謁見の際は、国王その人が玉座につき、その脇に王妃、衛兵と大臣何名か。そして、謁見を求めて何年も待ち、ようやく順番が回ってきた人々がいる。総勢で五十名ほどが謁見の間に集まっていた。
リオンが現れたのは、そのど真ん中だ。
虚空からの出現劇に、誰もが目を疑った。
そしてよくよく眼を凝らせば、そこにいる人の美貌は見間違いようもない。
行方不明となり、生存すら絶望視されていた、王太子そのひとに間違いなかった。
「お騒がせして申し訳ございません、ご列席の方々および、父上」
リオンは右手を広げ、優雅に一礼する。その傍らには、黒ずくめの魔術師。
突然の出現に居並ぶ一同は揃って硬まったが、そのうちの一人が震える舌を何とか動かして言う。
「お……王子……? 一体今までどちらに、いえ今どうやってお越しになったのです!?」
リオンはそれを言った大臣に顔をむけ、笑顔を振る舞う。
「すべて、説明いたします。ですが、その前に、紹介いたしましょう。―――長年この国の守護をつとめてくださった、この世に残る最後の魔術師、ジョカです」
人々の視線が、黒ずくめの青年に集まる。ジョカはそれを睥睨し、恐れる様子もなく鼻を鳴らした。
「我が国が神の恩寵あふれる国というのは、周知の通り。それは彼の力です。初代国王が彼を封じたときより三百二十年の間、我が国は彼を秘密裏に幽閉し、その力でもって国の安寧を図ってまいりました。そして、その存在は我が王家の秘中の秘として、代々王位を継ぐ者にのみ、伝えられてきたのです」
玉座にて、唖然としていた王が血相を変えて立ち上がった。
「リオン! 何をいうのだ!」
国王は、衛兵を呼ぼうとしてジョカの魔法に全身をからめ取られる。それは動きかけた衛兵にも同じように及んだ。
「あんたは黙ってな。あんたの良く出来た息子がいなけりゃ、とっくの昔にその首豚の餌にしてるところだ」
リオンは少しつらそうに眉を寄せたが何か言うことはなく、話を続ける。
「ジョカの力は今ご覧になった通り。皆さんもご存じのあの日。三百年の月日に封印はゆるみ、遂に彼は解放されました。あの宣言は紛れもなく彼のしたことです」
自分が封印を解いたということをリオンは秘めた。保身のためではない。馬鹿正直にリオンが解放したと言えば、これから先天災が起こったとき、王家へ非難が殺到するからだ。
ジョカは恐ろしい笑顔で言う。
「よくまあ、三百二十年も人のことを幽閉してやりたい放題やってくれたもんだ。この国の人間すべて皆殺しにして綺麗さっぱり更地にしてやるつもりだったぜ」
紛れもない本気を感じ取って、列席するものに冷や汗が浮かぶ。
「それを止めたのが、ここにいるお前らの王子だ。感謝するんだな。ひと月の間必死に説得する王子に、俺も折れた。ただし、何の代償もなくって言うんじゃ、俺の腹の虫がおさまらん」
リオンは父王に目をやり、一瞬だけ顔を歪めたが誰にも悟られることはなかった。
リオンは父に深々と頭を下げる。
「父上、親不孝をお許しください。私は、この国に戻ることはできません。どうか私のことは死んだものと思ってくださいますよう。私は、長年国を守護してくださった魔術師に、ご恩返しをしたいと思います」
……いい父だった。ジョカを幽閉し続けることを選んだ人だけれど、罪悪感にさいなまれ、リオンの説得に最後は折れてくれた。けれど、もう、同じ道は歩めない。
ジョカはふてぶてしく笑って、その場の一同をぐるりと睥睨した。
「そういうわけだ。王子の身柄は貰っていく。その代わり、復讐は諦めてやる。もし、この交換に不服だっていうんなら、いつでも取り返しに来い。ただし、その時は中断していた復讐を再開して、全国土を焦土にしてやるからそのつもりでな」
にやりと笑って、ジョカがリオンの腰に手をまわす。
怒涛の展開に反応できずにいる列席者の眼前で、来た時と同じように唐突に、姿が消えた。
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