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あかね雲

□ 黄金の王子と闇の悪魔 番外編短編集 □

男が女装するには適性が必要です 1


 女装をして似合う男と言うのは、相当過ぎるほどの希少種であると思う。

 誤解している人間も多いが、女装の似合う似合わないに顔の綺麗はあまり関係ない。人間は首から上だけを見るのではないのだから。

 まず、何と言っても骨格の問題がある。
 肩幅、腰、歩き方ひとつとっても女性と男とでは違ってくる。

 また肉付きの問題もある。筋肉隆々の女性が、女性であっても男性的な空気を感じさせるように、筋肉というものは外見に男性的要素を追加させるものである。
 リオンの体は細身だが筋肉質で、女性的な線の細さがないのだ。

「――で、なんであなたは私にドレスをあてるんだ」

 かなり不機嫌な顔で、リオンはジョカを睨みつけた。
「……うん、似合わないなあと」
「そんなのわかっているだろうに」

 ジョカは先ほどから、虚空からドレスを取り出してリオンに当てて首をひねっている。
 リオンは不機嫌な顔をしているがそれでも一応は付き合っているあたり、非常に仲がいいといえた。

 ジョカも本気で女装させようとしているわけではない。
 単なるおあそびだ。

 リオンは、なんせ絶世の美女と言われた母そっくりの顔なのだ。女顔であることは理解していた。
 がしかし。
 リオンは首から上だけなら化粧すれば女性に見えるが、ドレスはまるで似合わない。

 リオンの骨格は、すでに少年のものとは言い難い。
 栄養に不足せずに、充分な運動を行った結果、タテにもヨコにも増えている。
 元々の骨格が、女性的なものではないのだ。

「背が高すぎるし、肩幅も広すぎて、一般的な女性服って入らないんだよなあ……。横幅は太った女性のを使えばまだ何とかなるとしても、スカート丈がひざ下ぐらいになっちゃって……」
「……そんなみっともない格好する気はないからな、言っておくが」

 と、釘を刺すが聞いている様子はない。

「さすがの俺も、洋裁まではできないからなあ……。リオンが腕を上げ下げしたらそれだけでドレス破けそう」
「つんつるてんの不格好な姿だな。すね毛丸出しだ」
「リオンの足って、こう……筋張っているんだよな。もろに男の足だとわかるというか」
「そこまでわかるんならやめろ。もうやめろ」

「え? だって女装してくれるって言ったじゃん」
「それは、もう、しただろうっ!」

 リオンにドレスは似合わない。いくら女顔でも標準以上の体格の男に、ドレスは似合わないのである。
 だから、以前、ジョカは魔法の無駄遣い以外の何物でもないが、わざわざ女性化する薬まで作って「飲んで♪」とやったのだった。

 とにかくあの不用意な約束はそれで清算したハズである。
 体にドレスをあててもぞもぞ言うぐらいまではまあ許容範囲だが、着る気はない。
 おまけにジョカ自身、リオンには「似合わない」と理解しているのだ。

「私が女装しても、不気味なだけだぞ。言っておくが。まともな男が女装して、様になるはずがないだろう」
 肩幅が広すぎる。首がごつすぎる。服を着たシルエット一つとっても、ウエストが太すぎる。あの悪名高きコルセット装着済みの胴の細さはないのだから。
 そして背が高いので、丈も合わない。

「大体あなたは、なんで私を女装させたいんだ」
「町を二人でそぞろ歩いていちゃいちゃしたい!」
「…………なんで?」
「男同士が公衆の面前で腕を組んで歩いていたとする。お前はどう思う?」
「そっちの趣味かと思って遠巻きにして近づかない。男同士なのに良くやるよと思う」
「そうだよな、そうなるんだ。でも俺は、盛大かつ大っぴらにいちゃついて、羨望とやっかみの視線で見られたいんだ! それには男女にならないといけない!」

「――なら、まだあなたの方が合っていると思うが」

「え?」
 と、ジョカが言った時には遅かった。
 リオンは素早くドレスを奪ってジョカの体に当て、首をひねる。
「……やっぱり、似合わないな」

 ジョカも、どこから見ても男性である。
 ドレスを当てても似合わないのだ。
 リオンよりも線が細いとはいえ、それでも男女の差は超えようもない。
「首も肩も腕も違うんだよな……。背も高いし。よし、この間の薬、あなたが飲め」

「え? えええ?」
 予想外の展開にジョカは焦るが、リオンはにっこり笑って言った。
「立派な女性になったあなたを、私がきちんとエスコートしてあげるから、今度はあなたが飲め」

 ――人を呪わば穴二つ。

 ジョカはにっこりと笑うリオンを見て、反論の愚を悟った。
 大人しく、自分で薬を飲んだのだった。





定番ですが、女装ネタです。
でもこの二人、揃って長身で骨格的にも明らかに女装が似合わないので、普通に女装しても不気味なだけです。(皆さん、リオンは首から上だけは女顔ですが、それだけで女装は似合わないですぜ)
そのため丸ごと変化させる魔法薬を使うことになったのでした。まさに魔法の無駄遣いですが!(笑)。
でも「才能の無駄遣い」シリーズって、なんであんなに面白いんでしょうね?

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Date:2015/11/07
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