そうなると……ルーランが言った通り、「緑の座以外の皇族はさほど偉くない」になるのは当然でしょう。
日本の皇室でもそうでしたけど、ああいうのって知名度と偉さがリンクしてます。「誰もが存在を知っているから偉い」部分があるのですから。
民は生まれたことも知らず、顔も知らず、名前も知らない。
そんな皇族が偉いかどうかというと、激しく疑問です。
「新しく緑の座になると、お披露目が行われる。それまでは、皇宮に出入りする人間や貴族は知っているが、外の民はその皇族の存在すら知らない。生まれたことも、死んだことも知らないわけだ」
「……最良の、資質の選択の為、ですか……」
「そうだ。一代に大体十五人ほど子どもを作り、競い合わせる。命がかかってるからな、皇族たちは皆必死に勉学や術や体術の研鑽に励む。最下位が白で、段々と位を上がっていくわけだ」
――最下位。
「……じゃあ、白様もいずれは……お亡くなりになってしまうのでしょうか?」
あんなに美しい御方なのに。
そんな私をルーランはどこか白けた目で見ました。
「……白の座が美しいというのは同感だがな。美と為政者としての能力に相関性はないぞ?」
「そ、そりゃあそうですけどっ。もったいないっていうか……殺されちゃうのが惜しいっていうか……その……」
言えば言うほど、最低人間になっていく気がして、主張に正当性がないのがわかって、私の言葉は尻つぼみになっていました。
首を垂れた私に、ルーランの呆れた声が降りかかります。
「まったく……白の座の美しさはつくづく罪だな。それとも地球人は耐性が低いのか……? レイオスの民にも白の座を見るとお前のように一目で魅了される人間がいる。そうでなくとも、美は力だ。好意を持つ者は多い。――なにしろ、緑様が筆頭だ」
皮肉と苦さの混じった声でした。
「白の座が殺されることはあるまいよ。表だって歴然と、でこそないにせよ、緑様に贔屓されていることは明らかだ。おまけに……いや、何でもない」
「あのう……ルーランは、白様が嫌いなんですか?」
「いや。その逆といっていいな」
その逆……逆ってことは、つまり。
「好きなんですか?」
「お前、聞きづらいことを本当にはっきり聞くな……」
ルーランは、心底嫌そうに言いました。
「言語化できない感情があるが、言語化したら後戻りできなくなるだろうから怖い。何故なら、私は白の座の姿を見ただけで、一言も言葉を交わしたことさえない。その状況で発生した感情など、正常とはいえない。単に見かけに惑わされているだけと断じられても、否定する材料がどこにもない」
私はよーく、ルーランの言葉を反芻し、反復し、意味を理解して、確認しました。
「一目惚れ?」
「だからそうずばずば言うなと何度言ったらわかるんだこの馬鹿娘!」
「え? でも白様って男……あれ? 男……あれ?」
なんせ、あの美貌です。
文字通り魂までとろかしそうなその美しさに見惚れ、その他の部分に目がいっていたとは言い難く……。
「あ、あれ? 白様って」
私が白様を見たのは、一番下座。白様がいたのは、段差の上の緑の座の隣。
階段の下から見上げていたので気がつかなかったのですが、よくよく思い出せば、いえ、普通の頭なら一発で気づいたはずなのです。
「十歳か十一歳かだったはずだぞ」
そう、子どもでした。
「……男の子? 女の子?」
ただでさえその年ごろでは性差が定かでないのに、白様の場合、綺麗すぎてどっちかまったくわかりません。
「どっちでもあるな。今は」
「……はい?」
「レイオス人は、十五歳で性分化する。それまでは両性具有だ」
「…………」
「そういえば、これまで言う必要もないから言ってなかったな」
思い出したように頷くルーランですが……えーと。
これまで会ったお子様はふたり。
キールくんと白様。
お二人とも、現在は両性具有なわけですか、……ははははは……。
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