43 異世界人は初めて町を訪れる
初めて上空から眺めたレイオスの町は、驚くほど整然とした、豊かな町でした。
高層建築って、技術力との戦いなんですよね。
素人でも判る理屈ですが、平屋より十階建ての方がずっと建てるのが危なくて難しいわけで。
私が見た町は、はい、ビルと言っていいでしょう。そんな建物がズラッと並んでおりました。ぎゅーぎゅーのすし詰めです。
背の低い建物もありますが、比率としてはほんのわずか。
小さな小路が建物の間を縦横に縫っていましたが、狭い道です。
どうして、と思って、答えを思いつきました。
――『転移』するからだ。
思いついた瞬間、ぞくっときました。
……大規模輸送手段が必要ない。輸送船も貨物列車もダンプカーもいらない。クロネコ○マトもいらないし郵便局もいらない。
だから広い道は必要ないのです。
高い建物にも、恐らく魔力の補強があるのでしょう。だから高い建物が簡単に建てられる。
そして、狭い土地に対して効率よく人を詰め込むのは、縦に伸ばすのが一番です。
建物の材質は、石に見えます。光を反射する材質感から見て、石に見えました。でもこの世界の未知の鉱物かもしれません。
そういえば、九割の土地が精霊の物であるにもかかわらず、十億いるんでしたね。
地球の総人口が六十億であることを考えると、多いです。聞いたときには星の大きさが余程違うのかと思いましたが、都市部の人口密度が相当高い、と見るべきでしょう。
「もういいか?」
私を抱えて上空をホバリングしていた護衛さんが私に尋ねました。
結構この「飛行」というのは難しい術らしく、ルーランにはできないということで、凄腕の術者である護衛さんが来てくれることになったのです。
「あ、はい。ありがとうございます」
一瞬で視界が切り替わります。
うーん便利です、転移。
そうして私は、あっという間に異世界の街探訪を経験し、あっという間にそれを終了したのでした。
楽しくないとは言いませんが、ちょっとそぞろ歩きなどをしてみたかったな……って。
たぶん、永遠に叶わぬ夢でしょうけど……。
「もどりましたー!」
挨拶しながら湖に浮かぶ家の扉を開きます。
そして、凝固しました。
「……え? ルーラン?」
そこにはルーランはおりませんでした。
そして、室内の奥に見える窓から、彼の姿が見えました。
◆ ◆ ◆
急いで室内を突っ切り、奥にある窓に張り付きます。あ、窓は硝子(もしくは硝子に近い透明な物質)でできています。
「ルーラン?」
湖の中に浮かぶ家。
ルーランは、その湖の上に立っていました。
いつぞやのキールくんを思い出します。
――水面を渡る、幻想的な姿。
ですが、今、ルーランの足元は凍っています。いえ、足元だけではありません。かなりの広範囲が、凍っています。
家から出ました。
うわ……家の周りも凍ってるじゃないですか!
相当広範囲のブリザードですよ、これ!
だれが……って、ルーラン、ですよね。それ以外いません。
火をつけられるんです、分子の動きを低下させれば温度低下もできますよね。術ってこんなことまでできるんですか。
ルーランの表情は、ここからじゃわかりません。
ただ、黙って佇んでいます。
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