後日、私に悪いと思ったのでしょう。ルーランは沢山の種類の食料品を買ってきてくれました。あと、服も。
「……うーん、機械織り……」
私は唸ります。
布地一つだけで、その織り方だけで、素人だって手織りかどうかぐらいわかります。織目がきちんとしてますもの。
綺麗なさらさらした布地……近い質感で言うと、絹でしょうか。
服飾は、まあ……買ってきたのがルーランです。
店員さんに「適当に見つくろってくれ」って言ったのが目に浮かびます……というか、実際ほんとにこんな感じだったでしょう。
そして店員さんは、服を一式でコーディネイトして売ったみたいで……はい、平たく言うとですね。
「普段着じゃないですよ、これーっ!」
ここの世界の基準は判りませんが、日本人の基準ではこれは、ずばり、「ドレス」というのではないでしょうか。結婚式とかに着ていくイブニングドレスというか……こうちょっとフォーマルな場に着て行くものです。
付いている装飾の数が……普段着じゃ、ない……。
き、綺麗ではありますよ。縫製とか、染色技術とか、地球に見劣りしませんね。タメ張れますよ。ああ刺繍もされてますね。でも、この華やかな色合いと、絹地……。
なまじ、ルーランってお金持ちなので、怖くなりました。
「こ、これ、いくらしたんです?」
「さあ?」
――こうです。こういう人ですよ。
うなるほどお金を持ってて、それの使い道がなくてぽーんと全部銀行に預けている人です。
店員さんにとっても、いいカモ……もとい、いいお客だったでしょうね……。
そういう服が三揃いぐらいあるのですが……。
くううっ。
こんなひらひらのびらびら服、現在掃除がメイン仕事の私にどうしろとっ。
こういうの、女の子の夢ですから、綺麗だなって思う気持ちは否定しませんよ、しませんが。貰って嬉しいのも否定しませんが。……うん、考えるだけで贅沢なような気がしてきたのでこの辺にしておきます。
見ているだけでも綺麗ですし。
時々なら身につけてもいいですよね……そう、お掃除が終わった後専用にすればいいじゃないですか。
おーぐっとあいでぃあ。
「ありがとうございます」
にっこり笑顔でお礼を言えました。うん私大人です。
「じゃ、着てみてくれ」
「はい。……はい?」
頷いた私ですが、服を手に取ったところで、ルーランが出ていく様子もないので振り返りました。
「あのう……その、恥ずかしいんですが」
「いい加減慣れろ。私はお前の裸を見ても何とも思わん。お前は犬を見て全裸だと思うのか?」
「そういう問題じゃありませんっ!」
ルーランへの恋心なんてこれっぽっちもありませんが、ソレとコレは話が別です。
「お前は犬の前で着替えるのを恥ずかしがるのか?」
「そういう問題でもありませんっ!」
実家では犬を飼っていましたけど室外犬でしたし……ってそうじゃなくて!
……って、例えに何で犬を出したかって絶対私の記憶を見て犬を飼ってたことを知ってるからですね、うわああん!
交渉の末、何とか部屋を出て行ってもらうことに成功しまして、着替えた姿を披露しました。
ルーランは難しい顔で腕組みしています。
「……あの、何か、変ですか?」
ドレスは複雑な構造ではなく、基本的な形は頭からずぼっと被る貫頭衣で、それにフリルや刺繍や重ねを縫いつけたものでしたので、自分でも着れました。
でも異星人の服です。何かわからない着こなしの作法があったのかも……と不安になったのですが。
ルーランは頭を振って言いました。
「いや。お前には落ち度は何もない。ないんだが、ただ、不細工だ」
「――」
……ええと、今の、なんでしょう、その、全否定は。
かの名言「のび太のくせに!」にも匹敵する私の容姿の全否定のような……。
「ううむ、確かに二本の腕と二本の足だし、顔立ちも、まあ見れんことはないレベルなんだが……不格好だ」
「あなたは私に何か心底恨みでもあるんですかあっ!」
半泣きで言ってしまいましたよ。
「ああ、お前の顔は別に格別不細工ではないぞ、安心しろ。美人でもないが。やはり肌が黄色いせいか、髪が黒いせいか……。いい物を着せても、なにかこうちぐはぐというか、みっともないというか、不細工な空気が漂っているというか……」
「お願いします立ち直れなくなりそうですそれ以上は勘弁してください」
しくしくしくしくしくしくしく。
ルーランを部屋から追い出した後、私は黙ってドレスを脱ぎ、いつもの飾り気のない作業着に着替えました。
――不細工。
――みっともない。
――いい物を着せてもちぐはぐ。
ルーランのせいじゃない。
ルーランのせいじゃない。
ルーランのせいじゃない。
そんなことわかってます。
種が違っていて、私からは差異がわからないけどルーランからはダダ洩れで差異がはっきりわかって。
……町でよくいましたっけ。服を着たわんちゃん。ルーランの目には、あんな風に、不格好に無理矢理着飾っているように、見えるんでしょう。
ルーランのせいじゃ、ないんです。
種が違うんだから、しょうがないことなんです。
私は何度も自分に言い聞かせました、が……。
――それからもしばらく、折々にルーランの言葉を思い出しては私は落ち込んだのでした。
貰った服? もちろんちゃんと畳んで箪笥の肥やしですよ。
それがなにか?
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