あかね雲

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□ 勇者が魔王に負けまして。 □

1-15 目を背けていた真実は、いつも醜い



 幻覚だ!
 そう叫ぶ心の声もむなしく、少女は断崖を滑り落ちた。

 コリュウの死に動揺する一瞬に、突き落とされたのだ。
 魔法の深みにあるのは、最も出会いたくない記憶と、その奥の、目を背けていた、真実。

 これは幻だ! 
 それは判っているのに、抜け出せない。
 逃げても、逃げても、追ってくる。

 ……それは、故郷の村が滅んで、半年ほどした日のこと。
 竜使いとして名を上げていた彼女は、ある日、一人の男と出会った。
 同じ村で、名前を知っているはずの彼の名は、思い出せない。

 彼女の村は、大型の魔獣に襲われ、滅んだ。だが、全員が死んだなんて事は「ありえない」。
 それぞれてんでばらばらに逃げ去って、何人生きているかは判らないが、数名の生存者はいる筈だった。
 他の村人が襲われている最中、がむしゃらに逃げだした人間たちが。

 ―――その竜がいれば、みんなを救えたんじゃないか?
 彼は、冒険者として生活している少女を見て、そう言った。
 胸に突き刺さったのは、それが、根も葉もない言いがかりだったからではない。

 事実だったからだ。

 コリュウはあの魔獣には勝てないだろう。けれども、他のみんなが逃げる間を稼ぐぐらいはできただろう。
 村は滅びずに済んだかもしれない。
 半壊程度で済み、彼女は今頃、村人として村の復興の手伝いをしながら、生活できていたかもしれない。
 ―――彼女が、怯えなければ!

 そう、あの日、彼女もまた、他の村人を見捨てて逃げ出した一人だった。
 恐怖に駆られ、無我夢中で逃げた。
 コリュウは、それを助けてくれた。コリュウは短い距離なら少女を捕まえて空を飛べる。
 だが、逃げなければ、多くの人を救えたはずなのだ。彼女さえ、冷静に、他のみんなを救おうとしていれば!

 怖かった。助かりたかった。怖くて怖くて、それ以外の事を考えられなかった。
 今の彼女なら、恐怖をおさえて敵に立ち向かう術すべを知っている。でもそれはその時の彼女には……できなかったのだ。
 鬱屈する彼女は、それでも冒険者として仕事をこなした。

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」
 心に、光が当たったように感じた。

 手を握られ、涙ながらに何度も何度も口にされる感謝の言葉。それは、少女の奥底を暖め癒した。
 仲間を見捨てて逃げ出した卑怯者、どす黒い心の少女を。

 感謝されたかった。
 ありがとうと言われたかった。
 その言葉を得ることで、少女は、魂が震え浄化されていくのを感じた。

 村を見殺しにして逃げた自分。
 両親も友達も誰一人として救わなかった自分。
 故郷、両親、全てを滅ぼした、自分。
 唾棄すべき最低の人間である自分に、ありがとうという言葉と気持ちをくれるひとがいる。
 彼女はその言葉を欲した。
 砂漠で水を求める旅人のように、無我夢中でそれを得ようとした。

 ―――だから、彼女は、人助けを趣味とするようになった。

 高尚でも、なんでもなかった。どこまでも、自分のためだった。
「―――最低な人ですね」

 どこからか響く涼やかな声が、彼女の罪を糾弾する。
 やめて。

「これほど身勝手な理由も珍しい」
 やめて。

「これほど薄汚い動機も珍しい。そんなことに、あなたは自分の仲間を巻き込んで、自己満足の戦いをしていたわけですね」

 やめて――――――――――――ッ!
 魔法の檻に囚われた少女には、脱出の方法がない。死ぬまで、死よりも過酷な心の痛みが彼女を苛むのだ。


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Date:2015/10/29
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