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あかね雲

□ 黄金の王子と闇の悪魔 番外編短編集 □

※愛の言葉を語りましょう


甘々な話が、無性に書きたくなって書きました。

砂吐くほど甘いです。
糖度は激高。エロありです。
あまりの甘さにディスプレイを叩き壊したくなるかもしれません。
そういうのが嫌いな方は、絶対に、読まないでください。




 ジョカは、愛情を伝えるのがかなりマメなほうである。
 これはちょっとした過去の教訓もある。照れだの恥ずかしさだのが勝って言わずにいて起きた悲劇を思い起し、同じ轍を二度と踏むまいと思えばせっせと愛の言葉をささやく気にもなろうというものだ。

 結果。
 リオンは割合頻繁に、耳がとろけそうな言葉をささげられている。

 リオンの方も、もちろん言われて嫌な気分はしない。
 それが心からの言葉だと伝わってくるのだから尚更だ。

 リオンは褒め言葉にも愛の言葉にも不足はしない身分だったが、有象無象からの鬱陶しいばかりの愛の言葉とは違い、ジョカに捧げられる愛の言葉はただただ心地よい。
 なるほど、言葉一つとっても相手が違えばちがうものだ――リオンはそう感心しつつべたべたに自分を甘やかす魔術師の愛情に浸っていた。

 なお、ジョカが積極的なのは愛の言葉をささやくことばかりではない。
 愛情を伝える行為の方も、かなり、相当に、積極的である。

 リオンが嫌がれば無理強いはしないが、そこはリオンも性欲旺盛な十代である。リオンだってしたいのだ。

「リオン、しよう」
 と言葉ではっきり言う時もあれば、目線や態度でそれとなく欲情を相手に伝えて始めるときもある。
「ジョカ。したい」
 と、リオンの方から言いだすことも、たまにはある。

 恋人同士の一夜を過ごすにあたって(夜でない場合も多々あるのはさておき)リオンが協力的なのにも理由があって、ジョカは決して、独りよがりな抱き方をしない。
 ジョカが一人で穴に入れて出しておわり、の抱き方をしない。
 リオンの負担が少ないように、リオンが気持ちいいように、抱く。

 だからリオンの方も、滅多にジョカの誘いを断らないし、時には自分から誘うのだ。
 恋人に性行為を拒絶される人間は、自分のやり方を反省する視点を持った方がいい。ひとりよがりなやり方ではなく相手に快感を与えていれば、気持ちいいことを嫌いな人間はいないので相手も協力的になるものである。

 その日。
 リオンは朝食を食べていてジョカの視線を感じた。
 具体的にはうなじや襟首や口元などに。
 その視線の気配に不穏なものを感じつつも、リオンはとりあえず黙殺して食事を続けた。
 食事は大事だ。特に体力を使う前には栄養補給をしておきたい。

 成長期の少年の食欲をいかんなく発揮し、皿を綺麗に空にする。
 食事が終わり、顔を上げると、対面に座っているジョカと目が合った。

 情欲の混じった眼差しは、不思議とわかるものだ。
 どうしてか、はっきりと違う。色がついているように。
 ジョカが何を言いたいのか、何を求めているのか、手に取るようにわかって、リオンは唇を寄せた。

 ジョカは、啄むようなキスが好きだ。
 だからリオンもそういうキスにして、すぐに離れた。

 そして驚いたようにこちらを見ている魔術師の瞳にくすりと笑って囁いた。
「寝室に行こう」

 ――繰り返すが、リオンだってジョカと寝るのは嫌でも何でもないのである。

     § § §

 寝室で深く唇を合わせた。
 お互いの髪に指をもぐりこませ、貪るように口づける。リオンは女性相手だろうが他人の唾液をすするのはきらいだったが、ジョカ相手なら何とも思わない。

 やっと唇を離し、ジョカの手に顔をつつまれる。
 黒曜石の瞳がリオンを見ていた。
「好きだよ、リオン」
 狂おしいほどの情熱を注がれる。
 一片の疑いもなく、この黒髪の魔術師の心のすべてを独占していると確信できる。

 その奔流のような愛情を心地よいと感じてしまう辺り、リオンもいい加減この魔術師に溺れている。
 二人で服を脱ぎ寝台にあがると、ジョカはリオンの足を開かせ、躊躇なく股間に顔を埋めた。

「あ……ッ、んっ」
 寝台の上で足を大きく開き、後ろに手をついて、自分に奉仕する魔術師を見る。
 金というより茶色に近い陰毛の真ん中に、黒い頭がある。

 生温かい口腔内に納められ、くびれや先端を舌や咽輪で愛撫される。
 寝室内にかすかな水音が響く。
 手が袋をもむと同時に熱い舌が陰茎に絡みつき、くびれや先端を刺激する。
 かれは、自分の口と舌を使ってリオンを愛撫することに夢中になっているように見えた。
「ジョカ……出る……っ」

 しごくように吸われて、リオンはジョカの腔内にすべて放った。
 出したものはジョカが飲んだ。
「嫌じゃないか?」

 リオンもジョカのを飲んだことはあるが、味がよろしくない。監禁されていた時は命じられるままに飲んでいたが。
 愛していようがなんだろうが、まずいものはまずいのだとリオンは言いたい。
 愛していなければ男の精液なんて飲むのは死んでもごめんなので、確かに嫌悪感は大幅に減じているのだけれど。

「リオンのならへーきだけど? いやむしろ飲みたい」
「飲みたいのか?」
「おまえのならおしっこも飲めるかも……」
「――今思わず蹴倒したくなった」

 リオンの足はジョカの目の前。非常に蹴りやすい位置にある。
「なんでだよー」
「気持ちわるいっ! 他人に自分の排泄物を食べさせて平気な人間がどこにいるっ」
「えー。俺はリオンのなら大の方でも」
「それ以上言うな。愛情が減じそうだ!」

 全身に鳥肌を立てつつ言うと、ジョカもリオンの反応を見て引いた。
「ごめん」
 頬に唇が当てられる。
「機嫌直して?」
「……ん。じゃ、今日は私は何もしないから、全部やってくれ」

 ジョカはにまっと笑った。
「されるがままの無抵抗っていうのも、結構そそるけどなー」
「じゃ、そういうことで」
 リオンは全身から力を抜き、仰向けに寝台に転がった。

 最初は首に口づけ。そこから下がって鎖骨のくぼみを丹念に舐め、吸い上げられる。
「ん……っ」
 そこを刺激されると、くすぐったさに反応してしまう。ジョカは肩の稜線を少し噛んで刺激を散らすと、リオンの右膝の裏に手を差し入れ、膝を立てさせた。
 リオンは言葉通りに体を投げ出し、人形のようにされるがままだ。

 露出した後孔に潤滑油をたっぷりつけた指が差し入れられる。
 含み笑いをするジョカの声が耳朶に届く。
「なあリオン……。知ってるか? 何も動かない相手に好き勝手するっていうのも、結構そそるシチュエーションなんだぞ」

「それはたまにだからいいんであって、いつもそれだと嫌になるんじゃないのか?」
「否定はしない」
 笑いながらジョカはこめかみに口づけた。
 精を飲んだ直後のキスはいやだ、と以前リオンが訴えたことを、ジョカはちゃんと覚えてくれているらしい。
 後味が消えた後ならいいのだけれど、誰しも自分の精液の味なんて味わいたいとは思わないだろう?

 差し入れられた指が内部で巧みに動き、リオンは熱を帯びた吐息をもらした。
「は、あ………ん…っ…」
 ジョカが指を増やし、リオンを追い上げる。
 ちゅぷ、という音とともに指が出し入れされる。
「きもちいい……?」
「気持ちいい……もう、いいからっ」

 すなおに告白する少年を、ジョカは見下ろした。
 誰よりも愛しい少年が力なく寝台に横たわり、自分の愛撫に反応して体を熱くしている。

 ――こみあがる欲情を、意志の力で制御する。
 リオンは男で、自分も男だ。神がそう定めた組み合わせではなく、欲望のままに振舞えばリオンが傷つく。

 好きでたまらなくて、愛しくてたまらない。
 そういう相手を抱ける、そんな喜びを実感しながら、ジョカはリオンの腰の裏に枕をさしこみ、足を開かせた。
 後孔に性器を押し込んでいく。

 挿入にさほどの力はいらない。油を含んだそこは、驚くほどスムーズにジョカを受け入れてくれる。
 リオンが顔を横にして、指の節を噛んだ。
「あ、ん…んん………んっ!」
 受け入れるリオンの方も、体の力を抜いて入れやすいようにしてくれる。根本まで入れると、ジョカは息を吐いた。
 リオンの内部はいつも熱い。油を含んでぬめる内壁が、ジョカの性器をぴったりと押し包んでくる。

 正常位で体をつなげると、受け入れる側の負担が大きい。
「痛いか?」
「……だい、じょうぶ……。動いていいから……、アッ!」
 いい所を突かれ、リオンが鋭い声を上げた。

「あっ、ああ、う、あんっ!」
 腰を揺らし、抽送を繰り返しながら、リオンが悶えるさまを目で楽しむ。
 男でしかない相手が乱れる様子に、煽られてしまう。
 ――時々、ジョカは自分の性嗜好について疑問に思うこともあったりするのだが、好きだからしょうがないという結論に至る。

 相手は男なのに、なんでこんなにも欲望をかりたてられるのか。
 答えなんて、一つしかない。
 好きなのだ。愛しいのだ。
 こうしてこのように体をつなげることができることが、それを受け入れられているという事実が、たまらなく嬉しい。

 ジョカは乱れるリオンの顎をつかみ、目を合わせた。
 あの日、凛として覇気あふれ、ジョカを魅了した青いひとみ。
 その目がいま、欲情に煙って彼を見ていた。
「リオン。――リオン。リオン……」

 どうしようもなく欲望がたぎって、ジョカは腰を早めた。
 奥を穿つたび、大気の中にリオンの息遣いが混じる。
 喘ぎでしかない声が。

「えッ、あうッ、ア、アッ」
 正常位のいい所は、お互いの顔が良く見えることだ。
 秀麗な顔は快楽に滲んで、あえぐたびに白い歯とその奥の薄紅色の舌が見える。
 リオンは感じていた。ジョカに内部の敏感な部分を突かれ、擦りたてられて。

 ジョカが見えるという事は、リオンからも見えるという事だ。
 組み伏せられ、足を開かされ、体の奥まで性器を挿入されて喘ぎながら、リオンもジョカを見ていた。
 ――その青い瞳に、ジョカはどういう風に映っているのか。
 みっともなく欲望に駆り立てられ、猿のようにみっともなくがっついて抽送を繰り返す男か。それとも、自分に夢中になっている愛しい恋人だろうか。
「ハッ、ハッ、ハッ……くっ」

 ジョカは息を詰めた。
 体を固くして、リオンの体の中を欲望で汚す。
「あ……ジョカが、出てる……」
 絞り取ろうとするようにしまる内壁に最後のひとしずくまで出し切ると、ジョカは引き抜いた。

「ん……っ」
 引き抜かれる感触に長い睫毛を揺らす眼差しの色気に陶然としながら、ジョカはリオンを撫でた。
 そこは後ろへの刺激で立ち上がってはいたけれど、出してはいない。

 ジョカはリオンに上にかぶさって、深く唇を重ねながらリオンの中心を撫でる。
 深いキスの合間に、リオンに告げた。
「……好きだよ、リオン」

 言った直後に弾けて、ジョカはくすりと笑いながらもう一度口づけた。
 汚れた手をシーツでぬぐい、手と手を重ねて寝台に沈み込むように、完全にリオンの体の上に乗り上げるかたちで、深く。口づける。

 リオンがジョカのことを好きだということは、知っている。
 好きだよとか、愛しているとか。
 リオンはジョカが言うほどはその言葉を返してくれないけれど、それでも時々は言ってくれたし、こうしてジョカが囁いたときの反応は何より雄弁だ。

 狭い口腔のなかで、リオンの熱をつかまえてからませ、あふれる唾液をすすりたてる。
 長いキスを追えて、ジョカは超がつく至近距離からリオンの瞳を見つめてたずねた。
「俺はリオンが大好きです。愛してます。リオンは俺の事好きですか?」

「…………そ、そういうことを、聞くか!? この状況で!」
「こういう時だからこそ聞きたいんじゃないか」
「いつも言ってるじゃないか」
「何度言われても嬉しい。何度でも言ってほしいです」
 ジョカが追及すると、リオンは折れた。基本的に、リオンはジョカがねだると折れてくれる。
「……私はあなたが好きだ、ジョカ」

 何度言われても、やはり嬉しい。
 ジョカは満面の笑みを浮かべ、リオンの唇をついばむと、手をリオンの胸元へと移動させた。

「あ、え……?」
「一回じゃ物足りないだろ?」
 寝台に手をつき、リオンの上から体を浮かせる。
 ジョカはにっこり笑って尋ねた。
「前からと後ろから、どっちがいい?」

 ――リオンが選んだのは後者だった。




 美味しくいただかれ、リオンはジョカに担がれる形で浴室に入った。
「う~~、腰がいたい……」
「ごめんごめん」
 へらりとジョカが謝る。
「誠意がない!」
「でもリオンも気持ちよかっただろ?」
「……否定できないところがつらい……」

 事後の睦言は、寝台の中より浴室ですることが多い。
 よほど体力を消耗した時や気分でないときをのぞいて、事後は風呂に直行になるからだ。

 リオンが浴槽のへりに腕と顎を乗せていると、背後からジョカがうなじに口づけた。
「……今日は、もう体がもたない……」
「わかってる……」

 優しくジョカが濡れた髪をなで、首すじに何度も唇を押し付ける。
 肩口や肩甲骨にも唇の感触を残し、湯から露出している部分すべてに刻印を残す。

「リオン……」
 熱っぽく名を呼ばれるたび、リオンは腹の底に震えが走る。この感覚を何といえばいいのだろう。
 羞恥に似た、いてもたってもいられないむずがゆさと同居する、圧倒的な嬉しさ。

 ジョカはリオンが好きなのだ。それはこうして触れ合うたび、実感できる。
 言葉だけでなく、態度で、声で、呼び方で、自分に触れる手で、愛されていることを実感できる。

 そして、リオンもジョカが好きだ。

 ジョカはリオンが好きで、リオンもジョカが好き。
 お互いがお互いに恋をしている。
 それは世の中にありふれている、一つの奇跡だった。




甘すぎてごめんなさい……。(糖死)

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Date:2015/11/19
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