あかね雲

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□ 黄金の王子と闇の悪魔 番外編短編集 □

新年記念小説 1~暦あれこれ~


 世界は広い。
 各地方でそれぞれ元旦の祝いはちがう。
 日時でさえちがう。
 それでも、大幅には違わないのが、面白い。

 ジョカは新年のお祝い餅をこねながら呟いた。
「曲がりなりにも太陽暦を基準にしていると、大差ない日時を一年の始めにするってことか? あるいは単純に考えて、魔術師の仕業かなあ」

「ジョカ? 何を言っているんだ?」
「ああ、ちょっと益体もないことを考えていた。ここの一年のはじめと、ルイジアナの一年のはじめってほぼ同じなんだよな」
「え? そうなのか?」

「そう。移動中の季節の移り変わりって、気候自体が違う地域を踏破したからわかんないよな。ここの暦の新年と、ルイジアナの新年ってほぼおんなじなの。地域によって数日の違いはあるけどな」
「で、それは、あなたのご同僚のしわざだと?」

 ジョカは肩をすくめた。
「ま、可能性は高いな。太陰暦より太陽暦の方がどうしたって便利だからなあ」
「は? 太陰暦ってなんだ?」

 ルイジアナでは概念すらない未知の単語に、リオンは首をひねるしかない。
 ジョカはいつものように解説した。
 その間も手元は餅を引っくり返し、二つ折り、四つ折りにして線が見えないよう体重をかけてこねている。

「俺たちが使っているのは太陽暦な。これは、この星が太陽の周りを一周する一周期を基準として一年にしている。
 それに反して太陰暦っていうのは、月の満ち欠けを基準に作った暦。月の満ち欠けの一周期を一か月として、それを十二か月集めて一年としてるの。でも、月は一度満ち欠けするまでの周期が、太陽暦でいう一か月には少し足りないだろう? だからその満ち欠けを基準にして暦をつくると、毎年毎年、一年のはじめの季節がずれていくんだよ」

 リオンは想像してみてその不便さに微妙な顔になる。
「それは、確かに不便だな」
「月の満ち欠けは、二十九日とちょっと。それを一月として、十二か月で一年。だから、太陽の動きと比較すると、一年で十一日のずれが生じることになる。それが積み重なると、うるう日ならぬうるう月なんてものまで必要になる。一月まるまる増えるわけだ」
「うるう月? つまり、一年が十三か月の年ができるわけか?」
「そう」
「……不便だな……。うるう日だけで済む太陽暦の方がずっといい」

「そうなんだよな。やっぱりみんな考えることは同じらしくて、太陽暦を採用するところが多いんだ。そこまでは百歩譲って自然現象としても、新年が大抵の地域でほぼ一緒のあたりは魔術師の影響かな」
「なるほど、あなたのご同僚のしわざの可能性が高いな」

 魔術師は、知識の伝播人でもある、ということをリオンはここへきて知った。
 ルイジアナには目の前の人物が原因で……というより、自分の仲間を幽閉して搾取しているルイジアナ王家への怒りが原因で、魔術師たちはほとんど寄り付かなかったのだ、ということも。
 それはそうだ。魔術師たちは仲が良く、そして人間だ。
 人間がジョカの境遇を知ったら、仲間にそんな事をしている相手に好意など持つはずがない。忌避するのは自然の行動だろう。

 リオンは疑念をもたずに頷いて、……ふとそこで過去の会話の断片を思い出した。

 かつて、彼は言った。
 ジョカは誕生日を知らない。
 そもそも何月何日なのかもわからないのだ。
 なぜなら、その頃彼の故郷で使われていた暦とリオンが使っている暦はちがうのだから。

「あなたの故郷で使われていたのはどんな暦だ? それこそ太陰暦か?」
「太陰暦だな。かなり面倒な暦だぞ」
「なんでそんな面倒な……」
「魔術では月の運行が大事だから」

 ジョカは説明した。
 太陰暦の長所は、日を見るだけで月の状態が瞭然ということだ。

「月の満ち欠けを元にひと月を決めるっていうことは、一月一日の月の状態も、来月の一日の月の状態も、来年の一日の月の状態も同じってことだ。何年の何月であろうと、日が同じなら月の状態が同じで、わかりやすい」

「へえ……でも、普通なら月の状態がどうであっても気にしないな。一年がずれていくデメリットの方が高い。なるほど、それで太陽暦がはやったわけか」
「そうそう。逆に魔術師の国では太陰暦だったわけ。これがなー、うるう月ももうけない太陰暦だったんで、一年が一年より少し短いんだわ」

「うるう月をもうけないのか? ということは、ええと……」

 リオンは想像しようとして、失敗する。
 リオンにとって暦とは常に太陽暦だった。太陰暦というものが具体的に理解できていないので、一年がずれていくと言われてもすぐに理解できないのだ。

 ジョカはリオンの困惑を理解して、丁寧に説明してくれた。
「この惑星が太陽のまわりを一周する時間が、すなわち一年だ。その一年の時間自体は変わらないわけだから、人間が自分勝手につくった『一年』と、この星の『一年』とが違うと、同じ一月一日でも、季節が毎年毎年少しずつズレていくことになる。一年に十一日ズレるわけだから、三年で一か月。それが何十年何百年と積み重なると、一月一日は真冬だったのが、数十年後には真夏に変わったりするんだ」

「な、なるほど……」
 それは、自分の誕生日がいつなのかもわからなくなるはずだとリオンは納得した。
 ジョカの誕生日が、太陽暦での何月何日なのか、わからないのだから。



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Date:2016/01/02
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