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あかね雲

□ 異世界で人非人に拾われました □

41 異世界人は、狭い世界に閉ざされたことを知る


 知ってました? 遠距離通信までできるんですよ、術って。そりゃ電話がないはずですよ。あはははは……。

 突然ルーランに呼び出されて、キールくんは微笑みながらも目は笑っていない顔でした。
「俺は今、忙しい。さっさと用件を言って。父が俺と弟に料理を教えてくれてる最中、便所に行くって言って抜けてきたんだから。割ける時間はあと二百秒が限度だよ」

 ……転移があってすぐ来れちゃうから、逆にホイホイ呼び付けられちゃうんですね。便利ですけど、呼び付けられちゃう方はたいへんです。って私のせいですが。

 ルーランが急いでかいつまいんで用件を話しました。
 そして――キールくんの返答は、希望を残らず粉砕するものでした。
「無理。サナエさん、あなたには悪いけど、無理。精霊の第三位にしてすべての精霊の代表たる俺が宣言する。あなたの存在を、一般の民に公表することはできない」

 揺らがぬ芯のある言葉。――この世界には、生半可な力では乗り越えられない壁があるのだと、そんなことを感じさせる言葉でした。
 く……っ、無意識に後ずさりしようとした体を持ちこたえ、踏みとどまるのに力がいります。それだけのプレッシャーがありました。 
 これがホントに十歳かそこらの子どもですか? 並みの大人以上の威圧感じゃないですか。

「これは、『調停者』の言葉。精霊の全権大使の言葉だよ。精霊全体の総意と思ってもらって構わない。時間がない。理由はルーランに聞くといい。じゃあね」
 キールくんはきっぱりとそれだけ言うと、姿を消しました。

 本当に忙しいみたいです。
 あわただしい訪問、そして帰宅でした。
 ……私たちのせいですけどね。

 そして、私はルーランに目をやりました。
「……ルーラン。どうしてですか?」
「お前が、一つの可能性を示してしまったからだ。人間が、精霊に対抗できる可能性を」

「……わたし、がですか?」
 私の見つめる中で、ルーランは頷きました。
「お前がこの星へ来たばかりのとき。お前は精霊の干渉をことごとく拒絶した」

「ぐ、ぐねぐねさんは拒絶してませんよ?」
「見えたからだ。逆に言えば、お前は、見えない精霊はすべて無視してのけた。その力の影響を受けず、干渉をはねのけた。完全に、完璧に。では、なぜお前は見えない精霊の干渉を拒絶できたのか」
 その答えを、私は、ずっと昔聞いたことがありました。

「……精霊がいるということを知らなかったから……」
「そうだ。今のお前は精霊がいる事を知っている。心がそれを受け入れている。可視化できる精霊を見ることによって、お前の不可侵さは破壊された。『いる』ことを知ってしまったお前は、精霊の干渉を受ける。そして、『知らない』頃にはもう戻れない。……だがな、可視化できる精霊は、精霊全体からすればごく僅かにすぎない。お前という存在が示した可能性は、精霊にとって無視できるものではない」

「え、えーと、私が精霊の力を受けつけなかったのは精霊がいるっていうこと自体を知らなかったからで、今はもう知ってしまったからその力はなくて、なら問題ないんじゃ……あ」
 やっと、私は気が付きました。

 一度、知ってしまったことをもう一度知らなかったことに戻すことはできません。でも。
「意図的に、そういう人を育てればいいんだ……」

「レイオス人にとって精霊とは、空が青いということと同じほど当たり前の存在だ。だが、一度も空を見せずに育てれば空が青いということを知らない者も育てられるだろう。とはいえ、たやすいとは思わない。精霊もまた、知性を持つ者。精霊がそれを黙って見ているとは思えん。一度でも空を見られてしまえば崩壊するのだからな。お前の前例を見る限り、可視化できる精霊を一度でも見てしまえばもう戻れない。だが……お前の知識を覗いてしまえば、それを解決する手段すら想定できる」

 私にも、その手段とやらがわかりました。私の知識。そのなかで「完全なる無知」を達成できるものといったら、一つしかありませんでした。
「機械……ですね」


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Date:2015/11/01
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