37 異世界人は魔法の理不尽を知る
「い、異世界ってやつは……っ」
「お前の世界にも両性具有者はいるだろう」
「いますよ、ほんのちょっぴりですけどねっ」
知識として、確かにいます。半陰陽の方々。あったこともありませんけど、実在している事は知っています。そう言う方の書いた本も読んだことありますし。
――でも、それだけです。
「でも、それって希少例であって、全員が全員当たり前みたいにそういう生態のレイオスの人と同列に語らないでいてほしいんですけどっ」
「……で、話を元に戻すぞ。会見で何を聞かれた?」
冷静な、突っ込みがきました。
記憶を遡り――私は言葉に詰まります。
「え、ええと……異世界人に会ってみたかった、って言われて……黒髪というのはいいものだな、美しいなと言われて……、生活で困っていることはないか、とか、不満はないか、とか……聞かれて……。嘘をつく余裕がなくって……ごめんなさい! 正直に心に浮かんだままぺらぺらなんでも喋ってしまいましたっ!」
私はふかーく頭を下げました。
「ル、ルーランにはすごく感謝しているんです。で、でもすみません。不満はないかって聞かれた時、ちょこっと……その、外に出られないのがいや、とか、調理ができないのがいや、とか……言うつもりじゃなかったことまで言っちゃったんです! すみません!」
ほんとう、なんであんなこと言ってしまったんでしょう。
ルーランが私に凄く良くしてくれていることは知ってるし、とても感謝しているのに。
緑の座に「不満がないか」と問われて、ふっと心に浮かんだ小さな不満を、そのまま垂れ流しにしてしまうなんて。
もう土下座せんばかりに頭を下げて謝る私に、意外にもルーランは寛大でした。
「それは仕方ない。白の座が同席していたんだろう? それが理由だろうな」
「……はい?」
「白の座をまともに見た人間は、まず茫然とする。心の障壁が緩む。そこに質問が叩きこまれたら、嘘をつけずに真実を垂れ流すしかない」
だから自分を責めるな、とむしろ慰める態度のルーランに、私の頭は沸騰しました。
「――ちがいますっ! 真実なんかじゃありませんっ! 私は……私は確かにそれを思ったことは否定しません! でも、それは思っただけです! 私は、こんなに良くしてくれるルーランを貶めることを言うつもりなんて、まるでなかったのに!」
「――そうだな。だが、ちらりと心をよぎり、心の中に封印しておくつもりだったことさえも言ってしまう。そういう術がある」
「そそ、そんな魔法が……っ」
恐るべし、自白魔法!
「心でちょっと思った事イコール真実じゃないんですよっ!?」
「そうだな。それについては、私も同感だ。だが、心の中でちらりと思ったことでさえも許せないという者もいる、ということだ」
「白様もその手助けを……ってことですか」
「お前の場合、魔力がないから素でも十分かかるだろうが……念には念を、というところだろうな」
白様はまだ子ども。十歳か十一歳です。
親で、絶対権力者である緑の座に、「会見に同席しろ」と言われて拒めるはずもないでしょう……。会見の席にはいましたけど、話は何もしないで佇んでいるだけでしたし。
私は少し考え、やがて、顔を上げて尋ねました。
「――ルーランは、白様が次期緑の座につくと、そう考えているんですね」
「ああ」
答えは、即答でした。
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