fc2ブログ
 

あかね雲

□ 異世界で人非人に拾われました □

35 異世界人は美を知る


 ――ルーランが、着飾るのなんて無駄、と切り捨てた理由がヨクワカリマシタ。
 皇宮の人たちは、緑の座への礼儀として、私を身綺麗にしただけだってことも、ヨクワカリマシタ。

 ――世の中、あれほどまでに綺麗な人がいるんですね……。
 私は感動までしてしまいました。
 緑の座に、ではありません。
 緑の座の隣に立っていた御方に、です。

 ――鼻血出るかと思いました。

 会談の最中、ずうっとガン見してました。
 皇帝陛下? すみません顔も憶えてません……。

 今になって自分の言動を思い返せばとんでもなく無礼なんですが、その時はそんなこと思考の彼方まで吹っ飛んでいて、ひたすら己の欲望のまま、その美を貪るように見ていました。
 「美しいものを見たい」。そういう欲望もあるんですね。

 初めて自覚しましたよ……アイドルに会いたくてアイドルグッズ集める人もこんな気分なんでしょうか。
 よく、異世界物であるでしょう。チート能力。あれを「美」方面に特化したらああなるんじゃないでしょうか。
 世界中の人の「美」のパラメータを一人に注ぎ込んだらこうなるんじゃないかってぐらい、それぐらいの、一生二度とこれほど美しい人に出会うことはないだろうって確信できちゃうぐらいの美貌でございました。

 髪はサラッサラの長い髪。腰までありました。
 色はなんというか――ルーランたちのが「灰色の言い換えの銀色」だとしたら、彼の髪はまさに白銀。汚れ一つない新雪が朝日を浴びて光るようでした。
 そんな白銀の髪が滝のように切れも枝毛もなくサラッサラで流れ落ちているのです。

 髪型は豊かな髪の幾つかの房を取り上げて頭上で結いあげ、残る髪はそのまま流す、という、その髪の美しさをこれでもかと引き立てる髪型で、化粧はほとんどなし。ナチュラルメイクもしくはスッピンです。
 もちろん肌はツルツルで、その麗しい目鼻立ちといったら、見た瞬間魂が抜けなかった自分を褒めてあげたいですね!

 服装は、ほとんど白っぽい衣装でした。素材的にはイイモノなんでしょうが、なんせ銀の髪に白い肌なので、もうちょっと色のついたものを着せればいいのに……。
 色彩的にメリハリが少ないというか。

 あと、装飾品もほとんど付けてなかったですね。もったいない!
 耳に耳飾りがついていただけです。たぶん純金。金具の先にはコインのような円盤が揺れていました。動物のような意匠で、目の部分に小粒の宝石が配された耳飾り。
 それだけが彼の衣装のなかで色彩を主張していました。

 会談の内容?
 さっぱりおぼえていません。その美貌にぼうっと夢心地で、あれこれ嘘つく余裕もなくほいほい聞かれるまま答えたような気がします。

 ――その人の正体は、家に戻ってからルーランに聞いたら一発でした。
「ああ、それは、白の座だろうな」
「白の座?」
「現在、緑の座の寵愛を一身に集めておられる御方だ。……美しかっただろう?」

 ルーランは、微笑んだようでした。――まるで、誇るように。
 私は、首をぶんぶんと振りました。もちろん縦に。

「ええと、つまり……王妃さま、ですか?」
「いや……緑の座は、緑の座だ。隣に並び立つ者などない、唯一絶対たる御方だ。もちろん歴代の緑の座にも寵愛する人間はいたが……そうだな、少し説明をしておこう」

「はい」
「以前、皇族はさほど偉くない、緑様を除いて、と言ったことがあったが、憶えているか?」
「えーと……はい。思い出しました。……緑様?」

「緑の座の事だ。この星では、皇族は色の名前で呼ばれる。最上位が緑の座。別名を緑様。次を青の座。別名を青様。わかりやすいだろう?」
「はい。……ということは、あの方は白の座で白様?」

「そうだ。現在存命している皇族の、末席にいる。権力はほぼないが、なにせ、あの美しさだ。緑様のご寵愛も厚く、近々位が上がるといわれている。……そして、緑様以外の皇族についてだが、誰が、何人、どれだけいるのか、民は知らん」
「へ?」
 思い出したのは、イギリス王室で王子誕生の際のお祭り騒ぎです。
「そ、そういうのって、生まれた時祝ったりしないんですか?」

「するはずがない。何故なら、皇族というのは、呪われた一族でもあるからだ。――兄弟間で殺し合いをして、一人生き残ったのが次の緑の座。代々の緑の座の手は例外なく血に塗れている」
「な――なんですか、それっ!」
 悲鳴を上げてしまいました。

「よって、皇族というのは緑の座以外はさほど偉くないし、その名も存在も外には洩れない。公式行事で民の前に顔を見せることもない。もちろん皇宮内では皆、知っているだろうさ。ただし、外にはその名も存在も洩れないというだけで」
「……」
 ――現在存命中の皇族。
 確かに、さっきルーランはそう言いましたね……。

「……なんで、そんなことをするんです?」
「最良の資質の選択の為だ。レイオスは絶対王政。ということは、暗愚な王が皇位につけば、すべては破綻する。この星の政治は、緑の座が名君であることが絶対条件だからだ」
「だ、だからってなにも――殺さなくたって!」

「だから、逃げ道はある。皇族たちは、皇族として生まれた以上その苛酷な生存競争に打ち勝たなければならないが、ひとつだけ、例外がある。皇籍の放棄だ。紫の座という元皇族になれば、殺し合いからは逃れられる。今代にも一人いるな。そうではなく、戦うことを選んだ以上、殺されても仕方ないだろう?」
「そ、それは……」

 頭の中で、世界史がぐるぐるしてます。いえ、日本史でも、王位を争って血で血で洗う戦いが為されたことは珍しくありません。
 この星では、それが、「最良の資質の選択」という大義名分のもとに、大っぴらに制度化さえして行われているだけなのです。
 そう……実の兄弟同士でドンパチやってます、なんて大衆には言えません。いくらなんでも外聞悪すぎです。

 王子誕生めでたいめでたい! なんてできるはずありません。
 だって、そのめでたく生まれた王子さまは、死んでしまう可能性が高いのです。

「白の座は第十七子だ。本来ならとうに年長の兄弟に殺されている出生順だが、あの容姿で生き延びた。その前に生まれた兄弟も、その前も、その前も、全員死んでいる」

 生まれて祝って殺され。
 生まれて祝って殺され。
 生まれて祝って殺され。
 生まれて祝って殺され。
 ああ、言えるはずないです。公表できるはずもないです。

 だから皇族は公式の場に出ないし、生まれたことも、顔も、名前すら民には知らされない。
 そうでなければ成立しない制度。
 殺し合いの制度。




殺し合いの末に王位継承、なんていうルールがある世界では、皇室はどうしても閉ざされたものになってしまいます。理由は作中の通り。外聞悪すぎ。
出生祝ってその一か月後に死にました、なんてことが一件二件どころでなく続けば国民だって馬鹿じゃないので気づきます。出生自体を隠さないと無理なので、自然と皇室は閉ざされた体質になります。


→ BACK
→ NEXT


 
関連記事
スポンサーサイト




*    *    *

Information

Date:2015/10/31
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする