性描写がありますご注意!
光に包まれ、何とも言えない感触が数十分続いた。
誰かの手に、体を引き延ばされ揉まれ作りかえられている―――といった。不快ではない。マッサージのようなものだ。だが、快いとも言い難い。
その光が収まると、リオンは女性になっていた。
女性の肌は、その下の皮下脂肪と不可分だ。だから女性は柔らかく、丸みを帯びて、抱きしめると得も言われぬ感触になる。
リオン(女)も例外ではない。首も、腕も、肩も、何もかもが違う。
見下ろした腕は構造的に言えば男と同じはずなのに、はっきりと「女性の腕」になっている。
視点は、少し低くなった。
ジョカが感極まったように言う。
「リオン、すげー美人!」
「そうか?」
そう言われると、悪い気は―――しない。
「鏡あるか?」
「はいはい」
ジョカが等身大の鏡を取り出す。足が付いていて、立つタイプのものだ。
そこに自分の姿を映して、リオンは言葉を失った。
……父も、こんな気分だったのだろうか。
きっとそうだろう。
リオンは母に生き写しとよく言われた。母は、こんなだったのだ。
こんな―――黄金の女神のような。
顔立ちは端正で気品があり、双眸には強い意志に裏打ちされた知性がうかがえる。リオンの髪は短いが、それでもその美しい黄金の輝きに目を奪われる。張りつめた細い首すじから下を自然と目が追う。男の目線が豊かな膨らみをなぞり、きゅっとくびれたウエストの対比が欲望をそそる。無粋な白のブラウスとズボンが惜しい。ドレスを着せたら、さぞ―――そう、夜会の出席者全てが見惚れるほどの美しさだろうに。
全体的に、一回りほど細身になり、全身が丸みを帯びている。幾分縮んだが、背は女性にしてはかなり高い方だ。その点は母とは違う。母は普通の身長だったと記憶している。
一国の後継者だった父が、中小貴族の母を選び、宮中はそれにさしたる反対もしなかった理由が、リオンはようやく理解できた。
美は力だ。
母は美の力で宮廷を制圧し、その力で皆を黙らせたのだ。
リオンは意志の力で鏡から目をひきはがし、頼んだ。
「……ジョカ、ちょっと……片づけてくれ。精神衛生上悪い」
ジョカはすぐに言われたとおりにしてくれたが、リオンの様子に不審を感じたのだろう、たずねてきた。
「どうしたんだ?」
「あまりにも、傑出した美女ぶりで……自分が怖い」
いかに、体が女になろうと、意識は男である。鏡の中の美女を自分と思えないだけに、かなり本気で見惚れた。そして、理性が急ブレーキをかけたのだ。
―――これは、じぶんだ、と。
リオンはナルシスにならう気などない。自分で自分に恋するなど、阿呆にさせればいいのだ。その仲間入りをするなど御免こうむる。
「あーなるほどー。うん、そうしてくれると俺も助かるな。恋敵が恋人自身だなんてシャレにもならん」
そう言って、にんまりと、笑った。
視線はリオンの凶悪に膨らんだ胸に注がれている。
「……この、変態っ!」
「変態? どこがだ。おっぱい好きは正しい男の道だ! おっぱい好きでない男などこの世におらん!」
無駄に正々堂々かつ自信に満ち溢れてジョカは断言した。
さすが女好きを公言するだけあると言うべきか、一切迷いのない断言はいっそ見事であった。
リオンはちょっと言葉に詰まった。……リオンも、女性を知らないわけではないので。
―――女性は肉付きがいいほうがいい。
カザにそう語ったことも思い出す。……いや、まあ、リオンだって嫌いではないのだ。
リオンは目を下にやる。
絹のブラウスが、きつかった。
自分の胸にこんなものが「生えて」いるのに違和感はもちろんあるが―――もうなってしまったし仕方ない。開き直ることにする。
きつい胸の釦を外すと、圧力から解放されて、胸の部分がやや開く。下の釦があるので完全には開かない。だがそれも、一列すべて外してしまえば別だった。
握りこぶしほどの隙間をあけて、ボタンとボタンホールが離れた。
そのままブラウスを脱ごうとして制止がかかる。
「リオン待った! そのまんま!」
「このまま?」
ジョカは、きらきらと輝く少年の様に純粋な瞳で頷いた。……純真さの使いどころを間違っているような気がしてならないが。
「そう! で、…………触ってよろしいでしょうか?」
客観的に見て、かなり、大きい胸だ。肌はしみ一つなく、真っ白で、リオンも正直これが自分の体でなければ賛美を惜しむまい。……自分の体でなければ!
「……どうぞ」
アキラメの心地でリオンは頷く。
ジョカの手が慎重に胸に触れた。
―――う。
未知の感触にリオンは息を一瞬止めてしまう。強いて言えば、二の腕の内側の肌を不意につかまれたような。やわらかく無防備な個所を、自分の意志によらない「異物」がふれる、その感触。
最初は慎重に、だんだん大胆になって、ジョカの指が胸にめりこむ。揉まれる。やんわりとさすられ、布ごしに先端をつままれる。手のひら全体を使って、揉みしだかれる。
「ジョ……ジョカっ!」
我に返った顔。
さっさと済ませてしまおうと、リオンはその頭を捕まえて自分の胸に押し付けた。
なんせ人生初体験(当たり前だが)なので、今いち加減がわからないが、ぱふぱふってこんな感じだろうかと、ジョカの顔を白い胸に押し込んで両脇から胸を弾ませる。
「……あー、なんか、俺、今すごく満たされている。癒されてる……生きててよかった……。感触もだけど、リオンの肌って、すげーいい匂いがする……」
「この……おっぱい魔人が!」
キィが高い、女性の声が室内に響く。
リオンははっとして喉を押さえた。その、一回り細くなった手をとられ、寝台に押し倒された。そのまま、ジョカは鎖骨に顔を埋める。
鼻息が荒い。何をされるか、直感的に理解した。
「ちょ、ま、まてっ!」
「あのな、この状況で待てるようなら男じゃないぞ」
胸の先端を口に含まれ、その、生温い感触に背筋をそらせる。
額から鼻梁、唇から頬、耳からその下、首すじをたどる唇の感触。
「あ……く、ぅ……ぁっ」
舐めたり、吸ったり、軽く噛んだり。
組み敷かれ、刺激を与えられるたび、声はとめどなく出てしまう。
快楽にかすむ頭で必死に考えた。
快楽には、慣れて、いる。でも、いつもより、ずっと―――。
「やっぱ、女性の体は、感じやすいな……」
「ジョ、カ……」
下腹部がじんじんする。熱い。ジョカの手がズボンにかかり、下着ごとあっけなく脱がされる。
太腿を閉じようとしたのを膝に手をかけられ、あっさり開かれた。
「あ―――あ」
リオン自身、未知のそこ。自分にそんなものまで出来たのかと、ジョカ特製の薬の完璧さを恨みたい部分に、頭がある。ジョカの頭が、体が割り込んで、足を閉ざさせてくれない。
舌が、リオンを翻弄する。未知の性感を呼び起こす。男性器を刺激されたときとはちがう、もっと、直接的で、容赦ないこれは―――。
「うっ、う―――」
口を閉ざす努力はとうに放棄した。手にその役目を負わせる。
ジョカが唾液をからめ、濡らし、猫のように音を立てる。ぴちゃぴちゃと。
「あうっ!」
「……狭いな」
指一本、それだけでも痛みをおぼえる。
「ジョカ……やだ、やめ……」
涙目で訴えると、ジョカは興をそそられたようだった。
「リオンのそんな顔は、初めて見るな」
ケダモノの魔法使いが、そんなことで解放してくれるはずもなく。
「すごく、興奮する」
にやりと笑って、中にとどまったままの指がぐるりと動いた。
魚のように、体が跳ねる。
そして、もう一方にも。
「あっ、―――あ」
「俺のをよく、銜えこんでいたからかな? こんなに、ここで、感じやすいのは」
羞恥で全身が熱い。快楽を得られるように作り変えられた体。作り変えた本人がいう言葉ではないと睨むと、それもまた愉しいとジョカは笑う。
もう勝手にすればいいと、諦めてリオンは体から最後の力を抜き、目を閉じる。
……丁寧な愛撫だった。
愛情が、伝わってくるような。
細やかに動く手と、指と、舌と、唇による、全身にいたる愛撫。
じっくりと時間をかけて馴らし、体を蕩けさせてから、最小限度の苦痛で、受け入れさせた。
その瞬間は、口唇を合わせ、深く舌を絡めながらだった。
吐息も、小さな悲鳴も、すべてジョカが吸い取った。
ゆっくりと腰を揺すられながら、湧き上がる感覚に身を委ねた。
―――知っている。
この感覚を、知っている。体の奥を突かれ、うがたれ、満たされる快感を知っている。
いつの間にか解き放たれた唇から洩れるのは、喘ぎ。
誰が聞いても、それ以外の物には聞こえないだろう、快楽に浸る声。
自分の物とも思えない、甘ったるい女の声だ。
わかる―――自分の体は、組み敷かれ、征服されて、悦んでいる。濡れている。結合部から水音が響く。それが恥ずかしく、恥ずかしさがまた体を熱くする。
「あ……ああっ!」
ぎしりと寝台がきしむ。
ジョカがリオンの体を組み伏す角度を変え、より乗り上げてきた。両手をリオンの胸の隣において体を支え、足をより大きく開かせられる。
ジョカのものの角度が代わり、それさえも快楽を呼び覚ます呼び水となる。
「ひ、い、あ、ああっ! あんっ!」
深く、深く、突かれる。体が揺れる。寝台がぎしりぎしりと揺れる。
「やっ、あ、やめっ、ジョ、カぁっ!」
どこまでも熱くなる体。早くなる呼吸。やがて臨界点に達する。
体の奥に熱い飛沫を感じ、頭が白くなった。
―――ジョカは、やはり、「手加減」していたらしい。
女性の体で、初めての性交渉をするリオンのために。破瓜の痛みが無に等しいものになるよう。自分の欲望を抑え、リオンの快楽に奉仕することに徹した。
……ただそれも、一度目の繋がりまで。
二度目からは、ジョカは手加減を捨てた。容赦も捨てた。今度、奉仕させられるのはリオンの方。
「……この、ケダモノが」
まだ呼吸が整わない姿で寝台に横たわり、リオンはそう吐き捨てた。
ジョカはリオンの胸を枕にして、その枕に顔を埋めている。おっぱい好きだと臆面もなく主張するだけのことはある言行一致ぶりは誠に正直で清々しい……ことはまるでない。
ジョカは胸に顔をうずめたまま答えた。
「ん? 俺は昔からケダモノだけど。特にリオンには」
「ご―――五回もして」
「すっごく気持ちよかった。リオンは気持ちよくなかったか?」
言葉に詰まってしまうのはそれが否定できないからだ。
良くない! と言えれば楽なのだが、ジョカは誰かと体を重ねることの意味を誤解したりしない。
―――愛しているから、するのだと。
愛情の発露としての、肌の触れ合い、繋がりなのだと。
その辺りを間違えたりしないから、独りよがりな自分さえよければいい的な行為をしない。
強引ではあるけど乱暴ではない。趣味嗜好はあるけどリオンを傷つけたりしない。
だから―――リオンはいつも、ジョカに流されてしまうのだ。
「……よくない、ことは、なかった、が……」
ぶっちゃけいうと、とても良かった。
女は男よりずっと感じやすい。その女性の体の悦楽を、与えられるがまま貪り尽くした。
リオンの体は背中も表もジョカのつけた痕跡だらけだ。
「そっかー。よかった。三日後には薬切れるから、それまではいっぱい気持ちいいことしよーな」
「う……、ん」
「明日は後ろも使ってみよう!」
あっけらかんとして言ったジョカの頭を、リオンが一発殴ったのは言うまでもない。
ジョカ……なんて欲望に忠実なヤツでしょうか(笑)。
ジョカ女性化バージョンの時に、しっかりやり返されますが。
因果は巡るものですね!
この後にオマケにもう一話、付け足しました。
リオンが女性になったら、皆さま「アレ」が見たいですよね。お約束ですよね。ジョカももちろんそうだったのですが……?
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