時期的には同人誌の六巻の後あたり。 同人誌を読んでなくても大丈夫です。
かなりがっつり性描写があるのでご注意ください。
リオンが絡み酒をするお話です。
「だいたいっ! ジョカが悪いんだっ!」
「……はい、すみません」
「人をっ、甘やかすだけ甘やかして! 駄目人間になったらどうしてくれる!」
「え、えっと、それは、その……」
「ジョカが悪い! ぜーーんぶわるいっ!」
「はいっ、そのとおりです!」
世にも珍しい光景が広がっていた。
先日拡張された住居で、酒を飲んで荒れるリオンと、その宥め役にまわってしまった素面に近いジョカである。
ジョカだって酒を飲んではいるのだが、こういう場合、より素面に近い人間に貧乏くじがまわってくるのが世の常だ。
酔っぱらってくだをまくリオンの世話を一生懸命しながら、ジョカは酒を持ちこんだ同僚を恨んだ。それはもう心から。
「……あのやろう……」
その上、張本人は真っ先に逃走した。リオンの絡み酒が判明すると同時に、魔法ですたこらと。
リオンは食欲は普通に(育ち盛りの少年基準の普通だが)あるが、酒を特に好んだりはしない。
一方、ジョカは酒はほとんど飲まない。好きではないのだ。
だから二人の食卓には酒は出ない。リオンが酒が飲みたいというのならジョカも用意するのにやぶさかではないが、ねだられたことはなく、だから出たこともない。
しかし、今二人の前に転がっている酒瓶は十本以上。
アルコール度が低く、飲みやすい果実酒だが、それでもこれだけをほとんどリオンひとりで開けたのだ。酔わない方がどうかしている。
――そしてリオンは立派なトラになった。
「ああたはっ、どうして私を甘やかすんだっ!」
「え、えーと、どうしてと言われても……」
可愛いから。
付属して好きだから。
それ以外の理由がどこにあるというのか。
「あなたがっ、わたしを甘やかすっていうのはな、私を対等に見てないってことなんだぞ!」
予想もしなかった言葉に、ジョカはぽかんとした。
「え、えーと……」
「あなたは私を甘やかしてばっかりで、頼ってくれないっ! 悔しいっ! すごくくやしいっ!」
「あの……リオン、その、な? 落ち着いて……」
素面のリオンだったら、口が裂けても言わない本音である。
というか、今ここに通常のリオンがいたら、縄で縛ってでもその口を閉ざさせているだろう。
「あなたが誰よりも強い魔術師だってことはわかってる! でも守られてばかりなのは嫌だ! おまけに、あの男と仲良くしてる! 悔しいっ!」
「……えーと、あのおとこ? だれ?」
ジョカはリオンに襟元をつかまれて揺さぶられた。く、くるしい。
「あなたの同僚だあああ!」
この大トラの元凶か!
「な、なんであいつが出てくるんだ!」
「あなたと親しい!」
「は、はああ?」
いやまあ親しいか親しくないかでは親しいが。
「あなたを助けた!」
「いや、助けてくれたのはリオンで……」
「私じゃあなたを助けられなかった! あなたを助けた! あなたと対等だ! 悔しい! くやしいーーーーっ!」
がくがくと揺すっていた手を止めると、リオンはその青い瞳からぼろぼろと涙を流し始めた。
本気で焦った。
「リ、リリリリ、リオンっ!」
リオンはプライドの高さは一級品なうえ、我慢強さも一級だ。
ベッドの上では毎回泣かせているが、そういう生理的な涙以外で彼の涙を見たことは一度しかない。
――そういや、あのときもあの同僚(バカ)がらみだった。
思い出して本気でむっとしてしまう、心の狭いジョカである。ついでに命の恩人を馬鹿呼ばわりしている。なんとも狭量な人間であった。
それはさておき、ジョカは一生懸命恋人の機嫌を取った。
「泣かないで、な?」
「――あなたの、そういうところが腹が立つんだあ!」
リオンが腕を振り上げ、殴られるかと体を竦めたら、逆に抱きしめられた。正面から、両腕でぎゅっと。
――え?
「わたしは、わたしは、わーたーし、は……。嫉妬深いんだ!」
「……以前も聞いたな、そのフレーズ」
「ジョカが、誰かと仲良くしていると腹が立つんだ!」
「はあ。……嬉しいです」
「ジョカが、私には見せない顔で彼と気安く話しているのが嫌なんだ!」
「いやあのそのそれは」
「私のことは守ろうとするくせに! 守らなきゃいけない存在だって見下しているくせに! 同じ魔術師仲間にはすごく気安くて! 入り込めない空気をふたりで作ってる!」
ぐうの音も出なかった。
「……いやそのだってそれは魔術師に比べりゃ誰だって弱いし」
言い訳も、下の下である。
ジョカは、リオンを、少し目を離したらその間に死んでしまうかもしれない雛鳥のように大事に過保護に扱っている。
だって心配なのだ。
好きで大切で、なのにあとたったの五十年ぐらいしかリオンは生きない儚い存在で、不慮の事故でも何でも、何かあったら人間はすぐに死んでしまうのだ。
――甘やかすっていうことは、対等に見てないってことだ!
先ほどの言葉が蘇る。
リオンが言う事も判るしもっともだと思うのだが、ジョカのリオンへの庇護欲はいかんともしがたい。
同じ態度をあの馬鹿にはしていない、というのももっともだと思う。
大切でないわけではないが、「同僚」なのだ。同じ魔術師だし、能力だって拮抗している。庇護しなきゃいけないほど弱くない。付き合いも長い。長いぶん、ぞんざいだが。
魔術師たちはみな、生まれてから一人立ちするまで一緒に暮らすので、兄弟のようなものだ。どうしても気心は通じるし、態度もそれに準じたものになる。
……そして、どうやら、リオンはそれが気にいらなくて不満を貯めていたらしい。
自分でも主張するようにリオンは独占欲が強い。
ジョカの昔馴染みがやってきて、魔術師同士で他人には意味のわからない会話を親しげに交わし、その態度に腹が立ったけれども大人の分別を発揮して我慢していたところ、酒でその大人の態度に穴ができて貯め込んだ不満が漏れだした、ということ……なのだろう。
「わたしはっ、あなたと、対等になりたいんだっ! 守られてばっかりは嫌なんだ! 守りたいんだ!」
同様の意味の言葉を、ジョカはリオンから聞いたことがあった。
男として、守られてばかりの現状がいやだ、というのは、ジョカにも理解できる。
できるが……、実際問題、魔術師をただ人であるリオンが守るというのは、かなり難しい。
「あの、そのな? 落ち着いて……」
抱きしめられたまま、ぽんぽんと背中を叩いて言う。
「私は落ち着いてるっ!」
「酔ってるって」
「私は酔ってないっ!」
「酔っ払いはみんなそう言うんだ。いいか、おまえ、起きたら物凄く後悔して落ち込むぞ。絶対間違いなく落ち込むぞ」
あのプライドが天より高い少年が自分のこんな無様な姿を覚えていたら、舌を噛み切りかねない。
「だからっ、私は、酔ってないっ!」
リオンは叫ぶなりジョカを押し倒した。
……厚手の高級な絨毯を敷いておいてよかった。それでも後頭部が痛い。
間髪いれずに口づけられ、ぬるりとした感触が口腔を覆う。
――拒絶する理由もなかったのでキスに没頭することにした。
他の男が同じ真似をしたら即座に銀河のかなたまでぶっとばすところだが、リオンが相手なら嫌でもなんでもない。
ジョカは酒臭いのは嫌い……いや大嫌いなのだが、リオンのものだと思えばそれもどうでもよくなるのが、実に現金である。
口づけは数分以上にわたった。
「ふ――……」
息継ぎの生々しい鼻音に煽られる。こすりつけられた腰は熱く高ぶっていて、相手も同じ状態だということを教える。
そして、リオンの教師は即物的で、弟子もそれにならった。つまるところ、ジョカの自業自得といえる。
「ちょ……あ」
素早くジョカの衣を乱すと、リオンは立ち上がりかけていたものを咥えたのだ。
「うあ……」
上目遣いにこちらを見るリオンの顔だけで、もっていかれそうになった。
口淫のやり方はさんざん教え込んだので、かなり上手い。
茎をつつむ唇と先端を刺激し、裏筋に這わせる舌、息遣いと表情。雄を刺激するやり方。
あのリオンにしゃぶらせているというだけで、体が際限なく熱くなる。
「……も、出る。はな……っ」
肩を押さえて引き剥がそうとしても、離れなかった。
腰が震えた。射精したものをリオンは躊躇なく飲み干す。喉仏が濃くりと動いた。
射精後の虚脱した体を起こして、今度は同じことをリオンにしようとして、肩を押さえられた。
体全体で押さえつけられ、リオンの指が後ろをまさぐる。
「抱きたいのか?」
素直に、リオンは頷いた。
「したい」
「……ま、いいか」
ジョカも素直に力を抜いて横になったが、蕾に乱暴に陰茎が入ろうとするにいたってそうも言ってられなくなった。
「いた……っ、いたいって!」
「入らない」
リオンは途方に暮れたように言う。やっぱり酔っているのか、いつもの思考力がない。
「馴らさないと入らないって!」
潤滑油も使っていないし、馴らしてもいないし、慣れてもいない。三重苦で入る方がおかしい。
ジョカは上下を入れ替えて、リオンを床に押し倒した。
「ああもう……。抱かれるのは構わないけど、やり方ちゃんと覚えろ。俺はお前を抱くとき、ちゃんと馴らして、滑りやすく軟膏使っていただろう? 男同士なんだから、準備しなきゃできねーよ」
「うん……」
と、従順にリオンは頷いて、ふっさりとした睫毛を下し、目を閉じた。
――可愛い。
どくんと、心臓が脈打つ。先ほど出したばかりの欲望に熱が灯る。
色づいた唇が魅力的で、ジョカは体をかがめて口づける。
舌をねぶって離し、リオンを見下ろしていった。
「抱きたい。いいか?」
そろそろ我慢も限界だった。
潤滑油を用意し、うつ伏せにさせて後ろをまさぐる。
「あ……あ、んっ」
中の弱いところを刺激すると、前はむくむくと大きくなった。それを指でいじり、出る寸前まで大きくして、体を重ねた。
皺がなくなるほど蕾が広がり、太い切っ先をのみこんで、ずぶずぶと埋まっていく。それを見ているのは総毛立つほどの征服感だった。
「う……あ……あ」
「ん……あとちょっと……入った。気持ちいい。リオンもいいか?」
「いい……。もっと、して」
「……本当に酔ってるな」
呟いて、ジョカは動き始めた。彼が拓き、馴らして隅々までよく知っている体だ。弱いところも、よく知っている。前に手をまわして胸をいじれば中がきゅぅと締まる。
「ン……しまる……」
リオンの中はとても熱い。奥を突くたびに内襞が絡みつく。
その締め付けに持っていかれそうになるのを堪えた。ゆるゆると、腰を前後させる。
「はあ……あっ、あん、ジョカっ、もっと……」
「もっと……なに?」
「突いて……動かして。きもちいいとこ、擦って」
「……後で記憶残ってたら殺されそう……」
性交の高揚で言葉で煽り合うことはあっても、そういう確信犯めいたわざとの言葉のやり取りではなく素の状態でリオンがここまで言ったことはない。
最後の最後までリオンの中に残った羞恥心が、なかなかそういう言葉を口にしてくれないのだ。
ジョカは腰の動きを速めた。前後するたびに結合部から淫らな水音が響き、肌を打ちつけ合う音が響く。
「あ……ああん……っ、あ……っ! あああっ!」
声に煽られ、我慢しきれずに持って行かれた。
「あ、つい……の……出てる……」
奥に射精しきって引き抜き、リオンの体を転がして仰向けにさせる。
怜悧な美貌に、茫とかすんだ瞳、事後の色気の滲む様が何ともたまらないほど扇情的で、そのアイスブルーの瞳に口づけを落として、今度は足を抱えて正面から挿入した。
「あ……また……っ」
リオンが侵入してきた質量に身をよじる。
「……なあリオン。俺が好き?」
ズルいかもしれない、と思いつつ、誘惑に耐えられなかった。
こくりと、リオンが頷く。
「好き。誰より、好き」
子どものように素直な返答に、ジョカは一言謝った。
「……ごめん。我慢できないわ」
理性の箍が、外れた。
抜けるぎりぎりまで深く引き、最も奥まで貫く。腰を打ちつけるたびに担いだ足が揺れ、薄く開いた唇から声が漏れた。
「あっ、あっ、ああっ、あんっ」
上がる艶声、桜色に上気した肌。瞳は欲情に染まり、足を滑稽なほど大きく広げられ、後ろに男根を受け入れて、奥を抉られるたびに淫靡な声をあげている。
王族然として、常に冷静で傲慢に人を見下しているリオンが、男に組み伏せられ犯されている姿。
――こんな姿は、誰も知らない。
そう思うだけで、熱が際限なく猛り狂う。
二人の荒い息遣いと声、肌のぶつかる音と、結合部からのぬちゃぬちゃという淫らな水音だけが空気を揺らしていた。
さっき中で出したものが、肉棒を出し入れをするたびに少しずつこぼれ落ちる。
――匂いで、ばれる。
頭の隅でそう思うものの、奥を突くたび歪むリオンの顔を見ていると自制はきかず――結局。
一回熱を吐き出してもまだおさまらず、後ろから抱き抱える形に体位を変えてもう一回交わって、ジョカはやっとリオンを解放した。
◆ ◆ ◆
翌朝、リオンはさっぱりした気分で目が覚めた。
「――あれ?」
何一つ身につけているものはない。全裸だ。あと、体の奥に鈍い痛みがある。そして、どことは言わないが、すっきりしている。
これだけ揃えば、想像はつく。
――ああ、ジョカとしたんだな。と。
騒ぐようなことでもない。いつものことだ。
ただ……記憶がない。酒を飲んだ事は憶えているのだが、その後がさっぱりだ。
「……酒に酔ったジョカに押し倒されたのかな?」
いえ、押し倒したのはあなたです。
まあいいかと、ジョカに押し倒されることに慣れているリオンはそれで片づけた。
そこに、ジョカが顔を出した。
「――リオン? 起きたのか?」
「ああ……」
リオンははっきりしない頭を振る。短く切られた金の髪が揺れた。
「昨日、あなたと寝たんだよな?」
「した。……憶えてないのか?」
「悪い。まるで憶えてない。酒を一本開けたぐらいまでは憶えているんだが……」
――何故かそこで、ジョカは沈黙した。
その様子にリオンは不安になる。酒を飲んで記憶をここまで失った事など初めてだ。まさか、粗相をしたのではないだろうか。
「あの……昨日私はなにかしたか?」
「うん。俺を押し倒した」
「はあ。ジョカを……」
反応が薄いのは仕方ない。なんせ、ほぼ毎日体を重ねている相手だ。
見知らぬ女性を襲った、なんていう場合とでは重さが違う。
「で、馴らしもせずに入れようとして、入らずに文句を言った」
「……それは、申し訳ない」
ジョカの体はリオンのように、しょっちゅう雄を受け入れているものではない。馴らしもせずに入るはずがないだろう。
「で、逆に俺が押し倒した」
「ああ……うん」
そういうことか、とリオンは体の節々に残る鈍痛に納得がいった。
「……それだけか?」
「一応それだけかな。あ、お前、かなりの量の酒飲んでたぞ。大丈夫か?」
リオンは頭を振ったり体を少し動かしてみる。
「……ううん? まあ、大丈夫かな」
「二日酔いも、なし?」
「ない」
昔から、二日酔いにはならないタチだった。(作注! この世界での成人は十五ですが、子どもはお酒を飲んではいけません!)
何やら、ジョカは真面目な表情でリオンの隣の寝台に座った。
「……なあ、リオン」
「うん?」
「二つほど、言っておきたいんだが……」
「ああ」
「――ひとつは、絶対、誰かの前で、深酒するな。お前昨日いきなり俺を襲ったぞ」
「…………………はい。しません」
神妙に、リオンは答えた。答えるしかないではないか。
酔っぱらってジョカを押し倒した自分は、男同士の手順も何も忘れて突き立てようとしたのだろう。そして文句を言ったわけだ。ジョカが相手だから良かったものの、下手な男に同じことをしたら、逆に犯されても文句は言えない。
「そして二つ目は……なあ。俺は、お前を甘やかしているし守りたいと思っているけど、それは、お前を見下しているってことじゃないからな?」
――私は、昨日、いったい何を言ったんだ。
リオンは記憶のない自分に盛大な罵倒を投げつけた。
気の置けない様子のふたりにちらりと嫉妬が胸をよぎったのは認める。だが、それを表に出すほどリオンは子どもではない。
対等に言葉を交わすふたりとはちがって、庇護されるばかりで対等ではない関係を思い、羨ましいと思った事も認める。でも、あの状況でそんなことを言うほど愚かでもない。
――せっかく自分の醜い感情を胸の内に納めてちらりとも出さずにおいたのに、気づかれていない自信があったのに、いったいどこまで暴露したんだ自分の馬鹿が。
激しく気になったが、自分から質問して墓穴を掘りたくはない。
リオンはジョカを真っ直ぐに見つめて、言った。
「あのな。私は……馬鹿じゃないつもりだ」
「……?」
「今、現在、あなたが私の保護者であることも、自分があなたに庇護されるしかない存在であることも判らないほど、愚かではないつもりだ」
「――」
「この間も言った。私を見損なうな。自分が無力であるという、それぐらいのことすらわきまえていないほど、私は愚鈍じゃない」
数秒の間、沈黙がおりた。
かつて、ジョカはリオンに言った。無知であることを知るのは、知の始まりであると。
リオンもそう思う。自分が無力であるということを自覚していることとしていないのとでは、大きな差がある。自分が何もできないということを知るところから、始まるのだ。
「……確かに、見損なってたな。ごめん」
ジョカは、素直にそれを認め、謝罪した。
リオンは、己の現状を勇気を持って認めることのできる人間だった。
「今の私が、あなたに庇護されるしかない存在であることぐらい、判っている。昨夜私が何を言ったかは知らないが、忘れてくれ。私は、自分が無力なことも知らないであなたに駄々をこねて困らせるほど、子どもではないつもりだ」
でもな、とリオンは続けた。
「待っていてくれ。そう遠からず、私は、あなたに庇護されずともいい人間になってみせるつもりだ」
それは、世界で唯一の魔術師が丹精込めて様々な知識を教え込み、育て上げ、その頭脳にお墨付きを与えたひとりの人間の、決意だった。
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