あかね雲

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□ 黄金の王子と闇の悪魔 番外編短編集 □

愛せることの幸福

※時期的に二巻と三巻のあいだ。ジョカ視点の小話です。同人誌を読んでなくても大丈夫です。
 ジョカにとって、リオンは本当に救いの光そのものなんですね……。

 pixivに投稿していたものを、こちらにも収録しました。





 愛することは、簡単なようで難しい。
 まして、己の命よりも愛しいと確信できるほどに誰かを愛することは、とてもとても難しい。
 愛さなければならない相手を愛せないなど人の世には数多(あまた)転がっている不幸で、誰かを愛したいと思っていても、心はそう素直に従ってはくれない。
 愛しいという想いは、心でするものであって、頭でするものではないのだから。

 だから、誰かを愛せることは、幸福だ。
 更に、己よりもずっと大切だと思える相手を見つけられるなど、滅多に巡り会えない僥倖というほかない。

 そんな訳で、ジョカは今、しみじみと幸福を噛みしめていた。
 ジョカは、いま、目の前にいる相手が、愛しい。間違いなく己の命よりも大切な相手だと確信できる。
 元の名をリオン・ラ・ファン・ルイジアナ。今の名を、リオン。元はこのルイジアナ王国の、第一位王位継承者であった相手。
 ジョカをあの闇から救ってくれた人。
 ジョカのいちばんの望みは、彼の幸せだ。
 ……そして、願わくば、彼の側にいられますように。

「―――なんだ? 私の顔に何かついているのか?」
 ジョカの視線に気づいて、リオンは顔を上げた。ジョカは口角を吊り上げて笑う。
「なにもー。相変わらず綺麗だなーと見惚れていただけ」
 リオンは数秒黙ってジョカを見やったが、ペンを片手に紙を汚す作業に戻る。
 美貌に対する賛辞などは聞きあきているのが、その態度から透けて見える。

 リオンは美貌の主である。

 きらめく金の髪、海の青の最も美しい一瞬を切り出して固めたような紺碧の瞳。顔は面長であり、すっと通った鼻梁とくっきりと弓なりに弧を描く優美な眉が、気品を感じさせる。
 容姿は全体的に整いすぎて、冷たさを感じさせる種類のものだ。知性の煌めきと、果断にして時として容赦のない苛烈さをも漂わせるアイスブルーの瞳がそれに拍車をかける。
 上品さの衣をまとった刃のような少年であった。

 美しい。が、顔の造形だけを言うなら、三百五十年生きてきた魔術師であるジョカは、リオンより美しい人間を両手の指では足らないほど知っている。顔の造形、だけなら。
 しかし、惚れた欲目もあるが、ジョカは、リオンをその誰より美しいと感じる。
 つまるところ、人の美醜は内面によっても決まるのだ。
 顔の皮一枚の出来不出来は大事だが、同時に、それだけでもない。

 頭の中身が生クリームで出来ている人間が、外面がいかに綺麗でも美しく見えないのと同じだ。
 リオンの誇り高さ、気高さ、強い意志を宿したアイスブルーの瞳に、ジョカは何度も繰り返し恋に落ちた。
 最初の恋ではなかったけれど、最後の恋だと確信している。数十年後、彼が年老いて幸せに息を引き取るのを、傍らで見守るのが、ジョカの望みだ。

 今、リオンはジョカに教わって、様々な知識を頭に叩きこんでいる。
 以前リオンが、自分の教師たちは自分に物を教えていて楽しかったはずだと豪語したことがあるが、実際にリオンに教え始めたジョカはなるほどと思う。
 リオンは知識の吸収力が半端でない。乾いた土が水を吸い込むように知識を吸収し、貯め込み、瞬く間に体系化して理論づけして頭の中で整理していく。

 物憶えのいい、極めて明晰な相手に、己の知る限りの知識すべてを教授するのは楽しかろう。王家の王子ではあるが、己の後継者を育てるような心地だったろう。
 ―――まあ、教え込み過ぎて知識が底をつくまでの間だろうが。
 教えるべきことが底をついてしまった後は、絶対に、苦労したに違いない。

 まあジョカには関係のない事だが。
 三百五十年を生きた彼の知識という水は大海にひとしく、その中の一滴二滴をリオンに垂らしたところで何の問題もなかった。

     ◆ ◆ ◆

 直時の時間になり、ジョカは馬鹿丁寧にリオンに声をかけた。
「リオンさま。昼のお食事の時間です。片づけましょう」

 目下、魔術師の寵愛を受けているたったひとりの人間は、書き物をしていた紙から目を上げると忘我のうちに流れてしまった時間の量に戸惑う顔を浮かべた後、急いで片づけ始めた。
 それを見ていると、あー成長したなあと、しみじみ感慨に包まれてしまうジョカである。

 なんせ、元はリオンは、「片づける」ということすら知らないツワモノであったのだ。
 元ルイジアナ王家第一王子。正嫡の第一王子であり、生まれたときから王冠が約束された存在であり、もっと言えば生粋の「おぼっちゃま」であった。

 それが判明したのは、リオンを王宮から誘拐してきてすぐのことであった。
 洋服は脱ぎっぱなし。体を拭くのに使った布も放りっぱなし。片づける素振りすらしない。
 少しは片づけろ、と苦言を呈したところ、「片づけ」って? と、斜め上の返答が返ってきたのであった。

 ……王族で、世継ぎの王子で、生まれたときから側に使用人が付いていて、何でもかんでもしてもらうのが当たり前の王子様は、生まれてこの方、一度も「片づけ」なるものをした事がなかったのである。

 頭痛と強烈な価値観の違いを感じながら、ジョカはリオンに片づけることを教えた。
 幸い、リオンはそこで、「自分が片づけるなんて!」とのたまうような頭はしていなかった。
 かしこく、物憶えもいい彼は、教わった通りに片づけて、それで一件落着……となったのだが、その後、再燃した。

 ジョカとリオンが住む洞窟に、机は四人掛けの食卓しかない。
 そこでリオンは書き物をするときには、必然的に食卓を使うしかないのだが……。
 リオンが書き物を始めた最初、がつんとジョカは雷を落とした。
「食事のときには紙を片づけろ!」

 テーブルいっぱいに紙が広がっている。リオンが書き散らした無数の書類だ。
 自分の手で物を片づけるという習慣がごっそり抜けているこの少年は、書類を散らかしたまま、その上で食事を取ろうとしたのである。

 幸い、ほんとうにさいわいなことに、リオンは一度言えば憶える。駄々をこねた事もなく、言えば素直にやる。だから同居する上で、さほど重大な障害とは言えない。

 むろん、リオンのせいではない。
 そういう教育を、受けてきたのだから。支配者層は、被支配者層とは違う常識で育つ。リオンの常識はジョカの非常識であり、ジョカの常識はリオンの非常識である。
 貴族などこんなものだ。ましてや王族、しかも次期国王としてちやほやされ放題ならこれが普通だった。
 むしろ、ジョカはリオンの適応力の高さに賞賛したい。
 れっきとした血統書つきの王族が、言われたとおりに体を動かしているのは驚きに値する出来事である。―――それをジョカは知っている。

 万人がリオンをちやほやする王宮から誘拐して連れてきたのはジョカだが、片づけるという行為を素直にやるリオンを見ていて、つい口にしてしまったことがある。
「王宮に戻りたいとは思わないのか?」
 リオンは振り返り、片眉を上げて挑発的に笑った。
「それで、この国は滅びるのか? 御免だな」

 王宮から誘拐され、監禁されて嬲り物にされている最中の王太子は、そう言って、言下に提案を却下した。クソ生意気な表情ではあったが、同時にとびきり魅力的でもあったことは、否定できない。
 ……つくづく思うのだが、リオンの神経は、極太に違いない。

 リオンがとんとんと紙を束ねて脇に置き、ジョカはその音で物想いからさめる。
 ジョカはテーブルの上の紙束を拾い上げた。

「あ……まだ途中だ」
「わかってる」
 リオンは現在、ジョカの知識を本にする作業にとりかかっている。今書いているのはその前段階の、覚え書きというべきものだ。
 三十枚ほどもある紙面をざっくりと斜め読みして、ジョカは唸った。

 ―――リオンが、その聡明さで王宮において賛辞と崇拝を一身に浴びていたのは知っているが……。
 ジョカがリオンに教えていない理論まで何で書いてあるんだ。
 ジョカが教えた知識を元に、推測補完して自分で理論立てしたとしか思えないが、おいおいおい。
 顔を上げると、滅多に見ない表情で、リオンはジョカを見ていた。つまり、ちょっぴり不安げな。
 教師の採点を待つ生徒の顔といえばいいだろうか。

「どうだ?」
 ジョカは正直に答えた。
「……お前の脳味噌、どうなっているのか見てみたい……」
「それは褒めているのか?」
「べた褒めですとも、ご主人様」

「……さっきからなんなんだそれ。どっちかというと、私があなたの従者だろう?」
 もう、虜囚と主人でも、被害者と加害者でもない。ふたりの関係は今のところほぼ対等と言っていい。ただ……ジョカの心理としては、リオンの従者に近い。リオンの方はその逆に思っているようだが。

「気に障るならやめるけど」
 さっくりといつもの口調に戻り、ジョカは片付いた食卓の上に昼食を広げた。
 見かけによらず、というべきか、リオンはかなりの大喰らいである。
 行儀作法は完璧なので、居並ぶ料理の数々が次々に胃袋の中に消えていく姿はただただ小気味いい。
 あれは誘拐してきて、一週間が経った頃だったと思う。

 リオンは誘拐されても、凌辱されても、ひとことも文句のようなことを言わなかったが、ひとつだけ頼んだことがあった。
 リオンは非常に言いづらそうに言ったものだ。「食事の量をもう少し増やしてくれないか」と。
 虜囚の身であることを自覚して、どんな仕打ちにも文句一つ言わずにいたリオンが、ジョカにお願いをしたのはそれが初めてだった。

 リオンは成長期であり、この年頃の少年の例にもれず、四六時中いつも腹が空いている。言えば即座に食事もしくはおやつが出てくる王宮暮らしの少年にとって、「空腹」というのは、なかなかに手ごわい敵だったようである。
 それ以来、ジョカは成人男子の食事量の五割増しをリオンに出すようにしている。

 リオンは出来たての美味な食事に舌鼓を打ちながら、食べていく。
 美味しそうに相好を崩して食事する最愛の相手を見やり、ジョカはふとさびしい気持ちになった。
 ……この才気あふれる少年は、いつまで側にいてくれる?

 ジョカは世界で唯一の魔術師だ。
 黒髪黒目の二十代の青年の姿で、三百五十年ほど生きている。
 リオンの旺盛な知識欲を満たしてあまりある知識の持ち主であり、なにより、魔法を使えるたったひとりの人間だ。
 ジョカは自分の持っているリオンにあげられるものをひーふーみーと数え上げる。
 リオンは賢い。今や世界でたった一人の魔法使いを味方にしている利点を、むざと捨てたりはしないだろう。いつかリオンがジョカに愛想をつかしても、その利点がある限り、側にいさせてくれるはずだ。……たぶん。

 リオンは今のところはジョカの手を拒まない。でも、いつか、リオンがジョカを疎んじたら、誰か好きな女性を見つけたら―――ジョカは、リオンを解放しなければならないだろう。
 それは、まあ、いい。
 物凄くつらいけど、がまんはできる。同性同士の関係など不自然なだけだ。男は女と結ばれるべきだ。
 ジョカはリオン限定で非常に都合のいい人間になれる自信があるので、リオンがジョカに別れを告げても力を貸す事については、何の不満もない。

 お前とは別れる、でもお前の力は使いたい。こんな都合のいい身勝手なことでさえ、ジョカはリオンが相手なら笑顔で受け入れる用意がある。
 何故と言って、ジョカの最も大きな望みというのは―――リオンの幸福なのだから。
 その次、二番目に、側にいたいという望みがある。

 だから、リオンの幸福の障害となるというなら謹んで身を引くし、同時に、側にいる権利を確保するために、「使い勝手のいい道具」でも一向に構わない。
 とどのつまり、ジョカはリオンに思いきり依存しているが、その逆はないのだ。気持ちの上で、高低がある。
 負けているジョカとしては、「ご主人様」と呼んで仕えてもいいぐらいである。

 食事が終わり、リオンは書き物を再開させると思いきや、ジョカの前に立った。
「リオン?」
「ちょっと聞きたい事があるんだが……」
「ああ、何だ?」

 リオンは勉強熱心で、ジョカとしても教師役をするのは楽しい。何か学術上の質問があるのだろうと思っていると、リオンの問いは別方向だった。
「私は、あなたの主人面するつもりなんてない。今まで、いろいろと、たくさん、手助けしてもらって、色んなことを教えてもらって、心苦しいんだが……、私は、あなたの主人なんかじゃなくて、恩に着せるつもりもなくて……ええと、だからつまり、あなたは私の願いを叶える義務なんてないんだ。あなたは私の頼みを何でも引き受けてくれるけど、私の頼みを、あなたは断る権利があるんだ。それを、わかってくれているか?」
 不器用な中にも必死さの伝わる言葉だった。

 可愛いなあ。
 つい、ジョカは手を伸ばし、顎に手を絡めてリオンの頬を指の腹で撫でた。リオンは動きを止めるが、振り払う様子はない。
 そのまま、体を引き寄せ、唇を重ねても、抵抗はされない。服の裾を割り、わき腹を撫で上げると、びくんと体が震えたが、それでも嫌がる様子はない。舌で唇を舐めると、待ちかねていたように応えた。

「ん……ン…っ」
 感じやすい体。愛撫に敏感に反応して温度を上げる。その、陶器のように滑らかな肌を楽しんで、手を引く。
 そして、ぎゅっと抱きしめた。
「ジョカ……?」

 軽いじゃれあいから最後までいくのも良くある話で、そのつもりでいたのだろうリオンは怪訝そうに声を上げた。
 幾度となく抱いた体。毎日のように体を開いていれば、性的な接触への抵抗がなくなるのは当たり前のことで。
 触れても嫌がられなくても、口づけに応えてくれても、―――そんなのは、好意の証明にも愛の証明にもならない。

 ジョカは腕を解くと、リオンを見下ろした。
「断る権利、ね……。むしろ、逆を言いたいな。もっと頼れ。お前は俺に、頼らなすぎる」
「はあ?」
 リオンが素っ頓狂な声を上げた。
「お前が、そうやって一生懸命勉強する必要も、あれこれ考える必要もない。おまえは、ただ、俺に頼めばいいんだ。なんとかしてくれと」

 それで、すべては解決するのだ。
 リオンは、唇を結んだ。
「お前は俺に我儘を言う権利も、頼む権利もある。おまえだけは、それを持っている。なのにまあ無欲なことだ」

「……一時の楽に流されて、苦労を先送りにしても、それは先送りにするだけのことだ。この国はそのツケを今支払っている最中だというのに、またあなたを使って先送りにするのか? そんな愚かな真似はできない」
 ジョカは肩を竦める。……ジョカに頼めば、すがれば、全てはたやすく解決する。
 その誘惑に耐えるのは、途方もない精神力がいる。

「おまえ、宝の持ち腐れって言葉知ってるか?」
 リオンは目を丸くした。
「ちったあ俺の力を効果的に使う事を考えろ」
 リオンは一瞬目を伏せてから、顔を上げた。

 挑む眼差し。アイスブルーの目が見返していた。
「―――考えているさ。嫌というほど。考えずにいられるほど、私は善人じゃない」

 ジョカはくつくつと笑う。使いようによっては、世界を左右できる力。
 その利用価値がわからないほど、この少年は馬鹿ではない。

「かしこく使え。―――お前のものだ」
 今までのところ、リオンはジョカにほとんど「おねだり」をしていない。
 リオンが魔法との距離を慎重に測っているのを、ジョカは察していた。魔法という途方もない慮外な力。理不尽ですらある力。天を、動かせる力。それを使用する権利を、このまだ十五歳の少年は与えられた。

 ひとこと、ただ頼めばいい。「頼む」と。
 それで、全ての望みは叶う。
 その危険性を理解しているからこそ、彼は軽々にジョカに頼まない。ほんとうに、賢いことだ。突然降ってわいた魔法の恩寵に、のぼせないのだから。

「……わたしのもの? ちがうだろう。あなたの力は、あなたのものだ。私のものじゃない。あなたは、私に道具のように扱われて、それでいいのか?」
「いいよ」
 即答に、リオンが絶句した気配が伝わる。
 ジョカはリオンに救われた。
 だからリオンの道具でいいと決めている。
 せいぜい五十年。ジョカがあの牢獄で過ごした時間を思えば、大した長さではない。

 ジョカは目を細め、言う。
「お前が欲しいもので、俺の力で手に入れられるものなら、何でも手に入れてやる。してほしいことなら、何でもしてやる。好きに使え。お前の権利だ」

  リオンの幸福。それが、彼の願いだ。



 主人公最強系の小説を見て思うのが、「よく道を踏み外さないよなー」ということ。
 平凡な人間が唐突に巨大な力を与えられたら、普通は力に振り回されると思うんですが……。
 リオンはそれが判っているので、慎重に距離をはかっています。

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Date:2015/10/27
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