――努力すれば、夢は叶う。
そう言ったのは、誰でしょうか。
――努力しても、叶わない事がある。
あなたがそれに気づかされたのは、どれほど前でしょうか。
世界が統一されたのは、今より百年ほども昔のこと。
それよりさらに十年ほど前に、《魔の大攻勢》と呼ばれている魔族の攻撃が始まりました。
その大攻勢により、一気に五つの国が陥落。
大攻勢が始まってから十年の間に更に四つの国が陥落し、魔の大攻勢以前と比べ、人間の領土は半減しました。
最前線であった国の『人間そのものの力を結集しての総力戦』という呼び掛けにより、その当時数十も林立していた人間の国は、十年の月日を経て、ついに一つにまとまることになったのです。
魔の大攻勢という外圧があったとはいえ、世界の多くの国々が一つにまとまることなど、それまでは誰も想像もしていませんでした。
――果たして、どちらを思うべきでしょうか。
滅びのとば口を目前にして、なおも統一までに十年もかかったと見るべきか。
たったの十年でよく、と見るべきか。
そうして、世界は一つになりました。
いま、世界の国は一つです。
その国を、当時の国王はこう名付けました。統合した無数の国を花びらにたとえ、花の国、と。
そして、花の国は、いまだに魔と戦い続けています。
人が一つにまとまってから、百年。
半減した人間の領土は、今もそのままです。
反抗計画は無数に立てられたものの、実行されたことはありません。
国を一つにし、力を合わせ、境界線に頑丈な防壁を築き、砦を築き、そして何よりも、『魔法』を使える人間を育成し、長大な防衛線を、人は支えています。
『魔法』。
それが発見されたのは、およそ二百年前と言われています。
魔法の糧となる「魔力素」が発見され、研究され、有効な使い道として、魔法が開発されました。
世界には、解明しきれていない何らかのルールがあります。
そのルールが何なのかは、いまだに判っていません。
大事なのは現象であって、「一定の条件下でこうすればこうなる」ことが判れば、理由は後でいいのです。
とある法則に基づいて魔力を捧げると魔法が発現する、これだけが判れば、問題はありません。
そうして出来たのが、『魔法』でした。
百年前、この魔法こそが、人間を滅亡から救う鍵であると考えた為政者は、魔法を使える人間を増やすこと、魔法を効率的に使うすべを研究することに力を注ぎました。
そうして、人間の全ての町には、国立の魔法学校が作られることになったのです。
――すべては、魔法を使える人間を増やし、人間の領土を防衛するために。
そしていつか来る領土回復の戦いのときのために。
人間はみな、少しは魔力を持っています。けれど、素質ある者は鍛えることで器を大きく出来ますが、素質のない者は、鍛えてもさほど大きくはなりません。
どれほど鍛えても、魔力が少ない人間が多い人間に敵うことはありません。
才能の、差。
鍛錬により、魔力を大きくすることは可能ですが、天才と凡人が同じだけ努力すれば必ず天才が勝つように、「伸び代」に差があるのです。
あなたが住む
金木犀の町は、王都から遠く離れた田舎町です。
それでも魔法学校があり、八歳から十五歳までの子どもはみな、そこで読み書きと算術、魔法の訓練をします。生まれた子どもは全員です。
人間は小さくとも誰もが魔力を持っているので、小さな魔法でも数百、数千、数万人と集めれば、ちょっとしたものになります。
いざというとき、魔法が使えるのと使えないのとでは町の防衛力に大きな差が出るため、魔法学校では庶民であろうと分け隔てなく、全員に魔法を教えるのです。
学費はないことはないですが、ほんのちょっぴり、個人の備品代程度です。国策として行っていることですからね、基本は国のお財布から出ています。
また、読み書きと算術は、魔法を組み立てるときに必要になるため、必然的に教え込まれます。
こんな地方の田舎学校でも、大きな魔力を持った人間は、偶に見つかります。あなたの弟のように。比率としては、一学年にひとりぐらいでしょうか。
そうして選抜され、ある一定以上大きな魔力の持ち主は、王都の学院へと送られます。
そして、同じように各地方から集められた子どもたちのなかで魔法の勉強を更に続け、厳しい訓練を耐えた卒業の暁には、栄達を約束された『魔法使い見習い』として、国に所属することになるのです。
――あなたの弟は、すでにその基準を満たし、王都行きが決定しています。
一方、あなたは十五歳。今年が卒業の年であり、今年で魔力が劇的に成長でもしないかぎり、普通に卒業し、普通に町で働きに出ることになるでしょう。たくさんの級友と同じように。
……どれほど鍛えても、才能がない人間には、才能ある人間を追い越すことはできません。
どれほどあなたが頑張っても、あなたの魔力はじりじりとしか増えず、弟は少し頑張るだけで、どんどんと増えました。
生まれついての魔力の差は、大きくなればなるほど、広がるばかりでした。
そこで、級友のように、「そんなもの」として諦めることができればどれほど良かったでしょう。
そう、諦めるのが普通なのです。
あなたの魔力は小さいけれど、それは平凡ということであり、異常ということではありません。仲間はたくさんいて、あなたの側こそが多数側で普通なのですから。
けれど、あなたは諦められませんでした。
……才能がない。それを認め、諦めることができればよかったのに。
あなたは、無為な努力を辞められませんでした。
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