あかね雲
概要: 「ジョカの初恋ってどんな相手だったんだ?」 何という事もない雑談の中でされた問いに、ジョカも気軽に答えた。 「優しくて包容力のある大人の女性だよ」 しかし……リオンの機嫌は急に悪くなった。 その形いい眉がきりりと急角度で吊り上がる。 「え?」 リオンは日常生活のなかに爆弾が埋まっている性格ではない。 リオンが怒る時というのは大抵ジョカにも理解できる理由があるときだし、更にそのほとんどは話し合えば...
概要: アランを元の町まで送っていく役目は、ダルクになった。 これは、残存魔力量の兼ね合いである。 マーラは魔法を侵入者相手に使用したせいで魔力がかなり減っていた。通常は一つか二つの魔法で済むところが、五つも無駄打ちさせられたのだ。 そうでなくともエルフは繊弱で、更にはダルクは遅参のため戦闘に参加していない。 彼に送迎役が回ってきたのは、順当なところだろう。 空飛ぶじゅうたん――なんてものに乗り、最...
概要: 「つ……っ!」 心臓がずきんと痛んで、少年は動きを止めた。 何らかの身体的要因の痛みでない事は明らかだった。 拒絶反応だ。 宿主である少年が、かれを、拒絶し始めている。 かれはサンローランから半里も離れていない山中にいた。持てる手管、欺瞞を駆使して逃げのびた。だが、それを自分の力だと思うほど、自惚れてはいない。……見逃してくれたのだ。 あれぐらいの足どめで彼女が来ず、飛竜も追撃に来なかったのは、...
概要: ミーティングの席で、仲間からの視線をひしひしと感じながら、少女は口を開く。 「アランとは――お別れしました」 「……別れたの?」 意外そうな顔で言ったのは、コリュウだ。 「冒険者辞めて結婚しようって言われたけど……無理だよー。無理だって。だって、私自身が冒険者でいることを望んでるんだから」 逃げたいと思っても、結局のところ、逃げられやしないのだ。 それに――。 あの少年を思う時、胸がざらりとするのを感...
概要: 少女は、ゆっくりと、腕にかかったアランの手を外す。うなだれたまま、言った。 「……ありがとう、アラン」 少女は、顔を上げた。 逃げたいと思っていた。 いつの頃からか、深く胸に巣食っていた。 少女は天を仰いで、胸を開き、大きく呼吸した。 「勇者」という名声と期待。そしてその影で寄せられる心ない中傷が、いつの間にか、彼女に、逃避への渇望を育んでいた。 逃げたかった。 もう、何もかも終わりにしたか...
概要: 「怪我はない?」 それが、アランの第一声だった。 当たり前と言えば当たり前の言葉なのだが、それに新鮮な驚きを感じてしまったのは、少女が『人から労わられる』経験に乏しいからだろう。 前衛の戦士職である少女だ。パーティの中で一番体力があるのは彼女で、怪我に強いのも彼女なので、『労わる』経験は多くとも、その逆はほとんどない。 多少の傷は放っておけばすぐに治るし、あんな敵、彼女から見ればただの雑魚だ。...
概要: 彼らは、ここ一番での彼女の直感力を信じている。特に、『人』というものの関係において、彼女の直感はかなり信頼がおけた。 ダルクが尋ねる。 「マーラ。聞いておきたいんだが。空の大神を召喚するのは、何かまずいことがあるのか? 空の精霊族は、頼んだらそれをやってくれるか?」 彼が聞いているのはこういう事だ。 どこまで譲歩できるか? 近いうち、彼らはまた、接触してくるだろう。そのとき、交渉材料としてど...
概要: その日の夜、彼らの家で、戦後のミーティングが行われた。 仲間同士の情報の共有と整理を目的としておこなわれるこれは、パーティメンバー全員の集合を待って行われた。 その場には、留守で間に合わなかったダルクも、非戦闘員のパルも集まった。 打ち合わせが行われたのは六人掛けの食卓が置かれた食堂で、普段は食事する場所が即席の会議室になる。 全員集まった席上で、少女は端的に事件のあらましを語った。 「今日...
概要: 最初から最後までエロのみです。ついかっとなってやりました。後悔はしてません。 やはりどこかで孤独を怖がっているのかもしれない。 ジョカはリオンの体温を感じながら眠るのが好きだ。 側に人肌があると落ち着くし、それがリオンであればもっと安らぐ。 もっとも、別の意味で落ち着かない気分にもなってしまうけれど。 そんなわけで、ジョカが目覚めた時は隣にリオンのぬくもりを感じることが多い。寝台を別にするの...
概要: アランが目を覚ました時、真っ先に目に入ったのは、緑の髪と尖った耳を持つ、優美な美形だった。 ……エルフだ……。 ぼうっとした頭でそんなことを思い、噂通りの優しげで気品ある美貌にうっとりする。 「目がさめましたか?」 アランは直前の記憶を思い出し、はっとなった。 「ティルト!」 思い出した……かれは! 「ティ、ティルトが……いきなり精霊族の人に暴力を……!」 「わかってます、すべてわかってますから」 緊迫...
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