どれほどの強者でも、正確な情報を元に的確な対応をすれば、それを打倒することは不可能ではない。
それは、仇敵と言えるあの少女にも適用される法則のはずであった。
「……デニス南南東の市場、壊滅いたしました」
部下の報告に、彼はぴくりと眉を動かした。
「……またか。被害は?」
「
鏖殺されました。商品は全て解放され、人員は全員が殺害、もしくは捕縛された模様。定期連絡がなく、様子を見に行ったところ、破壊された設備を発見した次第です」
「――暗殺隊の方は?」
「……連絡が途絶えて十日余りたちます。恐らくは、捕捉されたものと……」
彼は難しい顔で考え込んだ。
――正確な情報を元に、的確な対策を立てれば、どんな強者であっても打倒は不可能ではない。
力に力で対抗しようなど、愚の骨頂だ。力には情報に基づく対策こそが有効なのだ。
それこそが彼の信念であったが……、
彼は、ここのところ立てつづけに彼の財産を毀損している少女を思い浮かべる。
伸びやかな四肢をした、若木のような少女は、まぎれもない天才だった。
それは、少女以外の者からすれば歴然としていた。
一体どこの世の中に、たったの三年で平の冒険者から最高位まで駆け上がる凡人がいるというのだ。
力量は、大陸中の戦士の中でもトップクラスだろう。ただし、同レベル帯の男と比べれば、腕力、膂力、筋力すべてにおいて劣るがそれは仕方のないことだ。彼女は女で、相手は男なのだから。
しかし、それを補ってあまりあるのが、彼女の持つ装備だった。これが、自分の力に慢心して装備をケチるようなら可愛げがあるのだが、彼女は命の担保である装備に、惜しげもなく金を注ぎ込むことをよしとする人間だった。(そのかわり、大借金を抱えているので良し悪しだが)。
彼らにとって、生ける災厄の別名となった大地の勇者は、単体で見れば抹殺にさほど手こずる相手ではない。
いかに歴戦の戦士といえど、魔法ひとつ使えぬ単純な戦士系など、隙を見て魔法の一つや二つ、毒の一つや二つ盛ればそれでカタがつく。
問題なのは、つくづく可愛げのないことに、その周囲を固める人間たちがそれをわきまえている、ということだった。
大地の勇者のパーティメンバーの誰も彼も、単体ならばさほど抹殺に苦労はしないのだ。だが、彼らが寄せ集まったとき、その有機的集合体を叩きつぶすのは容易ではない。
彼らは自分たちが完全無欠などではないことを理解していた。
だからこそ、用心をおこたらず、お互いの欠点をカバーすることに力を注いでいる。
短所を補い合い、長所を生かすよう結びついているその連携のほころびを、付けいる隙を見つけなければ、これからも良い結果は望めないだろう。
「……わかった。とにかく今は、徹底して調査しろ。どこかに必ず、穴があるはずだ」
この世に、完全無欠の存在などいない。
調べ抜けば、必ず、ほころびは見つかるはずだった。
ほんの僅かな隙でいい。その穴をつつき、こじって広げ、パーティを分断する亀裂にまで育てる役目は、彼らが担う。
度重なる暗殺失敗に学んだ彼らは、姿勢を変更し、抹殺よりも徹底した調査に力を注力する方を選んだ。
ただ殺害を企図するよりずっと迂遠な方法ではあるが、その方針の変更は、予想外の果実をその手に転げ落とすことになった。
一人一人なら弱い。
集まったら強い。
花弁が身を寄せ合い一つの花を作り上げるように花開いた一組の冒険者。
連携するからこそ強いのであって、そこから一人が脱落すれば、全体の戦力もまた、著しく弱体化することは避けられない。
互いが補い合う補完の関係は、すばらしい。けれどそれは、いったん一部が欠ければ、そこから一気に浸食が進むということでもあるのだ。
→ BACK→ NEXT
- 関連記事
-
スポンサーサイト
Information
Comment:0