少女は、俯いて、考えていた。
仲間たちはそれを待つ。
今度の事は煎じつめれば魔族内のゴタゴタで、彼らは部外者で、無関係だ。
無事、種も手に入れたし、外へも出られた。ならもう関わる意味も必要もない―――それが、普通の考えだ。
だが、仲間たちは知りぬいていた。
少女がどういう「馬鹿」なのかを、よく、知っていた。
一つ間違えば親切の押し売り、ただの迷惑だが、不思議なことに、少女は本当に迷惑と感じている相手と、こちらの事を気遣って拒絶しているその区別を間違えた事はない。
だが、今回の逡巡は、長かった。
「あ、あのね……みんな。みんなに、謝らなきゃいけない事が、あるの」
少女は泣きそうな顔でそう言い、仲間たちは少女の周囲に集まる。
「ご……っ、ごめん、ね。わた、わたし……わたしが、お節介するのは、理由、があって……」
少女は泣いていた。驚きにかたまる仲間の間で、いち早く動いたのは、コリュウだった。
コリュウが少女の肩にとまり、その頬の涙を舌でべろんとする。
そのぬくもりに慰められて、少女は言葉を紡ぐ。
「わ、わた、し……人を、殺したの。友達も、知り合いも、両親も、殺したの……」
その言葉が一同にもたらした衝撃は、小さくなかった。
少女は嗚咽に細い体を震わせながら続ける。
彼女がまだ、十八歳の少女なのだという事を、突きつける姿だった。
「だ、だから……だから、人を、助ければ、こんなじぶんでも、いきてて、いいんじゃないかって……。人に、感謝されたくて……。人を、助けて、そうすることで、罪が、清められるような、気が、して……」
少女は顔を上げる。涙でくしゃくしゃになり、お世辞にも美しいとは言えない顔だった。
「だから……ごめんなさい……。わたし、勇者なんかじゃないの……ただの、人殺し、なの……」
「―――それが、なんだというんだ?」
ダルクが本気で不機嫌そうな顔で、少女に言う。
「お前がやってきたことが、だから無になるとでも? 感謝の気持ちを求めて人助けをするのは下賤だとでもいうのか」
「そのとおりだー!」
パルが少女の胸ポケットから声を張り上げる。
最前の告白は衝撃だったが、彼らの間には一緒に旅する間に培ってきた信頼があった。仲間たちは全員、彼女がそんなことをするはずがない、きっと何かの事故か、過失でそうなってしまったのだろうと信じたのだ。そして、それは正しかった。
「いいですか、クリス。人は、人助けをするとき、いろんな理由で助けるものです。人に感謝されたい、というのもその一つ。ちっとも恥じるべきことじゃありません。じゃあ、感謝されたくて人助けする人より、人助けしない方が、いいんですか?」
それは彼女の胸の中央に、ぐさりと突き立った。
「で、でも! 私は、それを私一人がするんじゃなくてっ、みんなを巻き込んだ……」
「でも、ボクはクリスといて楽しかったよ」
コリュウの飾りのない言葉が、少女の反論をふさいでしまった。
「ボクは、クリスと一緒に冒険して、一緒にみんなに感謝されるの、ちっとも嫌じゃなかったよ。みんなは?」
「右に同じ」
「同感」
「その通りだ」
賛同が返る。
「本当に嫌なら、みんなどうにかしてお前の元から逃げている。俺たちは、好きでお前に従っているんだ。気に病むことはない」
「……ほんと? で、でも……これから、頼む事は、すごく、すごく、危険なことで……」
仲間たちは、一斉にため息をついた。
少女の頼みごとの見当がついていない者など、ここには一人としていない。
「何度も言いますよ。嫌なら、とっとと、どんな手を使ってでも逃げてます。……だから、ほら。言いなさい?」
マーラが優しく促し、少女は仲間に頼んだ。
「魔王をたすけたいの……ユニコーンを救いたいの! おねがい……力を貸して!」
ダルクが、ぽんと少女の頭に手を置いた。
「合格」
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