「それにしても化粧した彼女は別人ですねー。類稀なる美少女じゃないですか」
「……美少女というには、とうがたっているが」
「そんなことないですよ。可愛いじゃないですか」
上機嫌で魔法の鏡を見ているのは、言わずと知れたマーラである。
少女に請われてゲートを設置したが、それをくぐって入ってきた外部の人物を野放しにしておくほど、サンローランが置かれている状況はたやすくない。
監視役なら少女ひとりで充分だが、どんな犠牲を出しても殺したいと思われている対象者がふたりに増えたのだ。
まさか彼女と魔王がいるところに突っ込む馬鹿はいないとは思うが、思うのだが――、いないという保証もない。
成功した場合、有り余る富と名誉と、一国の王の地位が付いてくるのだ。リスクを踏んででも襲いかかる人間がいないとは誰にも言いきれなかった。
だから、念のため、こうして遠隔で見張っているのである。魔王は了解済みだ。
ちなみにここにいるのはマーラとダルクとコリュウである。
ダルクはさんざん抵抗したのだが(惚れた女が他の男といちゃつくところを見たい人間がどこにいる)、押し切られた。
「楽しそうですね……よかった」
ダルクはそっぽを向いている。
そこで、じっと映像を見ていたコリュウが不意に言った。
「ねえマーラ。魔王がボクのお父さんになるんだよね?」
……一瞬、張りつめた静寂が舞い降りた。
「……ええと、たぶん、本人にその気はないと思いますよ?」
「どういうこと?」
答えたのは、すでに鏡に映る二人の姿から顔を背けている半魔族だ。
「魔族は人族のように家っていう考えは薄いからな……。魔王はあいつと結婚したいんであって、お前の親になるつもりはないだろ」
「そう?」
優美な長い体をくねらせて、コリュウは首を傾げる。飛竜であるコリュウの流線型の体形は、時折見る人に吐息を吐かせるほど美しい。
ダルクはコリュウをまっすぐ正視すると、真顔で語りかけた。
「お前だって魔王を父親だなんて思えないだろう? お前の親はクリスひとり。それでいいじゃないか」
意外なほど、それは心のこもった誠実な言葉だった。
それはそうだと、コリュウも頷く。
いきなり出てきた男に父親だよ、なんて言われて接されても、……困る。なんというか、とても困る。
種族が違っていてもクリスは自分の母だ。そうはっきり言える。いつか実の母が誰だかわかっても、自分の母はクリスだけだ。
でも、ぽっと出の「父親」に同じ思いを抱けるはずがない。
「少なくとも魔王は、クリスの側にあなたがいても、咎めませんし、利用しようともしませんよ。それでいいじゃないですか」
「うん」
サンローランから出なければならないことはちょっと寂しいけれど、クリスの側にいることの方が天秤にかけるまでもないくらい重い。
それに、ダルクもマーラも一緒に行くのだ。
なら、移住することに異論はなかった。
魔王はコリュウを無理に手なずけようとはしなかった。無視しているわけではないが、距離を一生懸命縮めようとしているわけでもない。
ごく普通に、「他人」としての距離感を保っていた。
それは、コリュウにとっても心地良い距離だった。いきなり父親面されても、困ってしまう。
クリスとコリュウは親子で、クリスと魔王は結婚するけど、それだけ。
クリスとコリュウとの関係も、魔王とコリュウとの関係も変わらない。
これまで通り。
それでいいや、とコリュウは思う。
なにより……。
コリュウは、鏡の中で笑っているクリスを見る。
クリスが幸せなら、それで、いい。
念のために見張っていたものの、心配するような何事もなく、無事に二人の逢瀬は終わった。
そして、結婚式が行われた。
二人揃ったところは怪獣と竜?
触ると危険印満載ですが、主人公ツエー系の小説では、えてしてそういう最強キャラが冒頭で何の力もない主人公に偶然の積み重ねで殺され、主人公が劇的にレベルアップしますよね。
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