「ごっはんごはん〜」
私は鼻歌を歌いながら料理の研究をしていました。
確かに私は火が扱えません。
ですが! だからといって、料理の研究ができないということでもないでしょう。
まず私がしたのは異世界の食材の味調査です。
料理って言うのは食材の組み合わせですからね。
一つ一つ、見たこともない未知の食材の味を確認していきます。
特に私が力を入れたのは調味料です。
これを狂わせるとお料理が台無しになり、そして大抵の調味料って、生で食べても大丈夫なんですよね。味の確認作業の最初にやるべきものでしょう。
そして、調味料の筆頭は何と言ってもお塩!
塩がないと生きていけないのは、レイオス人も、私も同じ。
外見的にも同じです。さらさら真っ白。……どう見ても、これ、不純物を無くして九九%以上の純度で精製されているものですよね……。
術で精製したのか、あるいは科学の力でやったのか……いえ、そもそも海は精霊のものですよね。岩塩でしょうか?
と、ルーランに聞いたら、あっさり「海岸に行くことは許可されている」とのこと。……海水汲み上げて塩を作る分にはいいそうです。あと、網を仕掛けて陸上から引っ張る漁もオーケーだそうです。
塩がないと生きていけませんからねえ……。その辺は精霊も大目に見ているんですね。
そんな訳でお塩はすぐに確認が終わりました。地球と同じですから。
ちなみに入っていたのは、石膏を固めたような容器です。薄くて頑丈。微妙な弾力があって、押して、へこんで、中の調味料が出てくるようになっている……プラスティックみたいなのに、見た目や質感は石なんです。不思議な容器ですね。
そして、色違いの同じ容器に入っていたのは、香辛料です。
舐めた瞬間あまりの辛さに水をガブ飲みしました。……茶色い粉だったので油断しました……。
もうひとつ、色違いの同じ容器に入っていたのは……ありゃりゃ? 甘いですね。甘味料です。色は真っ赤なのに……塩はどの世界でも同じ塩ですが、考えてみれば甘味を感じる植物は一杯ありますからね。果実だって果糖です。果物から甘味を抽出とか、この世界なら「術」でできそうです。
……とまあこんな風に私は台所にあった調味料をちょこっとずつ全部味見しました。
調味料のデータを頭の中に刻み込みます。ふふふふふ……。
そしてとうとう今日。
私は「料理」に取り掛かりました。
加熱の問題はありますが、それはまあ、やってもらえばいいんです。
ガスコンロも電磁調理器も電子レンジもないこのログハウスでは、術で加熱するしかありません。割り切りました。
ルーランの護衛さん(実はまだ名前を知らないんです……)は、ルーランの一言があれば私の調理にも力を貸してくれます。
そして私は最初はシンプルイズベストで、卵(何の動物のかは知りません、動物名を聞いてもわかりませんので聞いてません)の目玉焼きに塩を振ってみました。
卵は生食では危険(厳重な衛生管理の日本とは違います)なので、これが味の確認も兼ねています。
最初の実験台は、もちろん私自身です。
ルーランは面白がっている顔で見ています。
私は出来上がった目玉焼き……そう、どこから見ても目玉焼きをパクリと口の中に入れました。
そして口中に広がった味は……うん、見た目通りに、卵、ですねえ。
普通のスーパーの鶏卵とほぼ同じ味です。よかったよかった。
「美味いか?」
「はい! この世界に来て、初めて作った料理ですから!」
――そう、それは変哲のないただの目玉焼きなのに、涙が出るほど美味しかったのです。
たとえ一番大事な火力の調整がぜんぶ術任せであろうと。
それは、この世界で初めて私が作った料理なのですから。
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