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あかね雲

□ 異世界で人非人に拾われました □

22 もしも? IFルートを見れるって結構大事です


「キールはその能力を持って生まれた。それは出生前の能力診断によって明らかになり、普通ならその場で、生涯幽閉の運命が決定するはず……だった」
「何か、事情があるんですね?」

「最大の要因は、あいつが精神治療者だったことだな」
 それで気が付きましたが、瘴気浄化能力者さんと、ルーランたちシミナーって、「社会にとって必要不可欠」で、「外に出たら悪人に狙われる」ってところで、似てますね。

「あいつが幽閉されれば、瘴気浄化能力者としてだけの扱いで済むはずがない。シミナーとして、取れるだけ、客を取らされるだろう」
 ……客を取らされるって、なんだか卑猥な表現ですね。

「一例でも前例を作れば、後が危ない。せっかくの均衡を崩されてはたまらない。一例が前例になり、前例が後の例に適用されていくものだからだ」
「そうですね……わたしの世界でもそうです」
 前例があるから同じようにしよう、そう言う人はたくさんいました。

「だから、私たちシミナーは、一丸となってあいつの幽閉に反対したわけだ。いろいろな政治的事情も積み重なったが――結論として、あいつは今、自由の身だ」
「で、でも。悪人たちは? 狙ったんじゃ……」

 その時ルーランの口元を彩ったのは、哀れみのような蔑みのようなものでした。
「――死んだな。全員」
「ああそうか……シミナーの人たちには護衛がつくんですもんね」

 私も思い出しました。馬鹿な質問をしたものです。
 私が来るまではルーランの家事全般までやってくれていた、有能で有難い人です。
 ルーランが呼ばないと四次元ポケットから出てきてくれないのが難ですが。あと、ぱっと出てぱっと消えるので、名前すらまだ知らなかったりしますが。きっと「ルーランに従え」「ルーランを守れ」「ルーランの生活支援をしろ」とかいう命令受けてるんでしょうね。

「それが何度も繰り返された。なんせ、犯罪組織の連中は情報が回るのも早い。キールを襲った奴らがひとりも生きて帰らなかった、となれば、すぐに事情は察する。それでも利の方が大きいと踏んで襲いかかった奴らもいたが、前例の仲間入りをした」
「ああ……」

「ところが、誰にもどうしようもない存在が、あいつを利用しようとした」
 ええと……これまでの話からいって、皇帝陛下ではないですね。
 手中に瘴気浄化能力者もいるし、シミナーもいる。いくらキールくんが二つの能力を持っているとは言っても、それは逆に言えば、二種類の人材を両方とも持っていれば同じってことです。

「……精霊?」
 恐る恐る聞くと、ルーランは頷きました。
「そして、あいつは調停者になった。ていのいい、精霊の雑用係に」

「で、でも三番目に偉いんですよね?」
「ああ。そして、今回みたいな揉め事を処理するのが役目だ。面倒な異世界人を庇護したり、な」
 面倒な厄介事を処理する、雑用係。
 それが精霊にとっての『調停者』。

「まだ、十歳なんですよね? ひどいじゃないですか。家族は何も言わないんですか?」
「あいつの家族は、それを知らない。言う必要もないし、あいつ自身教えたくもないだろう。精霊に家族を種に脅されて、奴隷のようにこきつかわれています、とは。言って、どうにかなることでもない」
「……」
 相手が、精霊ですものね……。

「キールくんの家は……普通の一般家庭なんですか?」
「ああ。草の民だから、余計に精霊に敵意を持たせるのは得策じゃない」
「草の民?」

「精霊に共感して、自然の中で暮らそうとしている人々のことだ。もちろん、実際に住むのは精霊の領域ではなく人間の領域の、自然にあふれている場所だが。
 私がここに住んでいるのはただ単に町中が煩わしいからというだけで、草の民ではない。彼らは不便を忍んで自然のなかで暮らす人々で、基本的に自給自足、農耕と狩猟と自然の恵みで生きている。その反対に町で暮らす人ももちろんいる。人口比率はほぼ半々だな」

「半々! それは多いですね」
「精霊との闘争は、皇家が出来てから数千年単位で停戦しているからな。おまけに精霊というものは、お前の言語の概念に近い性質を持っている。自然を守り、育むという性質だ。お前の世界では精霊という存在は空想上の生き物にまで下落してしまい、そのせいで人の行いは暴虐を極め、その行為で自分で自分の首を絞めているようだが」

 辛辣な言葉に、何も言えませんでした。
「……お前の知識を覗いて、得られたことは最初思ったより多い。お前の世界は、もしも、の世界だ。もしもレイオスで精霊が空想上のものになったら? もしもレイオスで魔力がなかったら? その『もしも』を、お前は見せてくれる」

 私は科学技術の原理について、ほとんど知りません。よくいるトリップものの主人公みたいに、どうしてそんなの知ってるの、ということは何も知りません。……だって普通は、紙の詳しい作り方なんて知らないじゃないですか……。
 木のチップと薬品を混ぜてドロドロにして漉いて作るんだ、ぐらいしか知らないですよ。どんな薬品をどれぐらいの比率で調合するのか、どうしてああいう人たちは知っているんでしょうね、不思議です。

 それに、この星は決して原始的な世界ではありません。
 ルーランとの隠遁生活のなかでさえ、気がついたことです。
 原子力発電所まで作れる技術力のある世界で、私の知識に一体何の価値があるというのでしょう。

 だからルーランも最初は役に立たない、と言ったのでしょう。
 でも、私の世界そのものが、一つの試行の結果成りえるのです。

 『もしも』の世界。
 普通なら、実験しようもない「もし○○だったら」の世界です。




比較実験は科学の基本。

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Date:2015/10/31
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