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あかね雲

□ 異世界で人非人に拾われました □

34 異世界人は美的基準の違いに悩む


 皇帝陛下にお会いするのです。
 無礼な格好ではいけませんよね。

 かといって……以前ルーランからもらったあの綺麗な服は、ちょっと……ルーランの歯に衣着せぬ毒舌でトラウマです。みっともないって言われて、不細工と言われてまで、着たくありません。見るたびに思い出すのでもうトラウマの塊になってます。
 着たくないです……似合わなくて不細工なんですから。
 でも、じゃあ、何を着て行きましょう、という問いに、ルーランは実にいつも通りに言いました。

「着飾る? そんなのは無駄だ。行けば分かる」
「はい……? ええと、この星ではこんな格好で行っても大丈夫なんでしょうか?」
 いつもお掃除をしている普段着です。私の眼から見ても、刺繍も飾りもないそんな服は、フォーマルな場に着ていけるものではないと思うのですが……。

 異星人はちがうんでしょうか?
「普通なら無礼だが、お前は異世界人だ。緑の座は、そんなお前が着飾っていなくても気にするまい。なにより……いや、これは何でもない」
「……何ですかはっきり言ってください」

 そこで区切られるとコワイじゃないですか。
 ルーランは私の催促に、いささか重い口を開きました。
「凡人がどれほど着飾ろうと、届かぬ領域がある。そういうことだ」

 ……さっぱりわかりません。
 ですが、皇帝陛下のお迎えが着て、私に見苦しくない、失礼でない程度の服を着せてくれるということになり、あっさり服装問題は解決したのでした。

     ◆ ◆ ◆

 ――距離の壁のない星というのは、まったくこれだから!
 ああ漫画や小説によく出てきますね、瞬間移動。長距離転移。
 便利でいいと思っておりました。ワタクシも。
 これまでは。

 でも――心構えする時間がないってことでもあるんですよねっ!
 あんな森の中で、ひっそりと隠れ住み、話す相手はルーランだけ、なんて生活から一転。
 この星の皇帝陛下……緑の座に呼ばれて会うことになりました。

 あんな僻地にいたのです。ふつーなら何日、何十日も移動にかかりますよね。なのに、一瞬ですよ。
 一瞬で、建物の中にいました。
 出迎えの人に手を取られ、視界が切り替わり、次に見えたのは白塗りの壁に囲まれた一室です。

「こちらへどうぞ。ご入浴とお召し物を用意しております」
 と、出迎えの人(相変わらず銀髪、銀目、美形)から、待っていた別の人(この人も銀髪、銀目、美形)に身柄を受け渡されました。
 たぶんこの人が、皇宮内の使用人、という人なのでしょう。

 彼は私の姿をみて一瞬びくっとしましたが、すぐに体勢を立て直し、完璧なスマイルで私を案内しました。
 プロですね。異世界人で、髪が黒くて肌が黄色い人間なんて、生まれて初めて見たでしょうに……。いくら事前に知っていたとしても。

「まずはご入浴を」
 で、隅々まで洗われましたが――正直言って、すごく気持ちよかった〜。
 ルーランが時々湯桶に湯を出してくれて、それで体を拭いたり頭を洗ったりしてましたけど、やっぱり日本人なら手足が伸ばせる浴槽でのーんびり全身洗いたいじゃないですか。

 おまけにお風呂番? みたいな人が、私の体をこすったり(垢がたくさん出てきてちょっとへこんだ……)、ぴかぴかだけど赤くなった肌に香油らしきものを磨りこんだり、と、全身、指の間までぴっかぴかに洗い上げてくれました。
 ワオ、お姫様待遇!
 ――って喜んでる場合じゃないんですけど喜んじゃいます。

 そのお次は、やっぱりドレスアップとメイクアップ。
 この世界ではコルセット、というものは無いらしいですね。ありがたや。服飾も、こう、男女兼用みたいな、貫頭服をいじったようなデザインで、それをひらひら何枚も重ね着するみたいです。

 生足は出さないのが基本。
 ワンピース的服の下の足には、肌にぴったりしたズボンです。足元はこれまたハイヒールなんかじゃない、低い靴。刺繍がびっしりで、とても可愛いですけどね。

 宝飾品は、はい、定番です。
 この世界でもきっちりあるみたいですね、金銀宝石。

 色とりどりの宝石がふんだんに使われた宝飾品が、私の指に、耳に、首につけられました。
 そして最後はメイクアップです。やっぱりあるんですね、この星にも化粧品。

「ちょっと目を閉じててくださいね」
 ぱたぱた。書き書き。

 はい、女性のお顔はキャンバスです。
 技術があれば、不細工だろうが美女にも化けられるのがお化粧です。

 やっぱり皇帝陛下に会うんですから、着飾るんじゃないですかー。ルーランの嘘つき。
 ま、女の子ですから?
 たっぷりの入浴タイムも、ドレスアップも、きらきら宝石も、あとメイクアップももちろん大好きだからいいですけどね〜。

「さあ、目を開けてください」
 と、目を開けると、おお!

 そこには見たこともない可愛い系美女が(私基準)。
 嘘、コレが私!?(地球人基準)
 可愛く化けたなあ、何だ私、不細工でもみっともなくもないじゃん(地球の日本人基準)。

 ……はあ。
 そうなんですよねえ。私にとってこの「私」は可愛いけど、この星の皆さまにとってはどうでしょうか……。

「あ、あの……みっともなくないですか?」
「はい。とても可愛らしいですよ」
 ……プロですね。愚問でした。

 メイクのプロさんが、自分の作品を前に、自信を喪失させるような事を言うはずがないんです。なんで聞いたんでしょーね、私ってやつは……。
 アンニュイな気持ちになりつつ、私はとうとうメーンイベントに挑むことになりました。

 どこをどう化粧で誤魔化そうが誤魔化せないこの黒髪。黄色い肌。
 周りのどの人を見ても、銀髪銀目白い肌の美人ばかり。
 このきらきら軍団の中で、どんなふうに見えるのかはあえて考えないようにして――、さあ皇帝陛下とご対面です。


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Date:2015/10/31
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