概要: 「――死霊魔術を、使えるのであろう? 我が妃に言を語らせることはできぬのか」 玉座の間で、臣下が集まる中、そう求められた時――宮中の賑やかしにして道化師は、答えに窮した。 「……願いますれば、英名なる魔王さま。それは、すべきではありません。死者復活など――」 「そのつもりはない。私が求めるのは、妃を殺した人間についての、情報だ」 「……それもまた、難しい事かと思われます。まず第一に」 道化師は、自分の体を撫...
概要: その部屋は相変わらず、赤ん坊の泣き声が鳴り響いていた。 「おぎゃああああああん!」 「……乳母を探しにいきますか」 「にしても、泣き止まないと……」 さすがに、泣き続けている赤ん坊をつれて移動することは避けたい。置き去りは論外だ。 「ボク、厨房からミルクを貰ってこようか?」 赤ん坊の声というのは、神経に障る。 神経を苛む金切り声の泣き声から逃げ出したい気持ちが透けているが、コリュウの提案はありがたい...
概要: ダルクと、ダルクに担がれたマーラがユーリッドの部屋に駆けこむと、赤ん坊を覗き込んでいたコリュウが驚いたように振り返った。 「……ど、どうしたの?」 緊迫感のない、日常の延長にあるきょとんとした顔。 それが、二人の衣服についた血に気づくと一瞬で引き締まる。 「なにがあったの?」 ほんの一瞬――ダルクは激しく迷った。 今はまだ、この幼い竜は何も知らない。赤ん坊だった自分の命を救い、育ててくれた母が無惨...
概要: インホウの目の前で、弟は長年押し殺してきた感情を口にする。「なんであの二人は! ……隠したり恥じ入る気配もないであんな風にいられるんだろう……」「……恥じる?」 インホウは弟の言った言葉に目が開ける想いだった。 弟は何気なく言ったに違いない。だが、自分の心の中に漂っていた靄は、それだったのだ。 必死になって自分でも否定していた感情。 ――同性愛なんて恥だ。 恥ずかしいこと、だ。 隠してしかるべきことで、...