その気になれば王侯貴族のドレスや宝石を山ほど買える少女は、粗末な、村娘としておかしくない程度の精一杯のおしゃれをした姿で、待ち合わせ場所に佇んでいた。
そうして佇む少女は、ハッとして目を吸い寄せられる何かがあった。
歴戦の冒険者である事が、にじみ出るのだろうか。可愛いだけの女性にはない、どこか凛とした不思議な魅力がある。
ちなみに、今回のお供は誰もいない。
少女はパルに「ついてきて~」と情けない声で頼んだが、パルは却下した。
こっそりマーラが無断で魔法を仕掛けただけである。
少女は、魔法関係の欺瞞には弱いが、物理関係のたくらみには鋭い。
隠蔽魔法をかけたコリュウが近づいたところで、気配察知のスキルで少女には即座にばれるだろう。
そんな訳で、メンバー四人は思い思いの行動をとっていた。
パルとマーラは宿で相談(盗み聞きしつつ)。
コリュウはパルに隠蔽魔法をかけてもらって宿の外に気晴らしに飛行。
ダルクも宿に籠もって待つなんて気が塞ぐ、ということで外に出ている。
「……でもよ、アイツにゃ、いつまでも黙っているわけにはいかねえだろう?」
「そうですね。いつかは、話さないといけませんが……」
そこは宿の一室だった。
パルとマーラが相談している内容は、今後、アランに少女のことを隠し続けていられない、ということだ。
「……豹変しねーかなあ」
「それが、怖いんですよね……」
マーラがいろいろと調べたところ、アランの人柄は悪くない。悪くないようだが、人は、変わる。
善良だった人間が、己のエゴを剥き出しに、見苦しさを露呈する。
マーラは『大地の勇者』のメンバーとして、面白くもない経験を山ほどして、それを知っていた。
少女の持つ、莫大な財産―――その所持品と装備品は、捨て値でさばいても城がまるごと買えるほどだ。
そして、少女の持つ、様々な技能。
被傷代替ひとつとっても、利用価値は、高い。
更に、ここからは肌での感覚的な話になる。
―――彼女が、多数の人間をその手で斬ってきた、人殺しであるということ。
それを、その相手を、己の伴侶に選べるかどうか。
……クリスの性格からいって、隠蔽しつづけることは、しないだろう。
踏み込み過ぎて取り返しがつかなくなる前に、そう、早ければ今日のデートの最中にでも、己の素性を言うだろう。
それで、アランが逃げれば……そこまでだ。
でも、逃げなければ、また、次の段階になる。
「……もろもろ考えると、ダルクはかなり面倒がない相手だったんですよね」
「ったく、あのヘタレがヘタレている間に脇合いからすうっと鳶が下りてきてかっさらわれて。とっとと言ってりゃいいのによ」
「まったくです。……まあ、今となっては、もう言っても仕方ありません。彼女の恋が成就するよう、祈りましょう」
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