あかね雲

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□ 勇者が魔王に負けまして。 □

4-17 結婚式


 つい少女は人族の常識で考えていたが、魔王の結婚式は、教会でやるのではない。守護神(この大陸の場合炎神)の祭壇の前で、婚姻の誓いが行われる。

 王族の結婚式とは、国家の見栄と権威を示す場である。まして、非公式ながら人族の各国の恩人である少女が主役となれば、招待状を貰った面々は多少の無理をおしてでも出席せざるを得ない。
 かくして、人族の各王家の人間が多数列席する盛大な結婚式が行われることとなった。

 当日。
 控室には、さまざまな豪華メンバーが訪れた。
「……あなたが花嫁になる……。こんな日がくるなんて……。うれしいわ。幸せになってね」
 少しばかり縁のあった王族の女性はそう言って、柔らかく微笑んで贈り物をくれた。
 ただ単に、彼女の嫁ぎ先まで護衛をしたところ、旅の最中にその嫁ぎ先の家が国王の逆鱗に触れ失脚して、愛妾、子もろとも処刑されてしまい、そんなこととも知らず到着したら即座に連座して処刑されようとなったところを逃げ出して生国まで送り届けたという程度の縁だったのだけれど。

「貴殿がやってくれたこと、その恩は生涯忘れぬ。幸せになれ」
 以前ちょっとばかり命を助けた王族の男性も、苦みをこらえるように微笑みながら贈り物を手渡した。
 合戦の将だった彼が混戦の中迷子になり、一部隊のみで森の中で迷っていた所を出くわして城まで送り届けたという程度の縁だったのだけれど。

「お主に抜けられると、正直あの地域が危ないのだが……まあ、野暮というものだろうな。女は、男に守られて暮らすのが一番だ」
 騎士として名高く、以前ちょっとばかりその長い鼻柱を叩き折って上げた王族は、まだ伸び代があったらしい。女性に対する偏見(この世界での常識)を隠さず、そう祝福をした。
「女は男に守られているべきだ。しかし難を言えば、お前を守れる男がこの大陸探してもいないということだったが、いたなあここに。そいつがお前の夫になる。まことに良いことだ」

 めでたい、と、寿(ことほ)ぎに来てくれた人は、揃って祝ってくれた。
 予想が崩れ、彼女に、普通の幸せが訪れることを。

 控室で、数々の祝福を浴びて、一人になったあと少女はううむ、と唸ってしまった。
 多少なりとも彼女に情なり借りなどがある王族たちは、日々高まっていく彼女の名声に不吉を感じていた、と。
 どうも、自分はろくな死に方をしないだろう、というフキツな予測が立てられていたらしい。
 魔物によって「普通」に死んだり、仲間の裏切りによって死んだり、邪魔に思う人間によって暗殺されたり……とそういう未来を思い描いていたらしい。

 それが予想を外れ、多少の打算も政略もあるが、惚れた男と、結婚することになった。
 冒険者も辞め、しかも相手は王さま。つまり王妃である。
 なんともおとぎ話に出てきそうなお話そのものだが、めでたい。ハッピーエンドである。

 一介の庶民が、王妃になる。
 なんていう立身出世であろうか。夢物語といってもいい。
 吟遊詩人が歌うだろう。うん間違いない。きっと今頃は歌を考えている真っ最中だろう、これまた間違いない。

 あるところに庶民の女の子がおりまして。
 頑張って数々の冒険を仲間とともにいたしまして、ついには勇者と呼ばれるようにまでなりました。
 彼女は数々の冒険をこなし、そのひとつで出会った魔王さまの心を射止め、求婚されることになりました。
 王妃さまの誕生です――。
 ってな感じに。

 思い返してみれば、彼女の人生は雲霞の如くの暗殺者に狙われていた。
 多少なりとも縁を持つ皆がよかったと祝福を送ってくれるのは、当たり前のことだ。
 結婚の祝いに贈られた品々を手に、少女はしみじみと思った。これでよかったんだろう、と。

     ◆ ◆ ◆

 王族の結婚式というのは、一級の社交場である。腹の探り合い、と言い変えてもいいし、人脈作りの場といってもいい。
 まして今回は、主役は魔族の王と人族の勇者である。会場内は魔族、人族、そしてそれ以外の種族と、きわめて多彩だった。
 魔王が地底族との繋がりを求めて少女に力を借りたように、人脈は力となる。人脈を求める果敢な人間が異種族に話しかけに行っては鬱陶しいと撃破されたが、たまーに気に入られて話が続く人間も現れるなど、社交は活発に行われていた。

 そんな中、人々の一番の関心事となれば、やはり花嫁の姿である。

 彼女が魔王に手を取られて登場すると、純白の衣装に身を包んだ花嫁の可憐な美しさに周囲はどよめいた。
 会場の中央を白と黒のふたりが進んでいくにつれ、祭祀場は感嘆とも嘆息ともつかない吐息にあふれた。
「ほお……」
「これは……」
 魔王も登場したが、世の結婚式の例にもれず、男は脇役である。結婚式の主役は花嫁と昔から決まっているのだ。

 しずしずと、純白の衣装を身につけた少女が進む。その隣の魔王は漆黒の衣装のため、より一層その白が映えた。
 純白にアクセントで少し青の入った衣装は、サンローランに住む各種族が力を合わせて作り上げた傑作だった。庶民の少女は、仮縫いで見た瞬間に逃げ出したくなったほどだ。
 精緻な刺繍細工に、縫いつけられた無数の真珠。
 圧巻はエルフ族の魔法付与で、計算された魔法効果によって、守護のオーラがまるで光の燐光をまとったように目に見える。魔力のない彼女にさえも。
 ずっしりした上等の絹が風のように軽く変わり、身につけた少女の可憐な美しさを、最大限に引き立てていた。

 庶民の少女からみれば、血の気の引くような衣装だ。
 守銭奴の思考だとはわかっているけれど、水棲種族からの贈り物だろうけれど、縫いつけられたこの白色真珠ひとつぶだけで、一家四人が一年食べていけるのだ。しかも、アクセントとして伝説とうたわれた青真珠まで使われているではないか。
 値段を考えると空恐ろしい贈り物だったけれど、彼女はありがたく受け取った。
 この衣装が、どういう意味を持って贈られたのか、わかったからだ。

 魔族に嫁ぐ、しかも魔王に嫁ぐ人族の彼女が舐められないように。軽んじられないように。
 誰から見ても見事で、誰も見たこともないほどに美しく豪華な衣装をと。
「……ありがたいなあ……」
 その衣装を初めて見たとき、少女は、ぽつりと呟いた。涙は、なんとか堪えた。

 出席してくれた「多少の縁」のある王族たちも、同じ気持ちで、万障繰り合わせて出てくれたに違いない。
 彼女は王妃になる。人族なのに、魔族の王の正妻になるのだ。人族が、妾妃ならともかく魔王の正妃になったことは、前例がない。
 この先、苦労するに違いない彼女の手助けに、少しでも困難が軽くなるようにと。
 後ろ盾となるため、無官の彼女に権威をつけるために、皆が協力してくれたのだ。

 先ほど、花嫁衣装を身につけた少女を初めて見た魔王は、目を丸くした。
「……化けたな」
「そういうことは思っても言わないの。それより前に、言うべきことがあるでしょ?」
 髪を結いあげられ、入念に化粧を施された顔で、少女は衣装を見せびらかすように腕を広げる。
「ああ。よく……似合っている。綺麗だ」
 自分でねだったくせに、真正面から褒められて、少女は照れた。
「仲間がね、用意してくれたの。ありがとう、すごく嬉しい」
 前々から準備していたとはいうものの、これだけの大作だ。かかった手間は半端ではなかっただろう。――もし離縁されたら、これだけは持っていこう、と密かに心に決めた。
 宝石商のツテもあるし、真珠を一粒ずつ売れば、いざというときの資金にもなるだろう。

 常日頃、化粧気のひとつもない、粗野な冒険者の装備に身を包んでいた少女である。容色の評価はけして高くなかった。磨けば光るのに勿体無い、の見本である。
 それが、きちんと化粧をし、きちんと髪を結い、彼女に合わせて仕立てられた衣装を身にまとうと、十人並みどころではない。

 女性にしては高い身長。引き締まった体。手足が長く、腰の位置が高いため、その肢体はすらりとした印象を人に与える。
 頭は小さく、小さな頭に極上のレースのヴェールをのせている。小さな顔に大粒の青い瞳が印象的で、美女という形容より、可愛いという形容が似合う。
 花も恥じらう可憐な花嫁が、そこにいた。

 少女は列席者が見守る中、祭壇へと足を運ぶ。
 列席者たちと目を合わせ、微笑みを返す。
 いちばん居て欲しかった人――パーティの仲間たちは、皆揃って最前列にいた。
 マーラは優しく微笑み、コリュウは嬉しそうにその肩にとまって翼を振る。ダルクも――笑顔で見送ってくれた。パルはそのポケットから、手を振ってくれる。
 もちろん、彼女も笑顔で手を振った。
 自分の大好きな人に祝福してもらって、好きな人と結婚できる。なんて自分は幸せ者だろうか。

 純白の衣装と漆黒の衣装に身を包んだ魔王の結婚式は、つつがなく終わった。



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Date:2015/12/06
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