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あかね雲

□ 黄金の王子と闇の悪魔 番外編短編集 □

不急不要な約束をするのはやめましょう 1


時期的に三巻と四巻の間です。
同人誌を読んでいなくても問題ありません。

ただただふたりがいちゃついているだけ(笑)の小話です。
リオン女性化、エロ有りなのでご注意!





 ジョカは魔法使いである。
 今となっては、世界に唯一にして無二の、魔法という不思議な力を操る存在だ。
 空を飛んだり、物を虚空から取り出したり、自由自在に神秘をふるう。
 ――そしてそんな不思議な力を操る彼は、いかにも絵本で魔法使いの老婆が出しそうな、怪しげな素焼きの器に入れたものを差し出して言った。

「リオン、たのむ! これ飲んで!」

「…………」
 リオンは黙って怪しさ大爆発のそれを見下ろした。
 色は、これぞ毒薬!ということを全身であますことなく主張してやまない緑色である。それも、遥か東洋から伝わる茶のように清々しい緑色ではなく、濁って、底が見えない、どぎついミドリ。

 湯気は、何故か、青い。
 青い湯気などリオンは生まれて初めて見た。いや、それ以前にこんな絵の具をぶち込んだような緑の液体も初めてだが。
 器は、粗末な素焼きの、あまり底が深くなく、口が広いタイプの器である。ともあれ、比較的まともな品であった。……単品で言えば。
 中に入っているシロモノがあまりにアレなもので、到底まともに見えないが。

 ともあれ総合的に言うと、乾き死寸前のところに差し出されたとしても、口を付けることに熟慮を要する品であった。

「……なんなんだ、これは」
 先日から、ジョカは家―――犬小屋のような狭さの洞窟―――の拡張に精を出している。
 それ自体は、喜ばしいことである。住環境の向上はリオンとしても嬉しい。
 そしてできた厨房(?)にて、先日からジョカはごそごそと何かをやっていた。

 なぜ?マークがつくかというと、リオンは全く料理のスキルを持たないし、ジョカも料理をしているところなど見たことがなく、料理はすべて窃盗……もとい借金の取り立てで、その一角は、竈はあるのだが周囲に机やら怪しげな壺やら本やらが散らばった謎の空間となり果てているからだ。

 リオンの質問に、ジョカは答えた。
「女性になる薬だ!」
「―――そんなもの誰が飲むかッ!」

 リオンの反発はジョカも予想の上だったらしく、うんうんとジョカは頷いて言った。
「いいか、リオン。話を聞いてくれ。そして懺悔を聞いてくれ」
「………………わかった」

 ジョカは無闇に胸を張った。
「俺は、おっぱい魔人だ!」
「…………そうか」
「ぱふぱふが好きだ!」
「………………ああ、そう」

「でもできない。リオンに胸がないから!」
「当たり前だ!」
「リオンに不満は何もない。でも俺は、俺は、おっぱいが大好きなんだ!」
「………………そーかそーか」
「でも他の女という選択肢もできない。リオンを裏切りたくないから! 不満はない。でも時々、むっしょーにぱふぱふしたくなる!」
「…………」
 リオンの蒼い双眸の温度は下がりに下がり、霜が下りないのが不思議なほどであった。

「リオンを裏切りたくもない。傷つけたくもない。でも! ああでも! 男としてあの女性のほーまんな肉に埋もれたいという欲求がときどき、我慢できないほど強くなる!」
 どんな馬鹿でも、ここまでくれば怪しげな薬との接点を見いだせるというものだ。
 リオンの眼差しは、極北の嵐にも匹敵した。
「だから俺は考えた! リオンを裏切らず、おっぱいへの欲求を満たす方法を! そして毎日研究室で思考錯誤を繰り返し、やっと作り上げた!」
 あの部屋は厨房あらため、研究室だったらしい。

「というわけで、コレ! だいじょうぶ、せいぜい三日で元に戻る。副作用は何もない。頼む、飲んでくれっ!」
「誰が飲むかッ!」
 最初のセリフとまったく同じセリフをリオンは叫んだ。
 この反応は、ジョカの予想外だったらしい。首をかしげ、意外な表情になった。

「……嫌なのか?」
「イヤだ」
 当たり前だろう、という意志を込めて睨みつける。
「リオンがどーしても嫌なら諦めるけど、嫌か?」
「嫌だ。……大体どうして私がそんな怪しい薬を飲むと思うんだ」

「女装してくれると以前約束したと思ったが」
 リオンは、不幸なことに、もう何年も前で、すっかり忘れていてもおかしくないその約束を憶えていた。忘れていたのなら、恥知らずにも堂々と「そんな約束した覚えはない」と言えるのだが。
 リオンは、動揺した。
「……っ。それは、まあ、いずれな。女装とそれは違いすぎるだろう」

 ジョカは首を傾げた。
「意外だな。借りっぱなしはリオンの趣味じゃなかったと思うんだが……」
 今度こそ、リオンは致命的な打撃を受けた。

 その通り。
 人間関係はギブアンドテイクが基本で、健全だ。さて翻ってみると、リオンはこの間から散々ジョカの世話になっている。―――そもそも、リオンの生活能力は無に等しいので、ジョカの力がないとたちまち毎日の基本的な衣食住にさえ窮する。

 ジョカはにこにこと微笑んで薬を差し出している。
 ジョカもリオンの性格は知っている。
 あまりにも分の悪い―――盤上の競技で言うなら、詰み、の状態に等しい勝負である。

 ここで恥知らずにも、「そんなもの知るか」と言えるかどうか、という勝負なのだった。散々世話になった、その恩返しの機会に、「やりたくない」と言えるか、という。
 結果は、火を見るより明らかだった。
「―――かせっ!」
 リオンはジョカの手から薬を奪い取ると、一息にあおった。
 味は、意外にも悪くなかった。






まずい相手に下手な約束をすると命取りになります、気をつけましょう(笑)。
ジョカが言う約束とは、本編七話「裏切りの覚悟を」でした口約束のことです。


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Date:2015/10/28
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