私は、わたしを実験動物にするために連れに来た人がルーランの一言で帰っていくのを、信じられない思いで見つめました。
そして、その目をルーランにもどします。
……この人はどんだけ偉いんでしょうかねー。
というか、あの態度からして、いつもいつも諦めさせられてきたんでしょうねー……アワレだ……。
迎えの人がすごすごと帰ったあと、戸惑ってしまった私はルーランに確認しました。
「い、いいんですか?」
「構わん。お前の価値など、元々さしてない」
「そ、そうでしょうか……」
「魔力もない、科学技術は優れているようだがお前自身にはその原理の知識もない、お前が優れているのはせいぜいその生殖機能ぐらいだが、我らに応用できるようなものでなし、価値はほとんどない」
日本で異世界人がやってきたらすごい価値だと思うんですが……いえ、魔法とか使えない日本人と変わらない普通の人がやってきたら……よくよく考えてみたら、あんまり価値ないですね。
六十億人も世界には人がいるわけで、それに一人加わっただけ、って感じですか。異文化交流して知識を活用しようにも、私、テレビの構造すら知りません。
異世界物では知識でいろいろやるのが多いですが、普通の人間はあんな知識ありませんて! 私の中に利用できる科学技術の知識って……ほとんどない、ですね。
と、そこで、私のお腹が鳴りました。
ぐーぎゅるるー……。
う。
そういえば、異世界トリップしてからかれこれ体感で半日ほどですが、なんにも食べてませんよ……。
思わず固まっていると、ルーランが吹き出しました。
「来い。食事だ」
「はいっ!」
尻尾があったら千切れるまで振っていたでしょう――だってお腹すいたんですもんっ!
ルーランの後ろをてくてく歩いて、別室に向かいます。
ちなみに床は、木でできています。丸太ではないですよ、木挽きして板になっている床です。しかも、加工してあるっぽいですね。
湖の上に建っているのですから、生木ではたちまち腐るはずです。
表面はツルツル。水をはじくっぽいです。ガラスコーティングしてあるフローリングの床、というのがいちばん近い質感ではないでしょうか。
……加工が魔法でも科学でも、総合的な技術水準はかなり上じゃないでしょうか。
ちなみに私が寝かされていた寝台は、足がついていませんでした。蔓草を編んだようなベッドで、柔らかすぎず固すぎず……絶妙なバランスでした。
形状としてはベッドというより和布団に近いです。見た瞬間うわお異世界! とか思いましたね。
案内された別室にはテーブルと椅子がありました。
テーブルの高さは普通の洋式テーブルと同じぐらい。日本的な座敷机みたいに低いものではありません。
椅子も、多少デザインに異国っぽさを感じないでもないですが、普通にオシャレな椅子として地球で売っていてもおかしくない物です。
やっぱり、二本の腕と二本の足があるのですから、家具の形状は似たようなところに行きつく、ということなのでしょう。
「座って待っていろ」
と、言われたので待ちます。テーブルは二人掛けぐらいの小さなもので、椅子もふたつ。
一人暮らしっぽいので、来客用でしょうかねー。
奥にキッチンがあるのか、やがて出てきたルーランは穀物の粉を練って焼いたもの……見た目も食感もナンに近いものでお肉を挟んだ物を持ってきてくれました。
「いただきます!」
お腹が空いていたので遠慮なく食べます。え? 異世界のものを食べて大丈夫かって? 今更です。
帰る道が見つからない以上、しばらくはここで暮らすのが確定なんですから。餓死したくないですから気にしないのが勝ちです!
遅かれ早かれ何かを口にしなきゃ餓死するんですから、駄目だったとしても諦めがつきますしね。駄目ならどうせ餓死なんですから、女は度胸です。
ナン風サンドイッチは、普通に美味しかったです。
お水は何の変哲もない水ですが、それがなんて美味しく感じられたことか! 半日ぶりのお水は、乾き切った体を潤してくれました。
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