概要: 客人と別れたインホウが部屋に戻ると、そこには悩みの種の本人がいた。「よっ、兄貴」 先ほど別れたときとは別人のような明るい顔で片手を上げて挨拶する弟の姿に、インホウは思わず目を疑った。 だって、さっきの今である。 なのに、弟の表情も纏う雰囲気も何もかも見違えるようだ。 更に言えば、インホウのところに弟が自ら進んでやってくるとは、思ってもみなかった。 インホウの知る弟の取るだろう行動をいうと、こうだ...
概要: 今回、長いです。 ――不思議なことに、彼女には理解できた。 これまで何度も助けられ、死線をかいくぐり、真偽を見つめてきた力。直感とでもいうべきものが、彼女に告げていた。 今日、ここで、自分は死ぬ――と。 口元に薔薇のような笑みを浮かべ、市井の民から見れば豪華な、王妃としては簡素な緑のドレスを身にまとい、彼女はたたずんでいた。 「産後の疲労も抜けきっていない女一人に、大層なお出迎えね? どうもありが...
概要: マーラは、いつの間にか、彼女とともにあることに幸せを感じていた。 ――私が死んだら、仲間の元へ戻って。 クリスはそう言っていた。体が弱いエルフなのに、一緒にいてくれてありがとう、でももういいのよ。そういう意味だということは、聞かずともわかる。 ここからサンローランまでは、すぐだ。 魔王城に戻ればゲートも設置してあるから、マーラひとりならそれこそすぐに帰れる。 ……でも、帰って、どうする? マー...
概要: コリュウの言葉は、マーラの心も揺らした。 そう――相手は、「あの」クリスを殺した人間なのだ。 そして、おそらく、魔剣を奪っている。あんな価値のあるものを奪わないはずがない。世界中の剣士が垂涎の眼差しで見るものだ。 この世で、たった十二本しかない神器だ。 魔力が無く、武具召喚が出来ない彼女でも、常に呼び出せるたったひとつのものだ。 彼女が魔剣を呼びだして反撃しなかったはずがなく、 死体となった...