うかつなことに忘れかけていましたが、ルーランたちと、私たちは、種が違うのです。
そして私の側はそれがわかりませんが、レイオス人からみれば私は一目で「別種」とわかる存在で……。
私の全裸を見てもルーランは全くそそられない……どころか気持ちが悪い、と。
……オランウータンのメスの裸を見ても、そそられないのと同じですね……。いえ、中にはそういう嗜好の方もおられるでしょうが。
種が違うから、「問題外」なのです。
泣きそうなのをぐっと堪えつつ、私は服を着こみました。
着ている間、ルーランは目をそらしていてくれました。理由は……私の裸は気持ち悪い、ということなのでしょうけど。
「……助けてくださって、ありがとうございました」
ヒドイことも言われましたが、命の恩人は恩人です。
ルーランがいなければあの水中生物につかまって食べられていただろうことは間違いなく……人としてお礼は言わねばなりません。それが人の道です! イヤですが!
「外を歩きたいのか?」
「え? ……ええ、はい」
ルーランは着替え終わった私に手を差し伸べました。
意味? それがわからないほど馬鹿じゃないですよ?
ルーランの手を取った瞬間、私の視界は切り替わり――次の瞬間には、湖の対岸から今までいたログハウスを眺めてました。
「うっわあ……」
初転移です、初瞬間移動ですよ!
呆気なくできちゃうもんですねえ!
感動に打ち震えてログハウスを眺めていると、ルーランが声をかけました。
「行くぞ」
「え?」
「散策したいんだろう?」
そ、そうです。そうです。
「でも一人でできま……」
「半径百歩以内に大型の動物が数十匹いるが、なるほど、ひとりでなんとかできるのか、剛の者だな?」
「……一緒にいてください」
しくしくしくしく。
私はお願いしました。
湖の周りは、木々もありませんし(根っこは張りだしてますが)比較的歩きやすいので、湖の周りを歩くことになりました。
湖を取り囲むここの森……獣道ぐらいしかないですからね。
人の手が、まるで入っていない森です。とてもじゃないですけど素人の小娘が歩ける道じゃありません。
「この湖、大きいですねー」
よっ。張りだした根っこをひょいとまたぎながら話しかけます。
「そうだな。精霊が守っている、清浄な水だ。ここ自体は精霊の領域だが、ここから下流の水は数多くの森を潤し、豊かな恵みをもたらす。それは人間の領域にまで及ぶ」
「そういえば、キール……精霊ともめたらあの子を頼るんでしたっけ」
「――あの子?」
私は口元に手を当てました。
「あ……ごめんなさい。実年齢知らなくて。彼っていくつなんですか?」
なぜだか、ルーランの眉に皺が寄りました。
「……十歳だ」
「……地球人と変わりませんね」
「どんな生き物でも、無力な幼生時代は短いだろう。我々の寿命は地球人とは比べ物にならないほど長いが、幼少期の成長速度自体は地球人とほとんど変わらない」
言われてみれば確かに、どんな生き物も子ども時代は寿命に比べて短いです。私たち地球人も、百年の寿命ですけど、大人になるまで……生物界での『成人』の基準である性的に成熟するまで十二、三年です。
馬なんて生まれてすぐ立てます。自然界の生存競争を勝ち抜くためには、無防備な子ども時代が短いことは必須といえます。
とはいえ……。
「あの子、十歳なんですか!?」
どんだけ成熟早いんだレイオス人!
驚倒していると、そっけなくルーランが言いました。
「あれは異常だ。気にするな」
「そ、そうですね……」
あれが標準、とか言われたら悲しいです。
子どもって成長に個人差大きいですからねー。特に精神的な面は。
早熟と未熟が「子ども」のくくりで一つの箱に詰まっているんです。
小学校の頃……。クラスでノートの使い方でつるしあげられて教師にまでチクられてた子がいましたが、その内容がなんと、「分数をノートに一行に書くか、二行に書くか」ってこと!
「二行にまたいで書いているお前はおかしい! 変だ! 先生にいいつけてやる!」でしたっけ。集団で非難していましたけど。
今ならわかります。
――大人から見れば、ほんと、どうだっていいことじゃないですか。
言いつけられた教師もうんざりした顔で、「どっちでもいいだろう」って言ってましたが、そういう下らないことで騒いでいた子と、キールくんは、同じ年齢なんですよ。
そう思うと、本当に早熟と未熟の差って大きいです。
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