「……なるほど。あなたのお気に入りの部下であり、前魔王の息子、ですか。そんな立場なら、まだ父親が魔王だった頃に継承の部屋に入る事も可能だったでしょうね。そして、更にまずいのが―――」
「俺様にそれを知られたということをあいつも知っていること、だな」
マーラの言葉に、魔王も頷く。
半日後、秘密裏に、会議が開かれた。
列席者は、魔王、少女、マーラ、パル(少女の胸ポケット)、コリュウにダルクである。
「クリスを取り逃がした以上、彼も自分の背反がばれたということを察知しているはずです。現に、彼は姿をくらましたままだ」
「……それ以上に、問題なのは、あの男が通行印を持っている、ってことよ」
半日眠り、目を覚ました少女が言う。
「あの男、彼らの生息地に、この十年一体どんなことをやらかしたのか―――」
魔王も、苦い顔だった。
「……通行印を持つ者しか、あの地へは行けないからな。ここで何を語ろうが、単なる推測だ」
「―――ねえ。彼らって、だれ?」
コリュウが無邪気に問いかけ、その場の全員が固まった。
……魔王はもちろん、少女も、ダルクも、マーラも、パルも、実は気づいていた。
でも、暗黙の了解で、口に出さなかったのだ。
だが、生後十年も経っていないドラゴンであるコリュウは気づいていない。
少女が、魔王に目で問いかける。話していいか、と。
了解を得て、少女はコリュウに語った。
「ユニコーンよ」
「え?」
「ユニコーン。伝説の幻獣。乙女にしか心を許さず、そのツノは万物を癒す万能の薬となるゆえに狩られ、滅んだとされた、幻の獣」
「え……? なんでそのユニコーンが、ここに?」
「数代前の魔王がな、匿ったんだ。そこへ行くには迷宮を抜けるか、あるいは通行印を持つ者だけってことにしてな。世間では乱獲で滅んだとされたが、ここで、ひっそりとユニコーンたちは隠れ住んでいた」
「ユニコーンの角は、超高値で取引されるわ。―――魔王。あなたの部下、だいじょうぶ? あの男がユニコーンの生息地に自由に出入りしていた以上、巨額の資金があったということよ。あなたの部下は、買収されていない?」
「うーむ。……魔王協会統一法第一条を憶えているか?」
「え、ええ。もちろん」
「魔王は、いかなる者の挑戦をも受け付ける。部下が魔王に刃を向けることなど、日常茶飯事というものだ。造反するならするで、別にかまわんな」
これぞ魔王の度量という発言に、男性陣は感銘を受けたようだった。
が、男と女では情動の回路がちがう。
少女は無言で手を伸ばし、魔王の頭を一発、殴った。
「きさまっ、本気で殴ったな! お前に本気で殴られると俺様でもちょっと痛いぞ!」
「あなたねえ……時と場合を考えなさいよ!」
その傍らで、仲間たちがぼそぼそと相談する。
「……何で生きてるんです、彼」
「……さすが魔王、ってとこか? 俺も頭に無防備に一発食らったら死ぬぞ」
「鉄板素手でへこませるクリスの拳、ドラゴンのボクでも痛いのに~」
人間やエルフが食らったら死亡確定、魔族でもほとんどは死亡、並はずれて頑健な魔王だからこそ笑い話になるレベルである。
「平時なら潔いってことで終わりかもしれないけどっ! 今は違うの! あの男が通行印を持って、ユニコーンたちにどんな悪逆非道をしているのかわからないのよ!? 何カッコつけて裏切られても別にいい、なんて言ってんのよ! 死なないよう最大限の努力をするべきでしょうが!」
「まったくですねー」
マーラが暢気に言う。だが、その目は笑っていない。扉の方を見ている。
少女は気づいた。ダルクも、コリュウも。
「この城で、魔王以外に、私より魔力の高い者はいません。ですが、人海戦術は、驚異です」
魔力は絶対値ではなく、足し算だ。
魔王の張った結界を、彼らが三人がかりで破ろうとしたように、卓越した術者の結界でも、数が集まれば破る事が可能だ。
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