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あかね雲

□ 異世界で人非人に拾われました □

20 宗教? ありますけど盛んではありません


「自分を信じなきゃ術も使えない。自分を信じるのが当たり前だから、この星では宗教も盛んじゃないんですか?」
 ルーランは腕組みをし、顎に手を当てて記憶を検索する顔になりました。

「どの程度で『盛ん』というのか判らんが、お前の世界の基準で言うと、まったく盛んじゃないな。……むしろ、お前の世界はよくもまあこうも大同小異の宗教が林立して攻撃しあえるな」
「だ、大同小異って……」
 確かに同じ宗教の別宗派とか、下手すると当のお坊さんでも差異を答えられなかったりしますが。

「基本的な人倫においては一緒だろう。人を殺すな、騙すな、姦淫するな、と。後は枝葉ではないか?」
 宗教は、人に基本的人倫を教える役割もあります。
 そして、確かに世界三大宗教においてその三つは同じなわけで……え?
 キリスト教もイスラム教も仏教も、異星人にとっては大同小異なのか――っ!

 内側にいる人は気がつかず、外側から見て、初めて気がつくことというのは多いです。私はショックを受けました。

「教会とか、ないんですか?」
「ないな」
「……宗教のお偉いさんとか、神官さんとか」

「緑の座……皇帝陛下が最高神官だが、それ以外の神官は、居るかどうかすら知らん。これは私だけじゃなく、一般庶民なら皆こんなものだと思うぞ」
「えーと……祭祀、とかは」
「ときどき緑の座がやっているらしいが、庶民の私は知らんな」

「――日本でも天皇陛下がどんな祭祀やってるかって、庶民は知りませんもんね……」
 日本で天皇陛下の日常の生活ぶりを詳しく知っている人なんて、侍従とかご家族とか皇室マニアぐらいじゃないですか?
 そう思うと、ルーランの「皇帝陛下がやっているらしいけど知らん」っていうのは庶民レベルでは当たり前っぽいですね。

「教会とかもないんですか? 珍しいですね。えーと、私の世界では、政教分離が為されていない最大のメリットっていうのは皇室の権威付けなんですけど」
「皇宮の中ならあるかもしれんが……わざわざ宗教などで権威づけをしなくても、皇家には最大の権威の裏付けがあるからな」

 ぐぐっと興味を引かれました。
「なんです?」
 すると、予想外の答えが返ってきました。
「敵だ」

 ぽかーん。
 予想の斜め上です。

「敵がいれば、人は否応なく団結せざるをえまい?」
「敵って……? で、でもこの星に国はひとつだけなんですよね? 一つしか国は無くて、レイオスの人たちは完全に団結していると……あ!」
 いたじゃないですか、敵。
 それも、種が違う不倶戴天の敵。

「そういうことだ。精霊という外圧があるなかでは、団結せねば人は滅んでしまう。精霊のために人は一つの国にまとまり、精霊のおかげで皇家は唯一絶対の存在としてそびえたつ。レイオスにおいて、緑の座は圧倒的絶対権力を持つ」
 はあ……。
 外に敵を作ることで内側を団結させるのは常套手段、ってどこかの本で言ってましたね。そういえば、私のいた会社でも、そうでしたっけ。

 みんなからすごーく嫌われている上司がいて、その上司の悪口を言い合うことでまとまっていた面が、うん、ありました。
 と、そこで私はふと歩いていた足を止めました。

「あれ? キールくんって……その絶対的権力? を持つ皇帝陛下よりも偉いんじゃ?」
 ルーランは、物凄く、嫌そうな顔になりました。
「あいつはな……人間なんだが、『調停者』という役職を精霊から押し付けられていてな」
「あ、はい。そう言ってましたね」

「人間として生まれたんだが、実質は精霊側に立っているわけだ。そして、この調停者という位は……」
 ルーランが言い淀みます。
 そして、ルーランが言い淀む時点で、イヤーな予感がするんですよね。

「精霊の第三位という高位なんだ。精霊の領域への立ち入りを、自分の裁量権で即決できるぐらいにな」
「第三位ですか。よくわからないですけど……凄いんでしょうね」
 精霊全体の中で三番目に偉いんだ、と言われても異世界人ですからねえ。偉いんだろうな、とは思うんですが、ぴんときません。
 そして、そんな無知にもほどがある私の態度にルーランは苦笑をこぼしました。

「調停者という位は、精霊と人間の間に結ばれている協定を結ぶ全権大使の役職でもある。人間側は緑の座が。精霊側は調停者が出て、話し合いをするわけだ」
「ふむふむ……ってあ」

「そう。交渉する相手だから、同格となる。建前としてはな。だが、精霊側が圧倒的で、九対一の勢力差なわけだから、当然そこには同格であっても優劣が生まれる」
 はい、日本の総理大臣とアメリカの大統領が話し合ったとします。建前では両方とも独立国の首長であり対等なわけですが、実際は対等でしょうか?

 ――そんなはずないですね。


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Date:2015/10/31
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