最後に、少女はスーパーゾンビあらためスゾンにたずねた。
「私たちにとって、あなたを調べることへの利は大きいわ。でも、あなたの利は?」
「あ、それは簡単です。押してダメなら引いてみろ作戦です」
「……なにそれ」
「つまり、力ずくは難しいので、貸しを山ほど作って、その貸しを盾に、協力を求めるやり方をしようかと……」
少女はふっと笑う。
「そういうつもりでいるのなら、いいわ。あなたの力には利用価値がある。お互い、利用しあいましょうか。ただし――」
一瞬のうちに抜刀し、その喉元に突きつける。
「あなたがマーラを傷つけたら、その瞬間、その首を叩き落としてあげる。忘れないで」
彼は両手を上げ、降参の意志を示した。
事実、彼は宿主の記憶を共有しているが、それを元の宿主の意志通りに、つまりマーラを脅迫するために使用するつもりなど、かけらもなかったのだから。
◆ ◆ ◆
その日の晩、少女はマーラの部屋を訪ねた。
「……その、ごめんね。勝手に決めちゃって……」
少女でも、たとえばマーラの死体を勝手に使うゾンビと一緒の町で暮らすのは嫌だ。
これは純然たる感情の問題である。
それを思えば、マーラが気乗り薄だったのは人としてむしろ当然の反応だった。
友人の遺体を勝手に使うゾンビ――目にした瞬間に炎に叩きこみたいぐらいの存在だろう。
マーラは、暗い表情でかぶりを振った。
「……いえ、いいんですよ。――彼の性質を知ることは、現在、何にもましての最優先事項です。少なくとも――魔法が効かない以上、有効な攻撃手段を見出す必要があります」
先ほど、簡単に実験として、ダルクが魔法をかけてみたのだが、スゾンの反応は、「あ、今魔法かけたの?」だった。
本格的な実験はこの依頼が済んで、サンローランの町に戻ってからになるが、魔術師として、知的好奇心を非常に刺激する存在であることは、確かだ。
そのスゾンは、彼女たちが依頼を済ませるまでこの町で待ち、帰りに拾っていく予定になっている。
そこで、少女は気になっていた事を尋ねた。
「……マーラ。私は、何があってもあなたの味方よ。だから、教えてほしいの。……何があったの?」
マーラは、しばらく少女の顔を眺め――かぶりを振った。
「それは、言えません。一生、何があっても、あなたにだけは……言いません」
「……私は、マーラが好きよ。何があっても、あなたの味方をするわ」
それが言葉だけでないと、今の彼は無条件で信じられる。
彼女は、彼女にできるありとあらゆる手を尽くして、彼の味方をしてくれるだろう。
「だからこそ、です」
「……わかった」
強い意志を込めて拒絶を伝えると、少女は案外あっさり引き下がった。
どれほど親しくとも、これ以上は踏み込んでほしくないという線は存在する。
自分の親しい優しくて大好きなあの人は罪なんて犯さない、なんていうほど、少女も幼くはなかった。
自分にとって優しいあの人は、別の人間には別の顔を向けている。
それぐらいのことは、わかっているぐらいには、彼女は大人だった。
「……クリス。いつか……この問題が私の手に負えなくなったら、そのときは、諦めてあなたを頼ります。だから、それまでは、聞かないでください……」
少女は、マーラが罪を犯したことに気づいている。
そして、それでもマーラをかばうことを宣言してくれた。何があっても、彼の味方をすることを。
……嬉しかった。
立ち去りかけていた少女は振り返り、そして、笑顔で頷くと、今度こそ出ていった。
ちなみに、その後ろ姿に呟いた言葉がある。
「……いいかげん、年頃の女の子が夜中に男の部屋を一人で訪ねる意味を理解してほしいんですけどねえ……」
色々な意味で、気苦労が絶えないマーラであった。
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