目が覚めた時、私は寝台の上に寝かされていました。
そして、目の前には、あの男性がいました。
「私の言葉がわかるか?」
私は驚きました。男性が喋ったのは、明らかに日本語ではありません。中高六年も習っていながら英語もできない私だというのに、その意味がすんなり理解できたのです。そのうえ、
「わ、わかります」
私の口からも、自然とその言葉が流れました。
「え? ええ? な、あ、あいうえお!」
驚いて日本語を喋ろうとすると、ちゃんと日本語が出てきました。
それでいて、「異世界言語」を喋ろうとすると、脳が切り替わる感じがして、喋ることができます。
数ヶ国語を喋れる人はその言語に脳を切り替える、と言いますが、こういう感じなのでしょう。
私のような人間が英語を理解する時のように一々単語を日本語に翻訳して〜という作業を行うのではなく、脳をまるごとその言語用に切り替えるのです。
今のように。
こんな翻訳機能を誰が与えてくれたか。
前後の事情から勘案すれば、すぐに答えは出ます。
目の前の男性がしてくれたのでしょう。
そして……今まではびっくりしていてそれどころではなかったのですが、綺麗な人でした。整っていて、女性的な顔です。こういうのを中性的イケメン、というのでしょう。
「あ……ありがとうございます」
「異世界から来たようだな」
わ、わかっちゃいますか。
固まってしまいましたが、ばれているのなら隠す必要もないですし、何より私にこんな便利な翻訳コ○ニャクを与えてくれた人です。隠すだけ無駄でしょう。
私は頷きました。
「……はい。たぶん……そうなんだろうなと思います」
「服装からして、間違いないだろう」
珍しいですか……普通のOLの出勤用スーツなんですが……そうですよね、この世界からすれば珍しいですよね。
男性は、麻製に見えるニットのような服と綿製に見えるゆったりしたズボンをはいています。
デザインが、日本と少し、似ています。古代ギリシャ的な雰囲気がありますけど。
しかしそれにしたっておかしいです。
私は勇気を出して聞いてみました。
「――この世界では、異世界から来た人ってよくいるんですか?」
ふつう、変な服装していても、異世界から来た人、なんて発想にはなりませんよね。
なら、この世界では私みたいな人がたくさんいるんじゃないでしょうか。
しかし、男性は笑いました。
「いいや? 異世界からの訪問者など、レイオスの悠久の歴史あるかぎり、君しかいないな。私にとって初めて見る存在だし、この地上に生きるすべての同胞にとってもそうだろう。その辺は、むしろ、君の世界に近い。架空の世界の概念としてはあっても、実際にはいるはずがない、というものだ」
「……小説で異世界ものはよくあっても、異世界人はいない……ってことですね……」
異世界からの訪問者なんてものは架空の存在。
それはわかりましたが、さっきからの疑問はそのままです。
それならそれで、どうしてこんなにあっさり――?
「じゃあ、何で私がそうだと……」
「一目見れば誰でもわかる」
……なんででしょうか。
「まずその黒い目、黒い髪、黄色い肌」
き、黄色い肌って……地味に傷つきますね。確かに日本人ですし黄色人種ですけどっ。これでも色白で通ってきたんですよ。
あれ?
男性が言うのはつまり、人種的特徴ということでしょう。
確かに……と私は男性を見つめました。
男性の肌は、透き通るように白いです。日本人の色白とかとは根本的に違います。黄色人種とは違う色ですね。
なのに、それでいて肌理は細かいです。肌にぼつぼつもシミも肌荒れも見えません。白人の青年男性で、これってとても珍しいです。白人さんのお肌って、荒れやすいですからね。
そしてショートカットの髪は……灰色? いえ、光っています……光を反射してきらきらしています。こういう色を形容する日本語は、「銀」でしょう。
見事な銀髪です。銀髪ですよ! 初めて見ました。
そして瞳は……グレイ。灰色の目です。うわあ……こんな目も、初めて見ましたあ……。
顔立ちは、はい、鼻梁が高いです。でも、西洋人系かというと、疑問が残ります。
西洋人ほど彫りは深くないですし、アクも強くないです。たぶん、顔立ちだけなら日本人の中にも探せばいるでしょう。ただ、珍しい顔立ちであることは確かですけど。
そう、西洋人と東洋人がミックス……混血したみたいな顔です。
もっとも、顔なんて個体差激しいですから、一概にはいえませんね。純日本人で、まるで南米系みたいな顔の方も知ってますし。
「私たちは、全員が、銀の髪と銀の瞳、白い肌を持つ」
この世界では人種的差異はなし? 単一民族ですか。
鎖国時代の日本みたいな感じですか?
そりゃー日本人の黒髪黒目は、目立ちますよねえ……。
ところでどうでもいいことですが、そのグレイの瞳は銀の瞳ってこっちの人は言っているんですね。じゃあ郷に入っては郷に従え、私もそう言いましょう。色としては同じで言葉の言い換えにすぎませんし。
……でも、それだけとも言えますよね。
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