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あかね雲

□ 黄金の王子と闇の悪魔 番外編短編集 □

魔法使いの弟子 14


 先生が同居人にベタ惚れっていうことは、前々から知ってた。
 でも、ほとんど会ったこともない人だし、見るからに近づきにくい人(顔立ちが異邦人)だったから、気にしてなかった。

 リオンさん? ……うーん、何を話していいのかわからないよ。
 そもそも、言葉だいじょうぶ? 結構発音怪しいよ?

 てことは慣用句とかは除いた方がいいよね。この辺だけの言い回しも避けたほうがいいよね。
 理解できるようになるべく同じ意味でわかりやすい単語を選んで話した方がいいよね。
 ……ってことを考えていると、何を話しかければいいのかわかんなくなっちゃう。

 それで、私はこれまでリオンさんとろくに話したことがなかったんだけど……。
 でも、私は今回のことでリオンさんにもとてもお世話になった。
 まあリオンさんもお父さんにいきなり暴力ふるったけど、それについてはなかったことにしようそうしよう。

 で。それをなかったことにすると、恩がまるまる残るわけで。

「リオンさんにもお礼をしたいんですけど、いいですか?」
「お礼?」
「お料理お掃除します。もちろん材料は私が買っていきます」

 そういうと、先生は困ったような顔で空を見た。
「あー……、今頃リオンは食事の支度してると思う。その支度が無駄になっちゃうから、またな」
「あ、そうなんですか。わかりました。じゃあ明日はいかがですか?」
「わかった。話を通しておく」

 というやりとりの翌日、私は意気揚々と先生の家へ向かった。

 仕事帰り、市場はにぎわっていて、私は先生と一緒に食材を買った。私はもちろん一人で買い物をする予定だったんだけど、先生いわく、行先が同じなのに別行動をする意味がない、って。
 内心は一人で女の子が夕暮れの町を歩くのは危ないから、っていうことだろうな。
 ……先生は優しいなあ。
 私はいつものことだから慣れてるんだけどね。私みたいな貧乏くさいのを襲う人間もいっこないし。

 食材を買いこんで、私は先生の家へ向かう。
 出迎えてくれたリオンさんに、私はまず謝罪をした。
 体を二つに折り、深々と、頭を下げる。

「先日は助けていただいたにもかかわらず、失礼をして本当にすみませんでした。そして、助けて下さってありがとうございました」

 顔を上げると、リオンさんの顔が目に入った。
 ほんとうに綺麗なひとだ。
 そしてリオンさんは、驚きも何も浮かべていなかった。平静な顔で私の謝罪とお礼を受け止めた。

「今日は夕食を作ってくれるとか?」
「あ、はい。お二人の下女として、使ってやってください。今日だけでなく、これからずっとでも……」
「いや、今日だけでいい。――何を作るんだ?」
 リオンさんは私を厨房に案内しながら尋ねる。

 私は厨房に入って腕めくりしながら答える。
「川魚の揚げ物と野菜の肉炒めです」
「川魚?」
「ええ。衣をつけて揚げると結構おいしいんですよ」

 買ってきた小魚をざるにあけ、皿に澱粉をのせてその上で小魚を踊らせる。
 竈に火を入れて鍋に油を入れ、じゅうぶんな温度になるまで放置。その間に小魚につけるタレをつくる。数種類の野菜をすりおろし、魚醤をいれてまぜておしまい。
 その製作途中で油が良い温度まで熱されたので、魚を放り込む。

 ジュワワワッ!
 盛大な音ともに香ばしい匂いが辺りにたちこめる。

 魚が芯まで熱されるまで数十秒。その時間で途中だったタレを完成させ、荷物から野菜を取り出し切り刻みはじめる。

 その途中で手を止め、魚を油から取り出し、つづけて第二群の魚を放り込む。野菜を刻みつつ時間をはかり、こんがりと揚がった魚を取り出す。

 一旦鍋を放置し、途中だった野菜を刻み終え、まず野菜を別の鍋に入れる。油は小魚に使った残りで充分、根菜が多いのでなかなか火が回らない。
 鍋を振る片手間に、下味をつけた豚肉を刻んで入れる。

 豚は皮もよし、血で腸詰をつくってもよし、肉も良し、育てるのも簡単、しかも子沢山といういいとこずくめの動物だ。お肉も美味しい。しかも育てるのが簡単で放っておけば育つから、値段も安い。
 とはいっても肉は肉でちょっと私のお財布にはお高いけれど、今日は特別だ。

 そして最後に入れるのは万能調味料のお塩。これひとつで味はぐんと変わる。

「できました!」

 小さい頃からお母さんに、つぎは近所のおばさんたちに仕込まれたから、料理の腕には自信がある。
 出来上がった料理を、後ろで見ていたリオンさんと一緒に食卓に運んでいく。

 先生は私が作った料理を見て目を丸くした。
「へえ……うまいもんだな」
「お母さんにしっかり仕込まれましたから」
 そして食卓に料理を並べた所で、ささいな問題が発覚した。

 問題、というのもささいなことで、正直私にとっては問題でもなんでもないことなんだけど、先生はなぜか私に謝った。
「ごめんな、食器、俺とリオンのぶんしかないんだ」
「いえいえ。私は先生の下女ですので、ご一緒するなんて恐れ多いです」

 私は頭を振って、台所に戻る。
 包丁、まな板、鍋、食材のきれっぱし等々。散らかしっぱなしのあれこれを洗って水切りし、桶のなかに立てかけておく。

 一通り片づけてもまだ先生たちは食事を終えてなかったので、そのまま厨房の掃除を始める。
 掃除道具は、厨房の隅に置かれていた。

 はきはき。ふきふき。
 この辺りでは、ごみは食材ごみとその他に分けられる。
 食材ごみの方は豚を飼っている人は豚に食わせる。飼ってない人は地域の集積所にもっていく。それは豚のご飯になったり、肥料になったりする。
 それ以外、埃とかは、ひとまとめにして家庭内で処理するのがふつうだ。かんたんに言うと、家の竈の焚きつけにして放り込む。

 先生たちは何か話をしているけれど、……異国語だ。
 私にはぜんぜんわからないから、逆に単なる音楽として気にせず掃除に没頭する。
 それにしても先生はやっぱり物知りで素敵だなあ。
 奇妙な音楽としか聞こえない異国の言葉を、先生は自由自在に扱っていた。

 私は知らず知らずのうちに微笑みが浮かんでくるのを感じながら、床を磨いていた。
 先生は、とてもすごい。



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Date:2016/01/18
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