気がついた時、私は、全裸でした。
縛られていないのに、ぴくりとも体が動きませんでした。
診察台のような、ビニール製の台の上に乗せられていました。……液体が染み込まず、体液がふき取りやすい、衛生を保ちやすい素材でできた台の上に。
頭上には、照明が見えます。
テレビドラマで出てくるような、小さな丸い照明をぐるりと円形に並べた明かりです。その光量は多く、私の体は強い蛍光灯にさらされて黄色い肌をさらしていました。
下着もつけていませんから、下腹部の茂みもそのままで――。
「変わった生き物だな」
「本当に見た目は良く似ている。指の数も一緒だな。手五本、足五本……」
「中身が同じかどうか、よく確認しなくてはな」
「デッドラインの見極めを誤るなよ。一人は呼吸を常にチェックしておけ。殺さなければいくらでも元に戻せる」
気がつくと、白衣にマスクをつけた人々が私を取り囲んでいました。
「最初は……やっぱり子宮にしておくか」
ひとりが、私の足首をつかみ、私の足を開かせました。
両足が開かれ、足の間を覗きこまれます。
いや! いや! やめて! いやあああ!
女としての本能的恐怖に叫びます。いえ、叫んだつもりでした。なのに、声が出てきません。体中、どこもピクリとも動きません。
みっともなく大股を広げた私の足の間に何か冷たい器具が差し込まれ。
――そして。
「きゃああ!」
私は悲鳴を上げて飛び起きました。
隣で寝ていたルーランが、迷惑そうに眉をしかめて瞬きをしています。
「うるさいな……いったいどうした?」
「あ……あ……」
体中、ガタガタ震えて声になりません。
言葉を発することもできない私の背に、ルーランの手が触れました。
――すうっと、潮が引くように恐怖が引いていくのがわかりました。
ゆ……め?
そう、あれは、夢です。
「あ……す、み、ません……。物凄く怖い……夢を、見て……」
――いいえ。あれは、現実。
頭のどこかで、誰かが冷徹に囁きました。
ドラマで見た照明。ドラマで見た白衣を着た人々。診察台。
どれもこれも、私の記憶から作ったとしか思えないものです。記憶から作り出した想像です。
この星で、ああまで日本的な衣装や道具があるとは思えません。あれは、間違いなく私が想像でつくった物。
――でも、シチュエーション自体は、ルーランがいなければ現実になっていただろう「もうひとつの未来」でした。
たったひとりの異世界人で異星人。
ルーランも言ったではないですか。実験動物として扱われると。
そして実験動物とは……ああいうものです。
無理矢理に足を開かされ、胎内に器具を押しこまれ、そして、生きながらにして解剖される……。
「う……」
気持ちが悪くなって私は口元を押さえました。
――今、ここにこうしていられるのは、私がそれなりに平穏に幸せでいられるのは、ルーランのおかげなのです。
彼が気まぐれを起こして私を助けてくれなければ、今、夢で見たのと相似形の未来が私を待っていたでしょう。
「――ルーラン」
ルーランにとっては気まぐれ以外の何物でもなかったでしょうが、それでも、私は彼に、富士山より大きな恩があるのです。
私は、寝台の上で深々と、隣の彼に頭を下げました。
「私を助けてくれて、ありがとうございました」
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