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あかね雲

□ 勇者が魔王に負けまして。 □

3-12 魔族の十二の国の意味 2


 緑の髪の古き民は、少女をじっと見つめ、かぶりを振った。
「……わかりません。私は、知らないのです」

 それは、嘘ではなかった。
 エルフはこの世で一二を争うほど長寿であり、そのために古い知識の伝承者として知られた存在ではあるが、マーラは、エルフの中では若年の部類にはいり、先人からいまだ充分な知識の伝承を受けていなかった。
 それが嘘ではない事は少女にも伝わって、少女はその瞳から、思いつめた光を消す。

 マーラは不思議に思って尋ねた。
「どうして、知りたいのです? 昨日、あなたの言った通りでいいじゃないですか。魔族がどれほど神の恩寵を与えられた依怙贔屓(えこひいき)の激しい種族であろうと、あなたがた人族は、何も持たぬところから、全てを自力で勝ち取り這い上がった。それはそれで、誇るに足る生き方です」

 略奪される方の彼としては、たまったものではないが、理解はできる。
 人族は、守護してくれる神もなく、権利もなく、魔力もなく、全てをゼロから築き上げた。多くの種族を滅ぼしてはその資源を奪い取ることで大きくなり、ついには魔族と並ぶ二大勢力と言われるまでになった。
 その、おのが両手と仲間との協力だけで徒手空拳から成りあがった人族という種族の生き方を、強奪される側のマーラとしては許すことはできないけれど、一つの生き方として認めることはできる。
 少女が魔王に宣言したとおり、それはそれで、誇り高い生き方だとすら、言えるだろう。
 彼らは、大地を踏みしめる二本の足と手以外の何も持たず、自分たちの力だけで、成り上がったのだ。

 ……暴虐に故郷や仲間を奪われ虐げられたマーラとしては、許すことはできないけれど。
 でも、厳しい環境の中、何も与えられなかった彼らが生き延びるには、なりふり構わず、他の生き方をする選択肢などなかったことは……認めてもいい。
 その昔、殺人をいとう彼女が己の手を血で汚さざるをえなかったように、力がない者ほど、切れるカードは少なくなるのだ。

 少女は、俯いた。
 生粋の人族である少女。しかし、人族の暴虐を止める側、異種族の側に立つことが多かった少女……。
 そのため同族から異種族の走狗という非難を浴びる事も多いが、彼女が彼女なりに、己の種族を誇りに思っていることを、マーラは知っていた。
 己の欲する心のままに、突き進んでいく力。
 人族は欲望が強いぶん、行動力も高い。ひたすらに前へ、前へ。
 貪欲に、より良い生活を求めてやまない輝き。まどろみに似た停滞ではなく、破壊にも似た前進を、彼らは指向する。
 次々と革新的な技術を創造し、魔力がなく、守護神もいないというハンデを乗り越えて、彼らは進む。
 俯いたまま、少女は呟いた。
「……もしかしたら、私たちは……」

 その後に続く言葉を、マーラは正確に洞察した。
 ――私たちは、生まれるべきではなかったかもしれない。
 何故そんな風に言うのか――思索を巡らし、マーラは、はっと気づいて息をのむ。

 どの神からも、見捨てられた種族。
 人族を守護してくれる神は、どこにもいない。炎神が彼女を守護してくれるのは、彼女個人を気に入ったからであって、種族の守護神は、いない。
 そして、一方の魔族が、神に与えられた領土と、至宝と、魔剣を持ち、この世界そのものの礎でもあるかもしれないという。

 五百年前、人族は、この大陸の一部にひっそりとしがみつく矮小な一部族でしかなかった。
 それが今や、魔族と勢力が拮抗するところまで来ている。
 ――では?
 百年後、二百年後を俯瞰した時、人族と魔族は、どちらが優勢になっている?
 魔族は、その勢力圏を失い、黄昏の斜陽さす種族となっているかもしれない。そして、もし、魔族が、世界の礎そのものだとしたら……それは、世界にとって、決定的な何かを、もたらしてしまうのではあるまいか?
 たとえば、滅びを。

 ――だとしたら、人族は、世界にとって、害虫以外のなにものでもない存在となるだろう。




 色々伏線連打。
 第二章で語った内容と矛盾がいくつかありますが、伏線です。
 魔族の十二の国については第二話にて既出。

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Date:2015/11/25
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