fc2ブログ
 

あかね雲

□ 勇者が魔王に負けまして。 □

3-29 仕方ないので妥協しました


 ゾンビが町に住みつくのも嫌だが、少なくとも、他人の体を勝手に使用せず、権利を侵害しないという一点において、勝る。
 捕縛したところで、他人に憑依されたらそこまでだし、他の手段も、同様である。

「でも、こう言っちゃなんだけど、サンローランでのあなたの住み心地、悪いと思うわよ? だって、一目であなたをゾンビと見抜けるひとたちばっかりだもの」

 まず獣人族は、一発でわかる。微かに漂う腐敗臭によって。
 次に、冒険者にも、わかる人間は多いだろう。サンローランにはラグーザ冒険者ギルドがあり、冒険者の密集地のひとつである。
 更に、森の精霊族――エルフにも、これまたすぐにばれるだろう。

 これだけ人間そっくりなのだ。普通の人族の町では人と騙して暮らしていけるだろうが、サンローランでは無理だ。
 しかし、死人返りは朗らかにこう言った。
「大丈夫ですよ、下手に人間と偽らず、ゾンビだけど偶然たまたま賢く合成できたから、そこのエルフさんの研究材料として連れてこられた、ってことにすればいいんです」
「……ナルホド」

 少女は顎に手を当てる。
 名案……かもしれない。

 ダルクも同じように思ったようで、頷いた。
「まあ、こいつがゾンビにしちゃ規格外ってことは、少し話しただけで判るしな……。死霊術師を捕まえたことは事実だし、そいつがこのゾンビを作ったことも事実だ。討伐のついでに、このゾンビを見て、そのあまりの出来に驚いて連れて来たっていうのは説得力あるな。……実際、俺もからくりを知らなければ研究してみたい」

「そうよね……私も何度か、生前の記憶を残したゾンビを見たけど、少し見ただけですぐに、こう……異常がわかったっていうか、変な感じがしたもの。こうまで『ふつう』のゾンビは初めて」
「ましてや魔術師なら、普通は、連れ帰って詳しく調べたくなるな」
 ダルクはにやりとする。

「よし、じゃあお前は俺の研究材料として連れ帰ろう。じっさい――お前がどうやって人に憑依しているのか、とても、興味があるからな」
 名目としてだけでなく、実際に、研究材料にする意志まんまんである。
 マーラも、消極的ではあるが同意した。
「……そう、ですね。それはぜひとも、しなければならないことです……」

 声には陰りがあった。
 少女は友人の体を実験対象にしなければならないマーラに、同情の眼差しを向けた。必要なことだと、わかっていても、つらいだろう。

 死人返りの青年は、肩をすくめた。
「べつにいいですよー。この体は痛みもありませんからいじくられても解剖されても、何にも問題ありません。お気の済むまでどうぞ。あ、傷口を縫合さえしていただければ……」
 ということで話はまとまった。

「名前はなんていうの?」
 と聞かれ、ゾンビは答えた。
「お好きに呼んでください」

 それについては追求しなかった。名前は魔法の媒体に使われる事もあるので、隠す人間も多いのだ。
 少女が唇に指を当てて考え込む。
「じゃあ、代わりの名前をつけないとね。えーと、ゾンビだから、ゾンちゃん!」

 全員が突っ伏した。
 魔王は、「そういやコリュウと付けたのはお前だったな……」と呟き、ダルクとマーラは遠くに目を飛ばす。パルはにやにや笑いである。唯一、コリュウだけが、「え、いい名前じゃない」と言いたげに首を傾げていた。

「……え? いや? ええと……じゃあ超ゾンビだからスーパーゾンちゃん」
「あの、すみません、お願いします、勘弁してください」
「え? 嫌なの? なんで?」
 なんでって、そりゃあ嫌でしょうが。
 という周囲の無言の声にまったく気づかず、クリスはコリュウに目をやる。

「じゃあ、コリュウは何がいいと思う?」
「え? ゾンチャンでいいと思うけど?」
 ――とは、母親のネーミングセンスにいささかの疑いも持っていない息子の意見である。

 この親あってこの子ありか!
 周囲に納得の空気が漂う。

「……せめて、スゾンにしてください……」
 と、諦めまじりの声が響き、それで決定となった。


→ BACK
→ NEXT


関連記事
スポンサーサイト




*    *    *

Information

Date:2015/11/30
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする