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あかね雲

□ 勇者が魔王に負けまして。 □

1-8 仲間との再会




 その朝、少女は寝不足で目が覚めた。
 色っぽい理由からではない。
 あの後魔王はショックのあまり蓑虫になってしまい、それを慰めるのに一晩かかってしまったのだ。
 ……まったく、世話の焼ける魔王である。
 しかし、その見返りというべきか、仲間たちが監禁されている一室の場所を、教えてもらうことができた。


「パル! コリュウ! ダルク! マーラ!」
 仲間たちが放り込まれた一室を訪ね、少女は叱り飛ばした。
「どうして戻ってきたの!」
 仲間たちの待遇は悪くない。二つのベッドに二人ずつ寝ているが、いつも寝ている地面の上に比べれば天国だろう。
「ここの魔王があんな奇特な魔王でなければ、あなたたち今頃捕まって牢屋よ牢屋!」

 あんなヘンな魔王でなければ。
 魔王はああ言ったが、小人のパルを殺してしまえばすむ事だ。「普通」の魔王なら、パルはさっさと殺され、残りは今頃公開処刑されてもいいぐらいだ。

「どうしてとはご愛想だな。お前を助けるため以外に理由があると思うのか」
 無愛想な声でダルクが言い、マーラも同調する。
「まったくです。あなたを助けに来たに決まっているでしょう」
「第二条の構文は逃げてしまえば関係ないんだぜー。逃げんのがあったりまえだろうが」
「今のうちに逃げようよー、クリスー」
 口々に仲間が言い、ぱたぱたと飛びながらコリュウもまた言ったが、少女は頑固にかぶりを振った。

「それはだめ」
「……まさかと思うが、約束したから、なんて言うんじゃないだろうな」
 ダルクの顔は、はっきり、お前なら言いかねない、と言っていた。

「殺されて当然のところを助けてもらった。その約束を敵だからと言って反故にできない、とかか?」
「ちがうわ。……それも、ちょっと、あるけど……」
「あるのをやめろ! ……で、実際の理由は何だ?」

「ん……あのね、おかしすぎると思うのよ」
 少女は、自分の懸念を皆に伝えた。
 仲間たちも、考え込んだ。
「だから、今日の夜にでも聞いてみるから、それまで待って」

「……おい。夜になったら何があるのかわかっているんだろうな?」
「え? いや、あの、その……」
 エルフのマーラが少女の両手を握る。
「やっぱり今逃げましょう。帰りましょう。あなたは女の子なんですよ、何かされたらどうするんです!」

 切々と訴えられ、どうしようとパニックする一方で。
 視界の端を何かがよぎった。
 反射的に、少女は体をひねって背後からの攻撃を回避した。
「ちっ……」

 必中のタイミングだった不意打ちをあっさりよけられたダルクは舌打ちする。
 前衛一本槍の少女の敏捷さは、魔族とはいえ魔術師であるダルクとは比べ物にならない。ドレスにハイヒール姿でも、だ。

「な、ななな、何するのよっ!」
「お前が、説得して聞くタマか。気絶させて運ぶのが一番手っ取り早い」
 ダルクが素早く目くばせする。

「おい、協力しろ。こいつを力ずくで連れて帰るぞ」
 一瞬の視線のやり取りで、仲間たちは完全なる合意に達した。
 エルフのマーラが問答無用で呪文の詠唱を始める。ドラゴンのコリュウが少女の背後にまわって退路を断つ。

 仲間の力を誰よりもよく知っているのが、少女だ。
「ちょ……ちょっとまってえええーーっ!」
 少女の悲鳴が上がったが、聞くものは一人を除いていなかった。

     ◆ ◆ ◆

 魔王はくつくつと含み笑いをしていた。
 ほんとうに、飽きない。
 あの少女は、実に魔王を飽きさせない稀有な存在だ。今のところは。
 その時、侍従がやってきて、恭しく一礼し報告した。あの少女についての調査書が上がったとの事だった。


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