あかね雲
概要: ジョカとリオンが喧嘩をすることは、実は非常に珍しい。 意見の対立はしばしば結構な頻度であるが、論理的な理詰めの交渉に、王族のリオンも、三百年生きた魔術師のジョカも、慣れているからだ。 討論することはよくあるが、感情的なヒートアップが高じて討議が口論になり、口論が喧嘩に発展するようなところまでいくことは、ほとんどないと言っていい。 しかしその滅多にない事が起きた結果――リオンはジョカに簡単に負け...
概要: そうして町をうろついて小一時間もすると、樹木製の門が見えてきた。 そびえたつ、という形容がぴったりの、背丈はアランの身長の三倍は優にあるだろうまっすぐな背の高い木が二本。 木の間はアランの身長の少し上あたりで、青い布で結ばれ、その前にはいかにも門番という呈の人間がいた。ふさふさした毛皮。鳥獣系の、獣人族だ。 「……あれは、やっぱり」 「立ち入り禁止の、区画だろうな」 少年はいくぶん速足で近づきな...
概要: 蝶はまさに劇的な効果を表した。 店を冷やかせば、 「あ、勇者さまのお客様ですね! どうぞどうぞこちらをお持ちになってください。お代? いりませんよ!」 食事をしに店に入れば、 「勇者さまの縁者の御方ですね。どうぞこちらに。お席を用意させていただきました」 と、明らかに特別室を用意され、 用意してもらった宿に入れば、 「お待ちしておりました。どうぞ、こちらの部屋になります」 と、最上級の部屋に案...
概要: サンローランの門前には、入門を希望する人間の列ができていた。数はざっと数十人ほどか。 列ができる早さもなかなかだが、解消されていく速度も早いので、さほどのストレスはない。 サンローランの門の前には小さな小屋が五つあり、それが順繰りに、人を吸い込んでは吐き出していく。 驚くのは、並んでいる人間のなかに、ちらほらと異種族が見えることだ。 ほとんど……七割が人族なのは土地柄というものだが、後の三割は...
概要: サンローランの町は、この近隣随一の都市である。 異種族混在の街として、大陸中にその名を轟かせているその町は、ラクリア王国唯一の自治都市でもあった。 大陸全土から人を集め、大きな商業収入を上げているその町は、税収も莫大なものがあった。 その税収の見返りとして、自治権を勝ち取ったのである。 とはいえ、税率としてはささやかなものだ。 それでも、国庫に多大なる貢献をするほど、商業が盛んなのである。 ...
概要: 少女が出て行き、それに伴ってコリュウも出ていった部屋で、黙っていたパルは、すらりと優美な肢体のエルフに聞いた。 「……あんたは、それで、いいのかよ?」 「なにがです?」 微笑しながらの、動揺の見えない顔だった。最上質の水晶のように澄み切った。 その表情だけで伝わるものが、男にはあって、パルは頭をかいた。 「……わかった。あんたがそう言うのなら、俺っちも手伝う」 マーラが決めたように、パルも決めた。 ...
概要: ジョカ。 彼は、現在世界最後の魔法使いである。 同僚の魔法使いは二百年前に全員地上から姿を消した。 事情を知らない普通の人々の間では魔術師たちがいなくなった理由について、魔術師のみはやる病だの、魔術師狩りにあっただのという根も葉もない話が蔓延していたが、蓋を開ければ何という事はない。 とあるところにある魔術師の国、彼らの故郷から帰還命令が来て、魔術師たちがこぞって引き上げただけだった。 し...
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