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あかね雲

□ 異世界で人非人に拾われました □

29 仕事? 働いた男の人が求める癒しは一緒でした


 ルーランの評価に内心落ち込みまくっていた私ですが、ちゃんと掃除はやりましたし、お料理の研究も続けておりました。
 だって――やることないんですもんっ。

 部屋で一人でめそめそしてたってお腹すきますしね。本もないし娯楽もないですし。
 何より――私はそれを「お仕事」と思っていましたから。
 ニッポンのOLは、たかだかヒドイ言葉を言われたぐらいでお仕事休んでられないのです。欠勤の連続は評価を落とす最大原因ですよ。

 しっかし、謝罪のつもりで買ってきた服で更にどん底まで突き落とすあたり、ルーランってほんとにどうなんでしょうね?
 あ、そういえば皇帝陛下以外に頭下げる必要もない特権階級でしたっけ。ケッ。

 そんなとある日。
 ルーランが言いました。
「出掛けてくる」
「はい。いってらっしゃい。買い物ですか?」

 ルーランはこうして時々出掛けます。買い物とか雑用とか。いいですね、便利ですよね、転移って。ちぇっ。
 買い物のときは、リクエストすると大抵その品を買ってきてくれます。そういう意味ではいい雇い主です。
 けれど、今日は違いました。
「いや……、仕事だ。恐らく、今日は帰ってこれない」

「あ……はい」
 私は頷きました。
 仕事……ルーランは、シミナーとかいう、精神の病を治せるお医者さんでしたよね。

 この星でたった百人ぽっちのお医者様。
 立派なお仕事です。……ひと月に一回しか診察しないのでは、さぞ長い行列ができているのではないでしょうか。いえ、多額の治療費がかかるからそんなにいないかな?

 ルーランが出掛けますと、もちろん護衛さんは(姿は見えませんが)ルーランといつも一緒なので、私は炊事洗濯できなくなりますし、外にも行けなくなります。
 でも、ご飯はそれを見越して保存食をルーランが買ってきてくれてあるので大丈夫。もちろんお水もです。
「いってらっしゃい」

 手を振って送り出し、私はルーランがいてはできない個所のお掃除をしようと、腕をまくりあげました。
 そうして一昼夜が過ぎました。
「……ルーラン、遅いですねえ……」

 ぽりぽりと保存食のビスケットを食べながら、私は食卓で待っていました。
 うーん、寂しいことは、否定できませんね、やっぱり。
 ルーランって、あれで結構、無知な私の質問にいろいろ判りやすく説明してくれますし、この異世界での初めての知人で、私の保護者ですし。

 出歩くこともできない身としては、やっぱり、ねえ。
「早く帰ってこないかなあ……」

 ちなみに料理研究はストップしています。
 残っているのは生で食べるのはアウトな食材ばかりですから。
 お掃除しかやることがなく、そのお掃除ももう……となると、やっぱり、まあ、その。退屈なんですよね。

 だらだらしながら待っていると、扉が開く音がしました。
 あ、帰ってきましたね!
 この世界では「転移」で人の家の中に入ってはいけないというルールがあるらしく、これまで来たお客様は家の外に転移して必ず呼び鈴を鳴らしました。

 それをしなかったということは、ルーラン本人です。
「お帰りなさい! ……お疲れ、みたいですね……」
 ルーランは疲れ切った様子でした。

 私の方を見る時も、ちら、と見ただけで、どっかりと投げ出すように椅子に座ります。
 そのときちょっと首筋に見えた赤い色と、薫香については、野暮は言いますまい。
 私だって社会人のOLだったんです。
 昨日の晩、ルーランが何をしてその日の疲れを癒したか、そして、大人の男性が何に癒しを求めるか、ぐらいはわかります。

 ……異星人ですけど、そういう点は同じみたいですね。

「今、お茶淹れますね」
 お湯は使えませんが、この星にもありました、水出し茶!
 ちゃーんと作っておきました。お茶、好きですから。

 ちなみにこの世界の食器って、陶器が主なんですよ……。あとたまに硝子。お茶ポットは硝子製です。これがまー綺麗な円筒形で歪みないんですってば。技術力、高いですよね。ファンタジー小説では大抵、木が主なんですけど。
 ま、大金持ち(らしい)のルーランしか知りませんので、他の家でも同じかまでは判りませんが。

 原子力って言葉があることといい、服の布地といい、陶器や硝子器の精度といい……この星って、この家の中に閉じ込められている私には推測しかできませんが、かなり、技術力高そうですよね。
 私は疲れ切っているルーランの前にお茶を出しました。
「お疲れさまでした。お茶をどうぞ」

 にっこり笑顔。
 OLの最初のお仕事はお茶くみから。もちろん私もきっちり習いましたとも! お茶くみの細々とした作法をね。……異世界ではたぶん間違っている作法でしょうけど。

 なにより大事なのは笑顔! 笑う門には福きたる。仕事で疲れている営業の男性には笑顔が最高の良薬です。にこにこ笑顔のOLさんは、オフィスの花。むっつりよりにっこりしていましょう、と習いました。
 ルーランは億劫そうに手を伸ばし、それでもちゃんとお茶を飲んでくれました。

 私はおかわりを持ってきて、そして、何も聞きません。
 会社でもこうでしたっけ……。
 お仕事で疲れている男性にお茶を出しても、絶対こっちからは聞いちゃ駄目なんです。だって担当している業務が違うんですから。

 自分の受け持ちの業務に、何か関係しているなら話は別ですけどね。
 一生懸命お仕事する男性社員は尊敬されてしかるべきです。
 だって、私たちのお給料は彼らが働いて稼いできてくれるのですから。

 同じように、一生懸命働いて疲れているルーランを、私は労わらねばなりません。

 ルーランがお茶を飲み。
 私がおかわりを注ぎ。
 お茶を飲み。
 おかわりを注ぎ。
 結構な時間が流れて……、ルーランは口を開きました。

「……無知は、救いでもあるのだな。お前を見ているとつくづく思う」
 今、さりげなく、もとい、あからさまに馬鹿にされたような……。
 文句を言おうかとも思ったのですが……口を開いたところで、やめておきました。

 ルーランはこの星にたった百人しかいない特殊能力者で、きっと大変なお仕事をしてきたのです。
 お給料と責任は比例するもの。高給取りのルーランは、その両肩にその金額分の責任を背負っているのです。
 そして、私はこの星にとってルーランがどれほど貴重で重要で大事な役目を負っているのか、本当の意味では全然知りません。
 実感することはできません。
 それが彼の救いになっているのなら……いいじゃないですか。
 そう思ったのです。

 距離が意味を為さないこの星で、ルーランは逃げ場所もないのでしょうから。
 異世界人で、異星人で、説明されても芯から理解はできない私がちょっとでも慰めになるんでしたら……いいじゃないですか。
 私は笑って、言いました。

「保護してもらっている身ですから。私なんかでお役に立てるのなら、嬉しいですよ」
 ルーランは、私を見て、何やらこれまでとは違った意味でのため息をつきました。
「……これで、その気になれれば抱いて癒されるんだがな……。見た目はほとんど同じなのに、ぬいぐるみにしか見えん……」
 顔が、思いっきり、ひきつりましたとも。ええ。

 この言葉の意味がわからないほどコドモじゃないです。彼氏がいたこともありますし。
 でも、まあ。
「ルーランがその気になれるなら、そういう関係もアリですけどね」

 はい、そうです。相手は異世界での私の最初の保護者にして、唯一の保護者です。
 この先五十年ほど、いい関係を築いていきたい人です。
 えーと、恋愛感情はありませんけど、好意はありますし、疲れきっている様子のルーランを見て、まあそれが癒しになるのなら……と思いましたよ。

 いわゆる恋愛感情を含まない、癒しの関係? うん、金銭の媒介こそないですが、友情めいたものは持ってますから……。
 でも、それも、ルーランがその気になれないっていうのならもちろんあり得ないわけで。
「ルーランの目には、私は犬さんに見えているんでしょうか?」

 嫌な話ですが、その昔、白人たちは有色人種を「人間」として見ていなかったそうで、女性であっても平気で黒人の使用人(男)の前で裸になったそうです。
 同じ人間じゃないので、羞恥心が働かないんだとか。もちろん、白人の男なら悲鳴ですよ。でも黒人の男に見られても恥ずかしいとは思わない。だって人間じゃないですから。犬猫と同列ですから。
 なんかイヤですが――それと同じ感覚なのでしょうか。

 そんな私の心を察したように、ルーランは言いました。
「種が違うからな。交わっても子はできない以上、生殖本能が働かないのだろう。お前に淫心を催す人間はまずいないだろうな。……ふむ、ということは、だ」

 ひょい、とルーランがテーブルを廻って私の前に来て、私を抱え上げました。ちょ……細腕でなんて力ですか! 今、ひょい、でしたよ。ひょい! レイオス人ってほんとに力が強い!
「抱き枕としてならいいかもしれん」

「ぎゃ、きゃあ!」
 肩に担がれた私は一瞬暴れて……すぐに大人しくなりました。
「大人しくしてろ。不埒な真似はしない。暴れると逆に危険だぞ」

 そ、それもそうですね……。
 幸いにしてルーランはキレーな顔の中性的な人です。
 女性とみまごうばかりで、女友達と一緒に寝る、と思えばいいんです。

 貞操の危機は、絶対にない相手ですしね。
 そう思うと気が楽になりました。
 抵抗をやめた私を抱えて、ルーランは寝室へと向かいました。

 そして文字通り、私を抱き枕にして寝ましたとさ。
 ですが前言通り手は出されませんでしたし、ルーランのサラサラ綺麗な銀髪を間近で思いっきり触りまくれたので、私に損はありませんよ、いえむしろ、差し引き大幅プラスですね、ふはははは!




ルーランの現在の認識=脆い。不細工だけど見慣れると愛嬌があるように見えてきた。愛玩動物よりは、掃除や料理をする分役に立つ。



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Date:2015/10/31
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