概要: 魔王は、難しい顔で一歩を踏み出した。 「クリス……聞かない方がいいぞ。基本的に、神は、人に、嘘は言わん。言う必要がそもそもないからだ」 騙してまで奪い取ったりする必要がないので、神は基本的に、嘘は言わない。もちろん、その他の特別な理由があるのなら、別だが。 だから、この場の選択次第で破滅するという話もまた、本当なのだ。 コリュウは深刻な顔で少女に囁く。 「クリス……聞かないほうがいいよ」 「私もそう...
概要: 人族の出自が、家畜であったことは、まあいい。それが頸木(くびき)を脱して以後、繁殖を繰り返し、数多くの種族を滅ぼしてはその領土を奪い取り、ついには自らの創造主である魔族に挑戦状を叩きつける資格を得たほどに力をつけたことも、いいだろう。 ――だが、その結果、世界をも危うくしていることは、よくはない。 では、自分たちは、どうするべきだったのか。遥か昔、家畜の身に甘んじて、魔族の食卓に上っていれば良か...
概要: 人族の歴史書は、意識的に破棄されてしまったので、その種族がいつ生まれたのか、正確にはわからない。 確かなことは、ただふたつ。 人族は、魔族の手によって作られ、生まれた、家畜であったということ。 もうひとつは、およそ五百年前、その家畜であった種族は、魔族との長い権利闘争の末に、「ひと」としての権利を勝ち取ったということだ。 魔族は、「自ら勝ち取る」ことに至上の価値を見出す種族だ。「元奴隷」とい...
概要: 炎神はフランクに片手を上げる。 「や。久しぶり」 「久しぶりです、エーラさま!」 少女は鳥から飛び降りると、満面の笑みで駆け寄った。 初めて炎神と出会うフィアルとダルクは茫然自失している。 彼らは、その人生において、初めて人を唖然とさせるほどの美貌というのを見たのである。 一行が乗っていた鳥は、地面に吸い込まれるように消え、ダルクは両の足で地面に降り立つ。 それでもまだ茫然としていた。 炎神...