礼を言いに……」 答えながら、少女は決心していた。 実直なパン屋の先代主人。そして、パン屋を継いだ彼。 ……町で、パン屋の主といったら、実は結構たいしたものだ。 町で店を起こすには、いろいろな権利を買わなければな...
概要: 少女が(じつにわかりやすい)百面相をしている間。 彼も彼女を見ていた。 そして、思う。 ……可愛いなあ。 少々とうが立っているのが難だけど(村娘は十五前後で結婚が普通)、こんな女の子が町にいたら、絶対に求婚者が鈴なり状態になるに違いない。 町はずれに住んでいたって話だから、そのおかげで声がかからなかったんだろうな――町長の縁者だっていう話だから、素性もしっかりしているし、働き者っぽいし、何より...
概要: 予定通り、その翌日マーラは熱を出して倒れた。 いつものことなので、仲間は誰も驚かない。 「薬とかいろいろ買ってくるから。悪いけど、コリュウ、パルがいなくなっちゃったから、ここで待っててくれる?」 ここはごく普通の人族の町だ。 人族以外の人間が歩いていたら、目立つなんてものじゃない。竜族なんて論外だ。 そして、隠蔽魔法をかけてくれるパルは現在外出中だ。 少女が頭の上にコリュウを飛ばしていてもサ...
概要: 魔術師組が、少女につけておいた追跡糸(トレーサー)を辿ってそこに着いた時には、全ては終わっていた。 「遅いよー、ふたりとも」 笑いながら少女はいった。……およそ、二十人の男の山の隣で。 魔術師たちはぜんぜんまったく驚かずに歩み寄った。 「これで全部ですか?」 「うん。女の子たちを攫って、売り飛ばしてたみたい。喋れるよう、殺していないから、追及はこの町の警備隊に任せるわ」 その受け答えを聞いて、マー...
概要: 「へーえ。こりゃあ滅多にいない上玉だ」 そうかなあ。 村にいた頃はさほど可愛いって言われたことないんだけどなあ。 首をひねる少女だったが、それにはこんな訳がある。 少女の顔立ち自体は、美少女というレベルですらない。せいぜい中の上、可愛いけどそれだけ、と評される程度である。 なのだが――少女は、普通の村娘ではない。力量(レベル)の絶対値が高すぎた。 これが外的景観に与える影響としては、容貌の与え...
概要: リオンは目覚めた。 ……やはり、蛇である。 事態に進展はなく、リオンは変わらず、蛇のままだった。 大きさは大人の男の掌ぐらいの、小さな青緑色の蛇である。 一体どうしてこんなことに……と悩むまでもなく、心当たりはジョカの怪しい薬しかない。 ジョカは鍋をかき混ぜていた。 そして、リオンはその側にいた。 鍋の表面はぐつぐつと煮立っていた。 薬の成分が、揮発するなりなんなりして、鍋の側にいたリオンに...
概要: 最近ジョカは、怪しげな薬を(またも)作っている。 以前ひどい目にあったリオンとしてはそんな怪しいにもほどがあるものを作るなと言いたい。心から。 なので、濁った青色の鍋をかきまぜているジョカに、リオンは苦言を呈した。 「今度は何をつくっているんだ? また傍迷惑な薬か?」 しかし、ジョカはにやりと笑って、 「魔法使いの作る魔法薬……どんなものができるのか、リオンだって興味あるよな?」 ここでリオンは...
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