それから私はもりもりと自分を実験台に、いろんな料理を作り続けました。
そして、目の前で美味しそうにご飯を食べていれば、食べたくなるのが人情というもので。
焼き芋の味の確認をしていると、ルーランは言いました。
「一口分けろ」
「……あんまり美味しくないですよ?」
言い訳をしながら差し出しました。
そう、まだ料理は実験段階。
苦労して作った私にとっては美味しいですけど、他の人にとっては、ねえ……。
しかし、差し出した料理(芋を焼いて塩振っただけですが)を食べたルーランはもぐもぐごっくんとして、言いました。
「結構いけるな」
「そうですか! この世界にチーズとかあります? この焼き芋に掛けるともっと美味しくなるんですよ♪」
「ああ、わかった。今度買って来てやろう」
あっさり了承されて、わーいと喜んだのですが……ふと思いました。
――ルーランって、口では色々意地悪なこと言いますし、その時の私の反応を露骨に楽しんでますけど、ちゃんと頼んだら大抵はオッケーしてくれますよね?
異世界トリップしてから今まで、思い返してみれば私は彼に感謝することばかり積み上がっています。
彼って、ひょっとしなくてもいわゆる「口は悪いけどいい人」なんでは……。
――私は、認識を改めて、もっと彼に感謝すべきです。
そうですよね……ここでこうしていられるのも、暢気に料理の研究ができるのも、ついでにチーズが手に入るのも、ルーランのおかげなんですから。
ルーランはこの世界では皇帝陛下の次に優先されるぐらい偉い人です。そんな彼が貧乏なはずはなく、人生を千回ほど繰り返して一生遊んでも暮らせるだけのお金を持っているそうです。
一度、
「そんな大金をルーランが持っていて、経済は大丈夫なんですか?」
と聞いたことがあります。
たぶん、ルーランが持っているお金って、日本円で百億とかそれぐらいですよね。OLの私でも、経済っていうお金の流れをルーランのところで堰き止めているのが良くないことだってことはわかります。
「問題ない。投資をする会社……銀行に預けてある。適当にやっているだろう。他のシミナーも皆、似たようなものだ」
「お金持ちなんですね……」
「シミナーは基本、金に興味がない。皇家から衣食住すべてを保証されているからな。それでも治療の時には目も眩むような大金を取る。それは、なんでかわかるか?」
最近、ルーランはこうやって質問を投げ返すようになりました。
理由は何となくわかります。――試されているんです、私は。
何を、っていったら……、やっぱり、これから長い時間を一緒に暮らしていける相手かどうかを、でしょうね。もしルーランの目から見て不合格になったら、世にも恐ろしい事が起こりそうです。
キールくんとの約束があるとはいえ、しょせんは口約束。
キールくんは、ルーランにいわく「口先だけしか動かさない」そうですからねえ……。
となると。
ええ、これまで聞いたシミナーの嘘くさいまでの能力を考えてみると、私が『同居人』としてあまりにも不適格な存在だったら脳味
噌いじられてクルクルパーが思い浮かびます。
――この想像が本当かどうかは怖くてとても聞けません。
少し考えると、すぐに答えは出ました。
「……治療する人を、絞る為ですね」
「そうだ。……少し貨幣についても説明しておくか。この星では皇家の力が非常に強い。だから、金相場は変動しない。固定制だ。貨幣価値もな」
「皇家って、すごく力を持っているんですね……」
金相場って……星一つを完全に支配下においてるじゃないですか。
……精霊さんは別ですが。
「そうだ。この金貨が――」
と、ルーランが金貨を取り出しました。うっ……金ですよ金!
地球で見たのと変わらないように見えます、金に見えます。
あ、えーと元素自体は星が変わっても共通ですから、金の元素記号は確かAuで、それは一緒なわけで……、ああ一瞬緊張のあまり混乱してしまいましたが、一緒で当たり前ですね。金は元素なんですから。
「この金貨が百枚で、私の一回の治療費になる」
「純金……ですか?」
「金は柔らかいから、そんな訳ないだろう。お前の世界でも純金の金貨はパッケージングされたものしかないはずだが?」
皆さん十八金とか、二十四金とか、聞いたことはありますよね。
あれ、十八金ってアクセサリショップとかでは純金扱いされてますけど(純金ピアス!とかいう広告のピアスの説明をよく見ると、十八金だったりします)、実際は違うんです。二十四分の十八が金で、残りの六が別の金属でできている合金なんですよ。
そしてなんでそんなことするかっていうと、金って金属がとっても柔らかいせい。
純金製の金貨って、地球でもありましたけど、パッケージに入ってました。そうでないと、すぐにあちこち傷ついてしまうんです。
十円玉や百円玉みたいにじゃらじゃらお財布の中に入れるなんてとてもとても。
「……そういえばそうでした……。じゃあ、この金貨は合金なんですね」
「そうだ。全体的に、お前の世界より金の価値は高いな。一つは金相場を握る皇家が高値で固定しているせい、もう一つは実際に、精霊の横やりがあって資源の採掘に制限があり、金の採掘量が少ないせいだ」
ルーランは私に、その金貨を持たせてくれました。
……やっぱりずっしり重いです。そして、綺麗な金色をしています。
「町では金貨は使えんぞ」
「え? そうなんですか?」
「釣りがないだろう。これ一枚で、庶民の半年分の生活費が出る。普通の店で金貨を使った買い物をして、釣りがあると思うか?」
貧乏OLだった私の年収は二百万でした。それから考えると、金貨一枚百万円ぐらいでしょうか。
百万円の金貨のお釣り……。
ちょーっと、普通の商店で常時用意しておくのは無理かも。
「……思いません。じゃあ両替を?」
「いや、店での買い物は、銀行からもっと使いやすい貨幣を下ろして使っている。金貨では下ろさない。貴族や大商人の、額が大きい取引で使われるものだからな、使いづらいんだ」
えーと、江戸時代の小判みたいなものでしょうか。
あれも、庶民が持っていたら捕まるぐらいの代物だったそうですからね。
「誰かに好意を寄せられると、こっちもその人を好きになる」。人づきあいの法則はレイオスでも健在。
特に、サナエは知りませんが、ルーランにはサナエの感情が見えていますので、偽りないまっさらな好意が直に届きます。
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