39 異世界人は鬱屈する
「……はあああああ……っ」
私はため息をついていました。
贅沢。
はい、贅沢な悩みなんでしょう。言ってみれば。
ご飯もある、寒くもなく暑くもない寝床がある、着るものだって不満はありません。これで贅沢を言ったら、バチがあたるってもんです。
なのに。
――気分が塞いでしょうがないのです。
理由はうっすらわかっています。
私は、未来に希望がない。
……ルーランは、お願いすれば散歩につれていってくれますが、逆に言えばそれだけ。
ひとりでは外を出歩くこともできず、会う相手はルーランだけ……。
正確に言えば護衛の人もですが、彼はいつもルーランの影に潜んでいて、姿も見えません。
湖に浮かぶ狭い一軒家のなかだけが、私が出歩ける範囲なのです。
簡単に言えば――鬱屈、していました。
なまじ、命の危険や身の危険がないので言いだしにくいことでもあります。だって、衣食住ぜんぶルーランに貰っている立場で、更に要求するなんて……ちょっと我が儘すぎじゃないですか?
人への気遣いが重視される日本人です。一応、私は。これでも。
「単に気が塞ぐ」なんて程度のことで、ルーランにそうそうおねだりや要求はできません。ただでさえ一方的に迷惑をかけて、面倒を見てもらっている、という負い目があるんですから。
これ以上ルーランに望む? 望むって一体なにを? たとえば自由に外を出歩きたいとか? 獣に襲われるってわかっているのに?
町に出る? それもとんでもない。自分の姿がどれだけ人目を引くか、わかるでしょう? これまでにあったこの星の人であなたのような肌の人がひとりでもいた? ルーランはあなたを一目で見破った。他の人もたぶんそう。
異世界人?
異星人?
そんな空想のなかの人物が実際にいたら、どんな騒ぎになるのか――日本を基準として考えてみなさいな。
心の声は私を打ちのめします。
どうすれば解決するのかもわからない。だからより一層、ルーランにはお願いしにくい。
でも、心を塞ぐ粘土はねっとりと重みを増すばかりで。
毎日毎日、同じ窓から同じ光景を見るしかない私の心は、鬱鬱した想いに包まれようとしていました。
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