「へーえ。こりゃあ滅多にいない上玉だ」
そうかなあ。
村にいた頃はさほど可愛いって言われたことないんだけどなあ。
首をひねる少女だったが、それにはこんな訳がある。
少女の顔立ち自体は、美少女というレベルですらない。せいぜい中の上、可愛いけどそれだけ、と評される程度である。
なのだが――少女は、普通の村娘ではない。力量(レベル)の絶対値が高すぎた。
これが外的景観に与える影響としては、容貌の与える印象が数段上になることが挙げられる。
顔が変貌するのではなく、外見が人に与える印象が、変化するのだ。
俗な言い方をすれば、「平凡な外見を内面の輝きが補っている」状態である。
「安心しな、いーいところに連れてってやる。町であくせく働くよりずうっといい暮らしができるぜ」
でも、その代わりにいろいろあるよねー。
「ま、大人しくしてな。処女だっていうんなら高く売れるしこっちとしても手荒な真似をする気はねえ」
それはどうもありがとう。
涙を浮かべ、恐怖におびえる顔をしながら、少女は男たちに連行された。前後を屈強な男たちに囲まれたら逃げられはしないだろうと、拘束すらもなしだ。
行きついた先の牢獄には、見張りすらもいない。
牢の中に入れと言われ、素直にその通りにすると、外からがしゃりと錠前がかけられた。──それだけだった。
男たちは牢から離れ、戻っていく。
少女は親指の爪ほどの太さの鉄棒を組み合わせてできた牢を握りしめる。
少し力を込めるだけで、ぐにゃりと手中で鉄が身をよじる感触があった。硬度強化の魔法も、形状維持の魔法もかかっていない単なる鉄だ。
少女の力なら、曲げることは造作もない。
牢の中には、同じぐらいの年頃の人族の少女が五六人いた。
それだけだ。
人族以外もいないし、男も、若くない女性もいない。
ただの年若い娘―――となれば、高く売れる市場は決まっている。
(近隣の町の娼館の労働者供給……かな)
娼館は、働き手を。こいつらは報酬を。うん、助け合いの関係はウツクシイデスネ。
―――反吐が出る。
絶望の顔でうなだれている女の子たちを見回して、少女は労働意欲が湧いてくるのを感じる。……まったく。こういうことをする下種は。
危険なんかなんにもない。隠蔽魔法で姿を消したコリュウが、少女をずっとつけている。
なんせ、暗殺者がひと山いくらでいる少女だ。
いつもの装備を外した状態でふらふら一人で行動するなんて、仲間が提案するはずもない。
護衛として、コリュウがこっそりついてきたのである。
パルも牢の鍵をあけて、戻ってきた。
「鍵開け」という行動をしてしまったので、すでにその身体は誰にでも見える。
彼を掬いあげ、胸ポケットに入れて、少女はすっくと立ち上がると、ひとこと言った。
「コリュウ!」
ぽん、と手の中に落とされたのは装備の詰まった袋。
装備一式の詰まった袋を首元に巻き、姿を消してついてきていたコリュウが投げたものだった。
隠蔽魔法の効力切れで、小さな緑竜が姿を現す。
少女は手早く装備を身につけると、後ろの女の子たちに微笑みかけた。
「もう大丈夫。私は、あなたたちを助けに来たの」
隣に小さな緑竜を従えた、まだ十代の、長い黒髪の少女。
その正体を悟って、彼女らは驚くと共に悟った。
もう、苦痛の日々は終わるのだという事を……。
→ BACK→ NEXT
- 関連記事
-
スポンサーサイト
Information
Comment:0