三人はマーラ達のいる部屋まで後退すると、まず治療した。
隠蔽魔法は無敵のようで致命的な欠点がある。一度行動すると解けてしまうのだ。だから魔王は攻撃した瞬間姿が戻ったし、あの青年に火球をぶつけたパルもしかりだ。
「癒しの風!」
マーラの魔法に、切断された手が元通りになる。魔王もこれぐらい自分で出来るのだが、少女やコリュウの傷を癒す「ついで」である。
「これからどうします? 魔王」
敵がこの部屋に突入してくるまで後一分もあるまい。
魔王は素早く決断した。
「一旦避難して体勢を立て直す。隠し通路がある。こちらに来てくれ」
こうした古城伝統の隠し通路に魔王は案内した。部屋の本棚の陰にスイッチがあり、それを押すと鍵が開き、しかるのちに壁を叩くと一部が回転して扉となる。
「城の外に通じている」
魔王が先頭に立って先導する。横幅は狭いが天井はそこそこ高い。長身の魔王も余裕で進めるほどだ。
全員入ったところで入口を閉める。容易には、発見できないだろう。
普段閉ざされている石づくりの通路なので、必然として湿っぽく、カビの匂いがした。
マーラが尋ねた。
「そういえば……あなたはまだ、魔王、なんですか?」
「まだ魔王だな。くそ、あいつめ。油断した。次はけちょんけちょんしてやるから見てろよ」
少女も口を出した。
「どういう状況だと、魔王が交代になるの?」
「今みたいに、不意打ちなんかの場合だと、明確な証拠がないと駄目だな。この場合、明確な証拠っていうのは、魔王の死なんだが」
「ふーん……」
「不意打ちでないときは、魔王の使い魔がその挑戦を見届ける。使い魔は戦闘の映像を全ての魔王に届ける。その時は、各地の魔王自身が証人だからな。魔王が負けを認めた時点で負けだ」
「ああ、あの使い魔ってそういうこと」
少女は自分たちが挑戦したときの事を思い出し、納得の声を出した。魔王は少女に微妙な眼差しを送る。
「―――あの使い魔の主目的は、そんなものじゃない。監視だ」
「かん、し?」
「観察、と言った方が正確か。―――魔王を倒すほどの勇者パーティが、次々魔王を陥落させていったら困るだろう?」
「手の内を、知ることで対策を立てるのね……」
「そういうことだ。どんな魔法も、攻撃も、万能はないからな。必ず穴がある。魔王と戦うからには、力を温存などしてられん。ありとあらゆる隠し玉を放って全力で戦わねば勝てん。たとえば、俺様やお前の持つ魔剣」
魔王は足を止めないまま、首をねじって少女を振り返った。
「聖属性に対してはひどく弱い。となれば、対策を立てれば簡単だ。魔族は聖属性魔法を扱えんが、エルフか、神官を招聘して、魔法を一回分、購入しておけばいい。そうしておけば、魔剣を持っていることはむしろ弱点となる。
……魔剣はあまりにも強すぎて、他の予備武器を用意しようなんて思った事もなかっただろう?」
「……ええ」
重いし、邪魔だ。
だが、それが欠点となる。普通の武器ならば冒険者は心得として武器の損傷を考えて必ず予備を用意しておくものだが、魔剣の所有者は用意していない。魔剣が折れたらそれまでだ。
「魔剣は、聖属性魔法をくらうと、丸一日は休ませてやらんと折れるぞ。憶えておけ」
「……ありがとう。心するわ。その…、知らなかった。これから気を付ける。ありがとう」
「前もって手の内を知っていれば、準備ができる。準備ができれば、殺せる。力の問題じゃない、相性の問題になる。同じほどの力で、相手だけが弱点を突けば、負けるにきまっている」
少女たちは、納得がいった表情になった。
かつて、魔王を陥落させた勇者パーティは何組かいた。
だが、二名以上の魔王を陥落させた者は一人としていない、その理由がわかったのだ。
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