あかね雲

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□ 勇者が魔王に負けまして。 □

2-41 届いた一通の手紙


 その日、マーラは熱を出して倒れていた。
 よくあることである。
 頻繁に起こることである。
 日常生活風景であった。

 サンローランにある彼らの家の、彼の一室で、マーラは少女の介護を受けていた。
 熱で浮かされうわ言を呟いている口元を、お茶で湿らせる。マーラが調合しておいた熱さましを呑ませ、汗をかいて不快なようなら、清拭する。起きた時にはできるだけ水分を取らせ、食べられるようなら、消化にいいものを食べさせる。
 頻繁にあることなので、少女の手際も慣れたものだ。

 魔法の最優秀種族であることの、代償。
 森の精霊族の肉体のひ弱さは、戦士職である少女からすると驚くほどだ。

 エルフの中でとりわけ頑強なマーラでさえ、ひと月に一回はこうして倒れてしまう。根本的に、冒険者には不向きなのだ。
 マーラが少女のパーティに入り、いきいきと人生を楽しんでいる様子から、エルフ族の中には自分もやってみようかと、誘いに応じて冒険者の仲間に入る若者が幾人かいた。

 魔法の最優秀種族のエルフ族。その利用価値は極めて高く、冒険者たちの垂涎の的だった。
 サンローランの町に住むエルフたちには冒険者から熱心な勧誘があり、そして、最初に冒険者の一員となったマーラはとても幸福そう、となれば、じゃあ自分も、というのは自然な流れだろう。

 ……すべて、上手くいかなかった。
 長老たちは口を酸っぱくして、誘いに応じて冒険者となった若者に注意した。
 売り飛ばされないよう、力を利用されないよう、気をつけろ、と。

 その忠告が実を結んで、魔法道具を作ることを強制されたり、売り飛ばされそうになったところを逃げてきたのが三割。
 そして、残りの七割が、エルフのあまりのぜい弱さに、他のメンバーが文句を言って亀裂が入ってしまったのだった。

 全種族中、最高の魔力を与えられた代わりの、貧弱な肉体。
 説明を受けていても、それに我慢できない者は、多い。しょっちゅう熱を出し、倒れられていては仕事もへったくれもないからだ。
 エルフの魔法の恩恵にあずかることの引き換えのリスクとして、エルフを責めることなく、エルフに罪悪感をもたせることなく、受け入れる――それができる人間でなければ、続かない。

 少女はマーラの吐瀉物が入った容器を手に立ち上がる。
「コリュウ、ちょっと捨ててくるから見てて」
「うん」
 少女の肩の上を飛んでいたコリュウが頷く。

 戻ってきた少女は、ダルクに魔法で作らせた氷を手にしていた。
 その氷を手際よく袋に詰めてマーラの額と、脇の下に入れる。
 いつものこととはいえ……、楽観できないほど、熱は高い。
「クリス、ボクが見てるから、寝た方がいいよ」
「うん。わかったわ。何かあったら、すぐに起こして」
 長時間の介護は、体力勝負だ。
 交代しながら回すのがいちばんいい。

 マーラの高熱はそれから三日続いた。
 幸い、四日目の朝に高熱は引き、微熱程度になって、まだ寝台の上だが、起き上がれるようになった。
「よかった……。はい、マーラ」

 植物性のものしか食べられない彼の為に、高価な果物が差し出された。一口サイズに切られたそれは、果汁たっぷりで糖度が高く、栄養価は高い。
「……美味しいです」
「うん。いっぱいあるからねっ」

 マーラの熱が下がったので、少女はにこにこだ。
 マーラが満足するまでその果物を供し、少女はあくびをする。

 三交代制であったとはいえ、メインで受け持っていたのは少女なだけに、寝不足だった。
「ふわーあ……、ごめん、寝てくるねー」

 そう言って少女が出て言った後、マーラはこの数日、お留守にしていた己の魔力領域にアクセスした。
「……おやあ」
 ギルド経由で、一通の手紙が届けられていた。ギルドに手紙が届いたら、その旨を魔法で連絡してくれるよう、頼んであるのだ。

 その宛名を見て、マーラは驚く。
「アラン……?」
 少女が彼に別れを告げたのは、知っていた。その直後にマーラは倒れてしまったのだが、これは……。

 マーラはしばし考える。

 ―――もし、相手が、大地の勇者である彼女の正体を知ってもなお心を変えないのなら、マーラは協力する。
 少女は、相手に自分の正体を言った。
 それは間違いない。だからこそ、アランは、ここに手紙をよこした。ラグーザ冒険者ギルドに。

 では、アランは……何をするつもりなのか。
 マーラは考え、とりあえずその手紙を受け取るために、コリュウを呼んだ。



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Date:2015/11/20
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