魔法使いの弟子 4
決断したリオンに、ジョカは鷹揚に頷く。
「ん。まあお前はそうだろうな。わかった」
ジョカは、リオンのおねだりを無視できる人間ではないのである。
ジョカは弟子に向き直る。
「さて、リンカ。父親に何と言われた?」
「……先生が、大金を持っているから、それを何とか出してもらうように頑張れって……」
ジョカは頷く。リオンは顔を厳しくした。
二人が帰ってきたのは昨日だ。
昨日の今日で、彼らが大金を得た話が漏れている。
ジョカの警告をどこか他人事のように聞いていたリオンは意識を引き締めた。
「その他には何を?」
「出してくれるって言ったら、家に連れてこいって……」
父親の計画を喋る少女は今にも泣きそうだった。
ジョカはリオンに話を振った。
「どう思う?」
「いんちきの借用書にサインでもさせるつもりなんじゃないのか?」
「そんなところか。ありもしない借金をでっちあげて、それを回収するという名目でこの先もずっと縛るつもりだな」
困ったことに、借用書にサインをしてしまったら、それが出鱈目であっても、実際の金の授受がなくても、借金が発生してしまう。
金融とはそういうものである。
「ち、ちがいます! そんなひどいことしません! ただ、お金を貸してほしいだけで……!」
少女の言葉をジョカもリオンも一顧だにしなかった。
こっちはたったの二人だ。力づくで無理矢理書かされたら、対処できるだろうか。
どうしようか……と悩んでいるリオンに、ジョカが気軽に声をかけた。
「じゃ、行こうか」
「え? どこへ?」
「どこって決まってるだろう? リンカの家だよ」
移動する道すじで、リオンはジョカにたずねた。
リンカに聞かれぬよう、ことばを母国語に戻して聞く。
「どうしてわかったんだ?」
主語を省いた簡潔な言葉だが、ジョカには伝わった。
「早晩金出してくれっていう人間が来るだろうなーって思っていたから」
「それはそうだけど、弟子だろう?」
そんな親しい人間が自分を騙そうと仕掛けてきたのによく気づけたな、という言葉にジョカは鼻で笑った。
「リオン。俺はな、お前以外の人間は信じねーよ。金出してっていうお願いならなおさらな」
「……逆に言えば私が同じように引っ掛けたらあなたは引っ掛かる、と」
「俺はリオンが相手なら、いくらでも引っかかりますー。むしろ罠だとわかっていても踏み抜きます?」
愚問だったのでリオンはそこで口を閉ざした。
ジョカも口を閉ざし、少女も重苦しい表情で黙っていたので、沈黙のまま、道中は終わったのだった。
アルファポリス小説大賞にエントリーしています。
投票していただけると嬉しいです。
→ BACK→ NEXT
- 関連記事
-
スポンサーサイト
Information
Comment:0